第四十九話:「妨害工作⑤」
『なるほど! では、桜井さん自身の恋愛話はないのでしょうか?』
アナウンサーが、ニコニコ顔で桜井さんへと問いかける。
『わ、私の話ですか……』
画面の中の桜井さんは、下を俯くと考え込んでしまった。
桜井直人さんを見送った俺は、画面へと向き直ると考え込む桜井さんを見つめた。
先ほどとは違い、思案しているようだ。
一体彼女は何を考えているのだろうか……。
その後、10秒程経つと、彼女は前を向き口を開こうとする。
その時画面脇から声がした。
『はい、CMはいります!!』
この声により、スタジオの緊張感が解れる。
見学しているお客さんががやがやと騒ぐ中、アナウンサーが桜井さんと話している。
俺は、画面の横のスピーカーから聞こえるアナウンサーの声に注意を向ける。
どうやら、「コマーシャル明けからは先ほどの質問の回答から始めます」という事務連絡をしているようだ。
それを聞き、安堵した表情の桜井さんは朗らかに口を紡ぐ。
答えを準備する時間ができて、安堵をしたようだ。
それから1分程経ち、画面の横からまた声がする。
その声により、お客さんが静まる。
『それでは本番入りまーす!! 3、2、1、スタート!』
カウントにより、一転きりりとした表情になった女性アナウンサーは、先ほどの質問を繰り返した。
『では、河合エレクトロニクスさんで働いていた頃の、桜井さん自身の恋愛についてお聞かせ願えますでしょうか』
『はい。実はあまり良い思い出はありません』
彼女は真面目な表情で口を紡ぐと、話を続ける。
『入社して暫くは、私は合コンや街コンに良く行っていました。しかし、良い人には全然出会えませんでしたね。おかげ様で先ほどの同僚2人にもずっと愚痴っている始末でした』
桜井さんは、ばつが悪そうな顔で話を締めくくる。
女性アナウンサーは彼女の話を聞くと、興味津々に話を深堀りする。
『なるほど。なるほど! とすると、今の旦那さんとはいつ頃出会ったのでしょうか?』
『私の旦那……直人とは、12年前に合コンで出会いました』
桜井さんは思い出すようにゆっくりと喋る。
その顔はニコニコ顔だ。
『街コンで出会った時、ビビビッと来てしまったのです。私の一目惚れでしたね』
桜井さんは、表情豊かに話を続ける。
まるで人間のように……。
「全然ぼろをださないな……」
俺は呟く。今までのやり取りを見る限り、人間味溢れる発言しかしていないのだ。
予定通りの行動を示さない桜井さんに若干イラつきながらも、俺は画面を凝視する。
「まあ、直人さんの登場でどう反応するかだな……」
俺はほくそ笑む。
流石に彼の登場でぼろを出すだろう……。俺は算段を踏んでいた。
『そうですか。そうですか……』
女性アナウンサーは、うんうんと相槌を打つ。
そして、彼女は急にきつい目線になると、口を開き始めた。
『桜井響子さん。最近直人さんと会っていないそうですね! 直人さんから協力の打診がありました。なので、今回直人さんと桜井響子さんが面会できる場をセッティングいたしました』
その声を聞き、桜井さんが「えっ?」という表情へと変わる。
そんな表情をしたのもつかの間。画面が暗転すると女性アナウンサーの声が響き渡った。
『それではお呼びしましょう。桜井響子さんの夫、桜井直人さんです!
約4か月ぶりの再会となります!!』
彼女の発言が終わると、会場が照明で照らされる。
そして、先ほどまで俺達の横にいた直人さんが、桜井響子の横に座る。桜井響子と対峙したのだ。
『……よう。久しぶりだな』
彼は、桜井さんを見据えると、小声で話しかける。
対して、桜井さんはばつの悪そうな顔をしていた。
『4か月ぶりだな。お前今までどこにいたんだ?』
彼は、桜井さんへと問う。
『どこって……。革新党を結成するために、東京に行っていたのよ』
彼は、彼女の不審な発言に気づくと、畳みかける。
『東京にいっていただぁ? お前、石巻の家を突然空き巣に入られたように雑然とさせて失踪したというのに、それの答えが東京に行っていただと?』
その言葉を聞き、桜井さんはうっと言葉を詰まらせる。
しかし、すぐに気持ちを立て直したのか、反論を始める。
『そうよ、悪い? それぐらいしないと貴方から離れられなかったからね!
私は、貴方の束縛に耐えられなかったの。だから、家を襲撃されたように装って家から逃げたのよ』
『そ、そうか。しかしそんなことが……』
それを聞き、失望した彼は下を俯く。
俺はそんな彼らを見て唸る。
本当のところ、桜井さんは6号君に拉致され、新人類に改造された後、我が主の意志に従って革新党の党首をしているはずだった。
彼女の発言は全くのでたらめのはずだ。
しかし、彼女がどこにいたのか証拠がない以上、「革新党結成の準備をしていた」と言われてしまえばそれを否定する材料がない。まあ、肯定する材料もないのだが……。
後、彼女のこの切り返し方。私は新人類だという証拠は残さずに切り返しをしている。
実に完璧な返答だった。
しかし、この二人のやり取りで家庭内の問題が国民に知れ渡ったことになる。
これにより、選挙に悪影響を及ぼしてくれるかもしれない……。
俺はにやりとする。やっと悪い芽を出してくれたな。俺はそう思った。
そんな最中、画面横のスピーカーから指示が飛んできた。
「昭人さん。現場の状況が険悪なので、次のドッキリへと移ります。
ロボット達へと指示をお願いできますか?」
俺はそれを聞きスピーカー横のマイクに返答する。
「了解です。では、6号君たちをそちらに襲撃させます」
俺は、マイクから口を話すと、今度は手持ちのスマートウォッチへ口を近づける。
「では6号君達。現場への襲撃を許可する。桜井響子と斎藤静香二人を狙うこと。応答どうぞ」
『……了解。私達、現場へ急行します』
「ああ、よろしく頼む」
俺は言い切ると、通話をきった。
横を見ると、有海が心配そうな面持ちでこちらを見つめていた。
「昭人。いよいよだね。どうなっちゃうんだろう」
有海は、心配そうな面持ちで俺の目を見つめる。
「なーに。ここまで準備してきたんだ。何とかなるさ」
俺は言い切ると、心配そうに震える彼女の肩をぎゅっと抱き寄せた。




