第三十六話:「アジト③」
今回は若井さん視点です。
※電車の中でかけたので不定期更新します!
俺――若井武は混乱していた。
突然目の前に現れた2人の女性は、明らかに現在行方不明となっている斎藤静香と会津由佳なのだ。
俺の強化鎧には、彼女たちを見つけるために写真を登録していた。その強化鎧のAIが彼女たちで間違いないと断言しているのだから、その通りなのだろう。
しかし、彼女たちは防具を身に着け、銃を持ち……武装していた。
しかも彼女……会津由佳の第一声が、「ようこそ私達のアジトへ!」だ。
洗脳されている。
俺は彼女たちの表情と服装を見てそう結論づけた。
しかし、俺はその結論に若干の違和感を持っていた。
その違和感とは、彼女たちの熱を感知できないということだった。
変温動物・恒温動物どちらにも当てはまるが、移動する際、つまり筋肉を動かす際には必ずエネルギーを使う。
そのエネルギーが運動エネルギーとして変換されない分が必ず存在し、それが熱として放出されるのだ。
つまり、動物ならば常時熱を放出していて当たり前といえる。
しかし目の前の彼女たちにはそれがない。顔付近などは完全に皮膚が露出している。呼吸をしている限り、熱は発生するはずなのだ。
生物として異常といえる。
俺の強化鎧のAIはこの状況からそう結論づけた。
そんなことを考えていると、小久保さんと竹内さんがこの場に遅れて到着した。
「……!? 何が起こっているんだ?」
竹内さんは、目の前の女性二人組を見て、驚愕した表情をしている。
彼も彼女たちが行方不明となっている張本人たちだと気づいたのだろう。
彼女たちに向けて、俺はもう一度問いた。
「貴方達は、斎藤静香さんと会津由佳さんですか?」
すると、2人は俺を見据え、こう答えた。
「「『そうだ』ともいえますが、『そうだ』ともいえません。意味は分かりますか?」」
二人して声をそろえて発声した。タイミングを合わせずにここまで声を揃えるとは……意味の分からない状況を見て、俺の背筋に寒気が走った。
しかし、彼女たちの言っている意味が分からない。そうだともいえるがそうだともいえない。どういう意味だ?
「……意味がわからない。どういうことでしょう?」
俺は再び彼女たちに問いた。
「ふふ。それはこれからわかりますよ」
俺から見て右側の女性……斎藤静香が不敵に笑う。
そんな最中、俺に念話が入る。小林昭人さんからだった。
『お取込み中失礼します。彼女たちの正体ですが……改造された人間だと思うんです。俺の思い違いならいいのですが……。倉庫の端にある大きなガラス筒を見て、そんな気がしています』
俺はそれを聞いて、訝しげな気持ちになる。
『改造された人間ですか? ……どういうことですか?』
『えっと……。彼女たちは、人為的に改造されて、強化された肉体を持っていると思います』
『はあ……。根拠は何ですか?』
『えっと……。熱感知ができないのと……。勘です』
昭人さんは、一瞬ためらった後にそう答えた。
『彼女たちは敵のAIに支配されている可能性があります。動向に気をつけてください』
彼はそれだけを伝えると、一方的に念話を切ってしまった。
今の話を思い返し、俺は思案する。
彼が何かを隠している……? 俺は彼の話を聞き、そう感じてしまった。
ここまで、彼女たちが最後に言葉を発してから0.3秒程。思考加速した俺達なら一瞬で意思疎通ができた。
その時、目の前の彼女たちが動きだした。
彼女たちが銃を構え、こちら側へ1発ずつ撃ってきたのだ。
――危険感知。
俺は、銃弾の軌道が俺に向かっていることを察すると、AIのアシストに任せて盾を構えた。
そして、銃弾は盾に吸い込まれ、カラン と軽い音を立てて鉄箱の上に落ちた。
「はえ?」
銃を撃った当事者……会津由佳は、目を見開き、気の抜けた声を出す。
しかし、落ち着いた表情の右側の女性……斎藤静香は淡々と解析結果を述べる。
「高速の弾のエネルギーを吸い取って打ち消したように見えます……。あの盾、異常な性能を秘めていそうです」
それを聞き、会津由佳の表情が笑顔で弾ける。
「なるほど! じゃあ我が主にこれをお渡しすれば喜んでくれるかもね!」
「そうですね。狙ってみる価値はありそうです……」
斎藤静香がしたたかに笑う。
そんな中、俺は彼女たちの雰囲気に戦慄していた。
まるで、俺たちをただの獲物としか見ていない……。そんな気がしたからだ。
俺は彼女たちを助けにきたのだぞ……?
俺達は、こんなやつらのために今まで頑張ってきたのか……。
彼女達の言動を見て、ふつふつと怒りが募る。
その時、俺に念話が入る。昭人さんからだ。
『彼女達の言動に惑わされないでください。明らかに挑発されています』
俺はその注意を聞き、我に返った。
いけない。怒りに我を忘れるところだった。
しかし、俺はこれまでに数々の任務をこなしてきているはず。犯人と対峙して押し問答することなど朝飯前のつもりだった。最初こそ犯人に惑わされたりもしたが、ここ5年程は冷静に対処できていたのだ。
しかし、今回はここまで惑わされるとは、まさか……。
その時、AIから解析結果が届いた。
《どうやら斎藤静香から思考誘導を受けていたようです。彼女は精神を操る術を持っているようです》
何? 思考誘導? 詐欺師が使うような話術か?
俺はAIの解析結果を聞き、心の中で疑問が生まれた。
それを認識したのか、AIから更なる応答が届いた。
《そのような術も存在しますが、彼女達はそれを使っていません。精神に直接働きかけるような力を使い、武様を惑わしてきたようです……。方法は解析不能です》
「なに?」
思わず俺は声に出してしまった。
人間が人の精神を話術以外で操作するなど、聞いたことがない。
俺は訳がわからなかった。
その時、彼女達が目の前から消えた。
「は?」
俺は一瞬目を疑うと、彼女達を探した。
……いた。
俺の視線の死角、遥か後方で二人揃って颯爽している。強化鎧のAIで思考加速と洞察力加速を行なっていなければあそこにいることに気づかなかったかもしれない。
しかしどうやって移動したんだ? 全く移動した痕跡を確認できなかったぞ……?
俺が彼女達を発見した直後、会津由佳は颯爽しながら銃口をこちらに向けた。死角から銃弾を放つつもりなのだろう。
そして、斎藤静香は颯爽しつつ銃ではなく別のものを持っていた。なんだあれば……? 刀?
俺がそう考察した直後、会津由佳が銃弾を放ち、それを追うように斎藤静香が刀のように黒光りする棒を持ち、俺たちの方へ突進した。
そして俺は悟った。狙いは俺ではない。彼女達が狙った先は……。
『危ない! 昭人さん!』
言葉では間に合わない。念話で彼に意思伝達すると、俺は彼を蹴り飛ばした。




