第三十九話:「小林有海」
今回は有海視点です。
「……ん?」
昭人が桜井さんを追って瞬間移動した直後、滅多に喋らない小久保さんの唸りで私は異変に気付いた。
「なに……これ?」
私は目の前で起きている出来事で悪寒を感じた。
羅列されていた黒い鉄の箱がガタガタと一斉に振動を始め、倉庫の中に共振する異音が響き渡り始めたからだ。
無論、私が乗っていた鉄の箱も振動を始め、私の足は竦んだ。
「きゃあ!」
突然の出来事に、私は悲鳴を上げるとその場で座り込んでしまう。
その時、私の腕を強く引く何かの力を感じた。
「……ここ、危険。逃げるよ」
突然の言葉に私は声がしたほうを向く。そこには、私の腕をつかむ小久保さんがいた。
私は腕をグイっとひかれると、そのまま小久保さんと一緒に鉄箱から飛び降りた。
箱から飛び降りた後、私は目の前の光景と騒音に釘付けとなってしまう。
ガン! ガン! と鉄箱が騒音を発し、音が鳴るたびに箱が変形をしていく。
そして、数秒もしないうちに鉄箱に穴が空き、中から白い物体が飛び出してきた。
凡人ならば高速すぎて白い物体を把握することはできなかっただろう。しかし、強化鎧を着ていた私は即座にその正体が何か気づいてしまった。
「6号君……」
そう、目の前のロボットは私が創った6号君だった。しかも、銃と刀を持ち、武装をしていた。
その時、瞬時に私は目の前の6号君の違和感に気づいた。
私に対して、鋭い視線を投げかけているということに……。
「……認識。小林有海。アミ、コロス」
6号君は、それだけを喋ると目の前から姿を消した。
私は驚くと共に、強化鎧の洞察力加速を使って6号君を追う。
――いた。
6号君は、私のすぐ後ろで刀を振りかざし、こちらを切りつけようとしていた――。
私は状況を理解すると、本能に従って盾をそちら側に向ける。
ぎりぎり間に合った盾は6号君の刀と交錯し、ガキン と鈍い音をたてた。
「――っ!」
一部受け止めきれなかった刃が、私の頭上を掠める。
耳元で風切り音が聞こえ、私の額には汗が滲んだ。
その時、一筋の光が視界の端で輝く。
その光は6号君に当たり、動きを麻痺させた。
「ギギ……」
6号君が異音を発しながら静止する。
何とか銃を動かして私を撃とうともがくが、そこにもう一度光の筋が当たり、6号君の動きが完全に静止した。
「……間に合ってよかった」
強化鎧を着た男性2人が私の元へ飛び降りてくる。
若井さんと竹内さんだった。
「レーザー銃が効くようで良かった。これでとりあえずは……」
「……まだ安心するのは早いみたいよ」
竹内さんがしゃべっている途中で私は震える声で話を遮った。
周りの鉄箱は、次々に穴が空き、わらわらと6号君が飛び出してくる。
「っな!」
大量に湧き出てくる6号君を見て、竹内さんが驚きの声を上げる。
一方私は6号君達を見据えながら、思案する。
この子たちには、人間を襲わないようにプログラムを施してあるはずだった。
なのに、今私たちを襲っている。
「ありえない……」
私の心には謎が渦巻いていた。
作り手からすれば、今この状況はありえない状況なのだ。
なぜこんなことになっているのか? 理由は2つしか思いつかない。
「こちらを人間として認識していない」か、「敵に6号君達のプログラムを改変させられた」かのどちらかだ。
前者だった場合、強化鎧を脱いで生身を晒せば6号君達は人間と判別して攻撃をやめてくれるだろう。ただ、これを行えばもし理由が違う場合6号君達に即座に殺されてしまう。
後者は、敵の技術力が十分にあれば可能だろう。なぜなら、敵には桜井さんがいる。
つまり、敵にパスワードが知れ渡っているといえる。
ということは、敵は6号君内部の保護されている領域まで侵入し、プログラムを改変できることを意味する。
6号君の人間判別機能はかなり高い。顔をマスク等で隠していても判別してくれるように設定をしておいた。つまり、私達を襲う原因は後者の可能性が高いといえるだろう。
私はこの結論にたどり着き、ため息をつく。
「やられたか……。まあ、しょうがないわね」
私はそう呟いた後、覚悟を決め若井さんへ念話で話しかける。
『若井さん、相手が多すぎるのでオートモードで戦闘を行います。ご承知おきください』
その時、若井さんが一瞬驚いた顔をした後、真面目な表情に変わった。
そして、こちらに念話を返した。
『了解しました。ご武運を』
私は頷くと、左手を上げてAIに念じた。
『オートモードに変更をお願い。他の強化鎧と協力して、目の前の6号君達を殲滅するわよ』
≪有海様。承知しました≫
そして、私の体は勝手に動き出す。
私は一瞬驚いたが、抵抗せずに流れに任せた。
私の意識は私の体の中で今、観察者へと変化した――。




