第三十八話:「桜井響子」
はやめにかけたので、不定期更新します!
「貴方は……小林昭人ね」
場が静寂に包まれた直後、目の前の女性――桜井響子改めキョウコは、俺を見据えると悲しそうな目で俺の名を言い当てた。
「はい。小林昭人です。俺のことは覚えているのですか?」
もし彼女が新人類となっているなら、過去の記憶は失っているかもしれない……。俺はそう思い、彼女へ確認をしてみた。
「ええ。研究室内で貴方と苦楽を共にしたこと……。しっかりと覚えていますよ」
「そうですか……」
キョウコから、桜井響子の記憶は消えていない。とすれば適切に処置を施せば彼女たちを救うこともできるかもしれない……?
俺は彼女の発言を聞き、心が揺すぶられた。
よし、彼女たちを救おう……。
俺は心の中で決めると、彼女たちの正体について整理することにした。
キョウコの正体を探るため、まずは熱源検知と電流検知を用いた。結果、若干ながら電流を検知することができた。しかし、動物は電気信号で筋肉を動かす。この程度の信号なら、誰からでも検知できるだろう……。これは新人類化した証拠にはならない。俺はそう察すると、気落ちした。
次に、俺の脳裏に焼き付いた眼から考察する。
目の前の彼女も、それと同じ目をしていた。その結果だけからならば、彼女は新人類だと言えるだろう。
しかし、彼女たちが改造されて新人類となった証拠は今のところ俺の感じた情景だけ。彼女たちが新人類となった確実な証拠は今のところないのだ。
彼女たちの発言を聞く限り無事ではなさそうだが、ただ単純に洗脳されているだけかもしれない。とすれば新人類はまだ誕生していない……といえる。
それでも俺達を狙う犯人はいるわけだが、新人類が生まれていなければ事の深刻さが変わってくる。俺は新人類が生まれたということを信じたくないからか、脳裏に焼き付いた先ほどの見開かれた目の残像を振り払おうと必死になった。
よし、まだ彼女たちが新人類だとは断言できないはず。新人類に改造されていなければ、容易に救えるはず……。俺の心に少しばかり希望が生まれた。
しかし、現実はそう甘くなかった。
突然不敵な笑いを始めたキョウコから、残酷な申告があった。
「ちなみに私達は我が主に改造手術を受けています。貴方の記憶からたどると、新人類というのでしょうか?」
「……なに?」
その発言を聞いた後、俺は驚愕した。
彼女の発言は洗脳されていれば何とでも言えるだろう。だから、今の言質が新人類に改造されたという根拠とは扱えない……。俺はそう思った。
それよりも、俺は彼女が知りえないことを今話し始めたことに驚愕した。
それは、新人類という単語だ。この単語は、未来へ転移したことを話した人……有海にしか俺は話していないからだ。
つまり、桜井さんは俺が未来で見たサイボーグのことを新人類と呼んでいることも知らないはずだった。
まさか、有海が漏らしたんじゃ……。
俺は瞬時にそう思うと、念話で有海に確認をした。
『有海。まさか桜井さんに俺が未来に転移したことを話してないよね?』
すると、若干間を置き有海から返事がくる。
『いや、話していない……はず。昭人に話さないでって言われてたから話していないはずだよ!』
『……了解。ありがとう』
俺は有海との念話と終えると、思案する。
有海の言っていることが正しければ、桜井さんの記憶に新人類の記憶はないはず……。
とすれば……。
俺はある一つの思考にたどり着くと、桜井さんへと問いかけた。
「なぜ……。新人類のことを知っているのですか? 俺は貴方へそのことを話したことはないはずですが」
キョウコはそれを聞くと、にんまりと笑った。
「分かりませんか? 我が主の至高な改造によって、人間程度の思考なら簡単に読めるようになりました。ほら、そこの横井リーダーが昭人君が未来に転移した件について、誤って漏らしたんじゃないかと疑心に苛まれていることも私には筒抜けですよ……」
それを聞き俺は後方の有海を見た。
有海は驚いた表情でこちらを見つめていた。……本当に人の心を読んだのか。
こんなことは普通の人間にはできないはず。何か特殊な道具を使っているか、本当に改造を受けているのか……。どちらかに絞られると思う。
いずれにしても、先ほどの斎藤静香と会津由香の動きを見る限り、常人ではないことは確かだった。
俺はため息をつくと、キョウコへと目を戻した。
その時、俺はぎょっとした。
先ほどまで50m程先にいたキョウコは、瞬間移動したかのように隣の鉄箱……距離にして10m程離れた位置に移動していたからだ。
「……驚かせてごめんなさい。昭人君。貴方にはどうしても伝えておかなければならないことがあるの」
彼女は真剣な眼差しで俺を見据えると、話を続けた。
「これから我が主と私達は、新しい世界を作ろうと思っているの」
彼女はこれだけを話すとにっこりと笑う。
「我が主の話を聞く限り、素晴らしい世界よ! この世界から争いがなくなり、皆が平等に生活ができる……まさに楽園よ」
「……何? 新しい世界だと?」
俺の声は震えた。俺は恐れたのだ。
新人類……。サイボーグ……。新しい世界……。そして人間達の大虐殺……。
俺が未来で見た情景が今の現実と重なり、恐怖した。
「そう。新しい世界よ」
彼女はそう言うと、真剣な眼差しへと戻る。
「我が主は、貴方達6号君の開発者を憎んでいます。俺の人生を狂わされたと頻りに呟いていました。なので、貴方達をここでは殺しません。せいぜいこれから地獄の中で苦しむといいわ」
彼女はそう言い切ると、にっこりと笑った。
「ユカ! シズカ!」
直後、キョウコが叫んだ。すると先ほど麻酔銃で負傷した斎藤静香……シズカが何事もなく立ち上がると、二人は瞬時にキョウコの横へと移動した。
「……は? 麻酔銃は食らえば丸1日は動けない性能なはずだが……?」
俺は驚き、口に出てしまった。
それを聞き、目の前のシズカが不敵な笑いを浮かべる。
「だから言ったでしょう? 私達は新人類。こんな攻撃効くわけがないわ」
俺はそれを聞き、鼓動が早くなる。まさか、先ほどまでの動きは演技だったのか……?
「……じゃあね?」
直後、キョウコは寂しそうな表情で小さく呟くと、後方へ走りだした。
……まずい。逃げられる。俺は何としても彼女たちをつかまえて、救わなければいけない!
そう思った俺は、強化鎧の性能をフルに使って超加速し、彼女たちに追いついた。
目の前に驚いた彼女たちがいた。俺は盾を振るい、彼女たちが走るエネルギーを相殺した。
瞬時に動きを止められた彼女たちは、驚愕した表情を浮かべた。
「……まだ邪魔をするのですか。ならば、これでもくらいなさい!」
キョウコが、俺を見据えて片手をあげた。
――何かがくる。
俺はどんな攻撃が来てもいいように全神経を集中させる――。
その時、後方の有海から悲鳴が上がる。
俺は驚き、後方の状況に全神経を向ける。
――何かがいる。有海たちのところに何かがいる。
そして、俺は立っている鉄箱が小刻みに振動を始めたことに気づいた。
意味不明な状況に注意力が散漫になる。
その時、俺は気づいてしまった。
――いない。
目の前の3人組が、忽然と倉庫から姿を消したのだ。
すぐに俺は電流検知機能をフルに使って倉庫の中を検知したが、彼女たちを発見することはできなかった。
そして、すぐに俺は倉庫の中の異常に気付いてしまった。
倉庫内の至る所で鉄箱が振動し、ガン! ガン! と大きな音をたてていた。
そして、目の前の鉄箱に穴が開き、中から白い物体が飛び出してきた。
俺はそれを見て一瞬で把握する。
「6号君か……」
その6号君は、刀と銃を持っていた。
「アキト、アミ。コロス」
目の前の6号君は、機械的な音声を出すと俺を見据えた。
それに続くように、倉庫内の鉄箱に次々と穴が開き、その穴から6号君がわらわらと倉庫内に姿を現し始めた。
「……とんだ置き土産だな」
俺は、冷や汗を掻きつつ、苦々しく笑った。
7月末にプロットを書いてから、やっとここまでかけました。
これで半分程でしょうか?
ここから話の流れを大きく変えます。
もうしばらくご付き合いください。
ここまで読んでいただいた方、ありがとうございます。
面白いと思いましたら、ブクマか評価をお願いいたします!
皆様の評価が、執筆の励みになります!




