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2045年問題   作者: 村田こうへい
第四章 潜入編
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第三十五話:「アジト②」

 少し肌寒い気温の中、俺の額に冷や汗が流れる。

ダクトの隙間から見える敵方の6号君は、俺のすぐ横の有海辺りを睨みつけていた。


『……』


暫くの沈黙が流れる。

敵の6号君に俺達の存在が見つからないよう、俺は動かないようにすることで精いっぱいだった。


 3秒ほどたっただろうか。体感ではそれ以上の時間がたったように感じるが……。

目の前の6号君は突然手持ちの銃を有海付近に向けて構えた。


――危険感知。


 このままでは有海が危ない。この状況を打破するにはどうすれば良いのか。

AIからの情報を受け、俺は思考を加速させた。


 有海を守るためには、まず目の前の6号君を倒すべきだろう。しかし、こいつを倒すと大きな音が出てしまい、敵に気づかれ追われてしまう可能性がある。そうすれば最悪俺達全員が捕まり殺されてしまう可能性がある……。

 そんな中、俺の脳裏に昔未来に転移した際に体験した新人類(サイボーグ)たちの行いと、俺が捕まってしまったガス室の情景が(よぎ)った。

圧倒的な人数で襲い掛かり、捕まえた後は問答無用でガス室に送り込み、毒を吸わせ殺す……。そんな新人類(サイボーグ)たちを俺は思い出し、武器の使用を躊躇(ためら)わせる。


 しかし、俺は瞬時にその記憶を頭の片隅へと振り払う。

敵の目的が分からない今、敵が同じように人間……俺達を虐殺するとは考えずらい。しかも、あの状況は新人類が世界を乗っ取った後の話だ。今はまだ俺達人間が繁栄をしている。同じように考えてはいけないのだ。


 ”捕まる”という恐怖から俺は最悪の想像をしてしまったが、その思考はまだ早いと言える。


 しかし、俺はこのまま静観するという選択をした。強化鎧(パワースーツ)を着ている有海ならば、もし撃たれたとしてもかわすか防御するだろう。AIに任せておけば、けがをすることは考えずらいのだ。このまま見つからずやり過ごすことができれば御の字。撃たれたとしても有海ならかわせるから問題なし。撃たれた結果見つかったとしても逃げればよし。捕まっても……即刻殺されることはないと思われる。俺はそう思い込み、恐怖という気持ちを沈めた。


 ここまでの思考を0.2秒程で終わらせた俺は、ダクトの隙間から状況を伺い続けた。


しかし、その状況は突然起きた。


 目の前で突然光の筋が生まれたかと思うと、6号君は体を突然硬直させ、そのまま動かなくなったのだ。


驚いた俺は光の大本を追うと、ダクトの隙間から銃口だけを出す、若井さんが持つ銃だった。


『レーザー銃で敵ロボットの動きを封じました。20分は動けないはずです。この間に残り400mを動ききってしまいましょう!』


念話でそう言い切った若井さんをまじまじと見つめ、一瞬判断に迷った。


≪昭人様。この状況になってしまえばもうこのまま進む他ありません。腹をくくりましょう≫


 AIからフォローが入る。

「戻って立て直したほうがいいんじゃないか?」という俺の気持ちとは裏腹に、若井さんとAIは突き進む選択をしている。そして、「時間がない」と意識したのか若井さんはダクト内を素早く進み始めた。


『……了解しました』


 俺は念話で若井さんに返事をする。


……まあ、敵に捕まっても隙をみて逃げ出せばよいし大丈夫だろう。

隙間から見える銃を掲げたまま硬直した6号君を一瞥(いちべつ)した後、俺は心の奥底の警鐘を静め、若井さんに続いてダクト内を進むのだった。




 先ほどまでは音を気にしていて、ダクト内はゆっくりと進んでいた。しかし、俺達は既に6号君に見つかっている。俺達には時間がない。そのため、できる限りのスピードを出しダクト内を這い続けた。

 どうせ見つかっているのならダクトから降りて道を進めばいいのではないか? と思われるかもしれないが、俺達に気づいた6号君は20分程行動できないのだ。つまり、20分経つかその6号君が他の6号君に見つかるまで敵は不審に思わないだろう。わざわざばれやすいルートを突き進むのはただのアホだ。なので、俺達はダクト内を突き進み続けた。


 10分程経っただろうか。俺達は、俺のスマートウォッチで表示されるマーカまで後10mというところまで到達した。

ダクトに隙間が存在していたので、俺はそこから外の様子を見た。


 そこは、倉庫のようだった。薄暗い室内は広い。鉄の箱が所せましと並べられ、一部は空けられ通路として使用しているようだった。


 ……しかし、薄暗い倉庫内は静寂が支配していた。視覚で確認する限り敵のロボットや人間を確認することはできなかった。


 ここにきて敵が誰もいない……? 倉庫だから、常に人がいないだけなのか……?


俺は思案すると、AIから声がかかる。


≪熱源視覚化及び電流視覚化を使用できます。使用しますか?≫


 その問いかけに、一瞬驚くと共にすぐに俺は気落ちした。

 ……強化鎧にはそんな有用な機能が存在するのか。なら、常に起動しておけば6号君に見つからずに済んだのではないだろうか……。そうすれば、こんな切羽詰まった状況にならなかったのでは……。


 そんなことを思いつつ、俺はAIに対して”YES”と念じた。


 一瞬視覚が明るくなり、「検知中……」と右上に表示される。しかし、しばらくたつと元の薄暗い視覚へと戻った。


≪熱源及び電流が検知できませんでした≫


 視覚の中央に機械的なログが表示された。

 

 このログを見て俺は思う。 

 なるほど。とすればこの部屋には人間及びロボットが存在しないことになる。俺は気持ちを落ち着かせると、念話で皆に話しかけた。


『この強化鎧(パワースーツ)、熱源感知と電流感知ができるようで……。使ってみましたら、部屋全体で双方確認できませんでした。どうぞ』


『……俺も使ってみたが、同じく反応がありません。下は現状安全だと思われます』


若井さんから反応があった。


『うん。私も使ってみたけど、同じ結果です』


有海からも返事が来た。皆AIに進められて機能を使ったようだ。


『……では、下に降りてミヤビさんを回収しますか。合わせて付近を捜索し、敵の情報を集めましょう。拉致された方達の情報を見つけられれば良しとします。敵の追手が来たら逃げましょう』


念話で若井さんの指示が飛んだ後、若井さんはダクトの蓋を外し10m程下へと飛び降りた。


 俺も若井さんに合わせて、同じ穴から下へ飛び降りる。高さに目が眩んだが、AIが恐怖補正をしてくれたのか難なく飛び降りることができた。


 そして地面の感触を確かめた後、積んである鉄箱を飛び越えながら、マーカーの位置へと俺は突き進んだ。




 10秒後、俺は今スマートウォッチとまじまじと見つめていた。

スマートウォッチに表示されているマーカーの位置にちょうど俺は存在していた。



 しかし、いくら探してもその位置にミヤビは存在しなかった。



 なぜだ??? ミヤビに取り付けたはずの発信機からの情報だ。位置情報は逐次更新されるはずだから、位置情報がズレるはずはないのに……。


 AIで思考を強化しているにも関わらず、俺は混乱した。そんな中、俺は足元に僅かな電流が検知されていることに気づく。(かが)み、足元を凝視すると、俺は小さなチップを発見した。



 ……このチップを見て俺は戦慄する。まさしく、これがミヤビに取り付けた発信機だったからだ。



 なぜここに発信機だけ存在する?? 発信機はミヤビのボディの蓋を取り外した更に奥の電源部に取り付けたはずだから、そう簡単に取り外せる訳がないのだが……。


 そんなことを思いつつ、俺はそのチップを拾い上げた。そして俺はそのチップに違和感を持つ。


 ――やけに厚くないか?


 そう、チップには電池と思われる機構が取り付けられていた。こんな物体俺がミヤビに取り付けた時には存在していなかった。


 発信機は、電源供給がなければ電波を発信することはできない。そのため、俺が取り付けた際にはミヤビの電源部分と結合させ、電源の一部をもらい受けるようにしたのだ。

 そのため、チップが単独で存在している場合、電波の発信はできないということになる。つまり、これは()()がミヤビからチップを外し、電池を取り付けてここに置き発信させ続けたといえる。


 そもそも、上で電流検知した際に、検知ができなかったことに疑問を持つべきだった。

6号君は電源を切られていたとしても仕様上スリープモードになるだけだ。つまり、すぐに起動できるように回路を動かしているはずだった。つまり、上で電流検知ができなかったことはおかしいことだった。


 ミヤビから発信機だけを取り出して、アジトの一角に置いておく。

こんなこと、誰が何のために……。


まさか……。


俺の頭で新たな不安が渦巻く。



その時、遅れて若井さんと有海が到着した。


『昭人。ミヤビちゃんはいた?』


 有海は念話で話かけてきた。

そんな有海を見つめ、俺は首を振った。そして、力なく右手に持つ発信機を見せる。


『……え? 発信機だけここにあったの? それってちょっと怪しいよね……?』


有海も同じ気持ちになったようだ。


 その時、俺の背筋に悪寒が走る。続けてAIから危険感知信号が届いた。

AIが指し示す方向は俺の真後ろ。180°後ろだった。


 目の前の若井さんと有海は、何者かの襲来に身構えていた。


 俺も目線をそちらに向ける――。


 俺達の目線の先、倉庫の鉄箱の上に人間が2人程立っていた。いや、人間だと思われる物体が2人程立っていた。

なぜ疑うのか……。そいつらに熱源感知機能を使っても、全く感知できないからだ。


「……は? 貴方達は和歌山と八王子で行方不明になった、斎藤さんと会津さんですか?」


 若井さんが、彼女たちに問う。彼は驚きのあまり、目を見開いていた。

なぜなら、彼女たちは鎧を着て、片手には銃を持ち……。完全に武装していたからだった。


「ようこそ、私達のアジトへ!」


 左側の女性が、この場には似つかわしくないテンションで俺達に話かけると、満足したように()()()()と笑った。

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