第四十五話:「妨害工作①」
「……で、何か策はありますでしょうか?」
俺は冷静な声で目の前の人たちに話しかけた。
俺は今、佐藤探偵事務所の中で会議をしている。
議題は、「革新党の選挙妨害について」だ。
ちなみに今日は河合エレクトロニクスの出社日だったが、総選挙の公示がされているため、時間がない。
突発年休を取得し、ここに来ていた。
佐藤探偵事務所の来客用の一室では、見知ったメンバーが席に座っていた。
若井さん、竹内さん、小久保さん、それと佐藤所長だ。
拉致事件の被害者が新人類へと改造されたということは現在極秘情報としており、それを知っている人たちだけが集められている。
どうでも良い話だが、先ほど小久保さんが「有海さんは今日来ないんですか?」と聞かれたので、来ないと応えておいた。何故名前で呼んでいるのだろうか……? そこが気になった。
俺が発言をした後、佐藤所長が重々しく口を開く。
「……実は、妨害する良い策はもうありません。先日の放送を見て、こちらでも検討はしていたのです」
俺は驚愕する。佐藤所長は全てを悟ったような目をしていたからだ。
そもそもよくわからない。投票日までまだ20日程時間があるというのに、なぜ諦めているのか……。
「……選挙妨害というのはそんなに難しいことなのですか?」
俺は佐藤所長の表情から、率直な質問をぶつけてみた。
「いえ、時期が早ければ簡単です。ただ今回は会見後すぐに公示日となってしまいました。公への会見をぎりぎりまで遅らせて、こちらに策を取らせないようにしていたのでしょう……」
なるほど。公示日が策を取れる実質的な期限だったようだ。
しかし、佐藤所長は何を検討していたのだろうか。
「選挙妨害にはどのような方法があるのですか?」
俺が素直な質問をぶつけると、こちらを真剣な眼差しで見据えた佐藤所長は口を紡ぐ。
「うむ……。いろいろな方法がありますが、一番有効なのは『民意の分散』でしょう」
「それはどのようなものなのですか?」
間髪いれずに俺は質問を返す。
「同じような施策を持つ野党を多数立てるのです。それだけで民意は多数の党に分散するので、与党が勝利することになるでしょう」
佐藤所長は話を止める。そして上を向き少し考える。
そして思考が纏まったのか、また俺を見据えると話を続けた。
「これだけでは不十分なので、後は負けさせる党が不利になるような情報を流します。スキャンダルとかですね。これだけで民意は十分他の党へ誘導が出来ます」
俺は納得して頷く。なるほど。それならば新参の野党1党程度ならば簡単に潰せそうだ。
しかし、何故今からだと間に合わないのだろうか。
「今回それができない理由は何ですか?」
俺が質問をすると、今度は若井さんが口を開いた。
「……既に公示日を過ぎているからです。公示日の時点で選挙に立候補を行う人が確定してしまいます。なので、他党を擁立することができないのです」
「ふむ……」
俺はこの発言を聞き、思案する。実際に投票日はまだ20日も先なのだ。
時間はある。何か策は有るはずだ……。俺は頭をフル回転させる。
「今からでも革新党が不利になるようなことを言いふらせばよいのではないですか?」
俺の発言を聞くと、さも当然のように若井さんが返答をする。
「それでは、公職選挙法違反になってしまいます。表立って行動をすれば即牢獄行きです」
なるほど。昔習ったような気がしていたが、やはり犯罪になるのか……。
俺は納得した。
他にないのか。他には……。俺は考え、苦しまぎれに声を絞り出す。
「……じゃあ、何か不利になる情報をネットとかにばら撒くとかはできないんですか?」
これを聞いた若井さんは、苦々しく口を開いた。
「今の情報社会では、ネットに流しただけですぐに個人が特定されます。それでもばれないように活動をする場合、どうしても小規模な活動になってしまいます。革新党の力の源は国民の民意なので、小規模な活動ではあまり良い成果は挙げられません」
若井さんは言い切った後、歯軋りをする。
何もできない状況が悔しいのだろう。
俺はそれを見て、もう一度気になることを確認した。
「事実を流せれば選挙妨害としてどやされることはないですよね?」
「確かに、事実を暴露するだけなら選挙妨害には当たりません。ただ、何を言いふらすのでしょう? 桜井さんのスキャンダルは捜査しても全く出てきませんし、「あいつらは新人類だ」と言いふらしても皆信じるはずがありません。証拠をしらしめなければ私達は選挙妨害として公職選挙法違反になってしまいます」
ふむ……。やはりそうなんだな。俺は予想通りの答えに満足すると、再度口を開いた。
「皆信じるはずがない……ですか。私に一つ考えがあります」
俺は目の前の皆を見据えると、口を開く。
「公の場で桜井さんを罠にはめて、異常な身体能力をさらけ出させればよいのです」
「ほう……?」
合点のいかない顔をする佐藤所長は、いぶかしげな顔で口を開く。
「新人類の証拠を皆に知らしめるわけですか……。やり方はどうするんですか?」
「そうですね。こんな方法はどうですか?」
俺は方法を皆に知らせる。すると、全員が難しい顔をした。
「……ふむ。その方法で皆の前で身体能力をさらけ出してしまい、それに助長して新人類の噂を流せば……。多少は民意が動く可能性はありますな。しかしどの程度の結果が出るか……」
佐藤所長が重々しく口を開く。この作戦の効果を値踏みしているのだろう。
しかし、俺は一転朗らかな気持ちになっていた。
どうせ直接的な行動はもうできないんだ。ならば、敵を陥れてぼろをだしてもらったほうが良いだろう……。うまくいけば民意を失望に変えられる。俺はそう思ったのだ。
「でしょう? やらないよりはやったほうが良いです。この方法ならばもし失敗しても言い訳すればなんとかなりますし、リスクが少ないです」
俺は皆に向かって言い切ると、黒い笑みを浮かべた。




