第四十六話:「妨害工作②」
「本日はお越しいただきありがとうございます」
目の前の女性は、机越しに俺に向き合うとにっこりと微笑んだ。
年齢は30代ぐらい。黒色の長髪で綺麗な方だ。
俺は今、放送局の来客室の中にいる。机が1つとソファーが対面で2つ置かれた来客室の壁面には、放送局のキャラクターが所狭しと貼り付けられ、騒がしい状況となっている。照明も目に優しい暖色系のLEDランプが使われ、部屋全体がポップで温かい雰囲気となっていた。
俺の隣の椅子には、佐藤探偵事務所を代表して若井さんが座っていた。
佐藤探偵事務所は捜査の関係上いろいろな業界の機関とコネクションを持っているようで、目の前の女性も佐藤探偵事務所からの紹介で今回面会することができた。
「いえいえ。こちらこそ急に連絡をしたのにも関わらず、こんな場をセッティング頂きありがとうございます」
俺の横の若井さんが、目の前の女性を見据えて深々と礼をした。
俺もそれに合わせて礼をする。目線を上げると、彼女は俺に対して名刺を差し出してきた。
「SBS放送局で放送企画業務を担当してます。田辺愛子と申します。よろしくお願いいたします」
俺を見据えて、はきはきと受け答えをしてくれた。そんな彼女を見て、俺の張っていた気持ちが少し解れる。
「ありがとうございます。私は小林と申します。よろしくお願いいたします」
名刺を受け取ると、俺ははにかみつつ彼女へ軽く会釈をした。
「……。放送企画の立案願いですか?」
自己紹介の後、若井さんの話を聞いた田辺さんは訝しげな表情をした。
それを見た若井さんは毅然な態度で話を続ける。
「はい。この企画書の内容を是非放映してほしいんです。今後の日本のためになりますよ?」
「日本のため……は、はあ」
「まま、そんな顔をせずにこれ読んでみてください。見終わったら教えてください」
ニコニコ顔の若井さんは、彼女に企画書を押し付けた。
田辺さんは、「若井さんの頼みだししょうがない。読むか……」とブツブツ呟きながら企画書を開き始めた。
この企画書は、俺が考え付いたものを、佐藤探偵事務所で実現的に練り直した物だ。
肝心な企画の中身は……「ドッキリ」だ。
電撃的に政界に登場した桜井さん。
そんな彼女の人間性を赤裸々に明かすために、ドッキリを仕掛けるという企画だった。
ドッキリの内容もしっかりと記載されていた。
まずは政策を説明できるような場をセッティングし、説明をしてもらう。
そんな中で、彼女の人となりを知ってもらうというコーナーを作り、司会者が彼女のプライベートにずかずかと入り込んでいく。
その中で敵襲をかけるというドッキリだ。
このドッキリには2つの狙いがある。
まず、彼女のプライベート紐解く中で、異常な性格や思いをさらけ出すことだ。
彼女の人となりがばれて批判が集まれば、おのずと革新党が不利になる。
ちなみに、この企画の中で俺の知識を使って「桜井さん」の情報をずかずかと聞き出そうと思っている。サイボーグになる前の情報をさらけ出し続ければ必ずぼろが出る……。俺はそう踏んでいたのだ。
次に、敵襲をかけることでピンチだと誤認させ、異常な身体能力をさらけ出させることだ。
これが成功した後、彼女たちはサイボーグだと流布させれば、必然的に革新等が不利になるだろう。
無論、これは「ドッキリ」なので、思い通りに結果が出せなくても俺達が公職選挙法違反に問われることはない。この行為は法律上選挙妨害と認知されないからだ。
企画書が出来てから一度読ませてもらったが、それなりに上手くまとまっていたと感じた。
会議を行った後一日で仕上げたことを考えれば、上出来だろう。
ただ、この企画を成功させるには、テレビ局の協力が不可欠だった。テレビ局が協力してくれて、尚且つ革新党に出演してもらう……。そんな状況へと運ばなければならなかった。
この企画は田辺さんの心をつかむことができるのだろうか……。俺は背中に嫌な汗をかきつつ彼女の動向を伺い続けた。
「……ふむふむ」
暫くして、企画書を読み終えた彼女は顔を上げた。
「確かに、革新党の桜井党首は急に最近有名になられた方なので、謎な事が多いんですよね。こちらから取材を申し入れても拒否されるので情報も少ないですし……。政治関連の出演依頼ならば向こうも受けてくれるでしょうし、良いですね! 桜井党首を知ってもらうためにも、企画を組むのは良いと思います! 今時の人ですし! しかも、このプライベートをさらけ出す企画いいですね! 他をの放送局を出し抜くことができますよ!」
企画書の内容を読み、一転笑顔になった田辺さんは、そう口を紡ぐ。
雰囲気から察して、企画の内容を気に入ってくれたようだ。
俺はそんな彼女の雰囲気を見て、胸を撫でおろした。
よし、第一関門はクリアだ。俺は心でそう叫んだ。
そんな彼女の雰囲気に気を良くしたのか、若井さんも顔が解れる。
「でしょう? この企画で、桜井党首の隠れた才能が観れるかもしれないですよ?」
「……はて、才能? 佐藤探偵事務所の方からそんな言葉が……何かご存知なんですか?」
意味深なことを言われ、彼女は眉間にしわを寄せる。
「ふふ。ここでは言えません。観てからのお楽しみです」
若井さんは朗らかな表情を浮かべた。




