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2045年問題   作者: 村田こうへい
第四章 潜入編
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第三十二話:「アジトへ①」

一部加筆しました。

ガタゴト…………。


 車内の荷台に乗っている武具と備品が、山道の悪路を進むたびに小刻みに揺れる。

それを横目に見やりながら、俺は薄暗い車内に取り付けられた、小さな窓から外の様子を眺め見た。

窓の外には、若干葉を色づかせた木々が、木洩れ日を輝かせつつひしめき合い、それらが車窓の外でゆっくりと流れていった。

前ミヤビを回収し損ねた時の情景がこの風景と重なりあう。

そして、片手に取り付けられたスマートウォッチに表示されている地図上の赤い光点を見つめる。

明らかに近づいているその光点を見つめ、俺の心の中で不安が増幅される。


 俺は今、トラックの荷台の中にいた。

電灯が一つつくだけの薄暗い荷台には、武具がつまれ、その横にはこれから敵のアジトへと向かう勇敢な男女が俺を含め5人いた。


「レーダーの反応はどうですか?」


眼鏡をかけた小柄な男性は、俺を見つめながら問いかけてきた。


「はい。位置は変わらずです。目的地は変わっていません」


「そうですか。なにか変化があれば教えてください」


「……了解です」


 この小柄な男性は、アジトを攻めるこのチームのリーダーを務めている、若井武だ。

佐藤探偵事務所所属で、現在35歳。潜入捜査で数々の功績をあげているようで、今回リーダーに抜擢されたらしい。


俺と若井さんのやり取りを、若井さんの横に座るガタイの良い男性が見つめる。

しかし、すぐに興味を失ったのか、彼の目の先にある窓を見つめ始めた。


彼は、小久保良太。彼は無口で、聞かれたことしか答えない。しかも……声量が小さく、喋ってもほとんど聞こえなかった。

彼と若井さんとは、武器紹介を行った一週間後……今日から2日前の顔合わせの時に初めて会った。

その時に俺は彼に挨拶をしたのだが、まったくと言っていいほど聞き取れなかった。

ガタイは大きいのに、名前と口は小さい、なんとも不思議な人だった。


「……大丈夫だよ。全て上手くいくよ」


 小久保さんと会った時のことを思い出していると隣からやさしい女性の声が聞こえた。

俺は彼女を見つめると、彼女……有海ははにかみつつ頷いてくれた。


「……そうだね。何とかなるよね」


俺は作り笑いをし、彼女に答えた。


「相変わらずおあついですねぇ……」


 小久保さんの横に座っていた男性……竹内さんは、俺達を見て茶化すような目をしつつそう話しかけてきた。

今日で、竹内さんと初めて会ってから3週間が経過していた。

竹内さんは、俺と有海の仲を理解し始めたのか、最近このようにいじってくることが多くなってきていた。

一応俺達のほうが10歳も年上のはずなのだが、竹内さんには関係ないらしい。

なんとも竹内さんらしかった。


 今回の潜入は、佐藤探偵事務所と河合エレクトロニクスの合同チームになっている。

河合エレクトロニクスからは、俺と有海が参加している。

佐藤探偵事務所からは、先ほどの若井さんと、小久保さん、竹内さんが参加していた。


 俺と有海は、是非とも参加してほしいと竹内さんから言われ、この作戦に参加している。

ミヤビのレーダー情報をいち早く確認できるのは俺だし、有海も開発した装備について詳しいことから、誘われるのも当然といえば当然だろう。


 ただ、俺たちは敵に狙われている身。参加することに抵抗はあった。しかし、ただ味方が敵のアジトに潜

入するのをただ見ているのも違うと思った。

 ただやみくもに味方に全てを任せ、それで失敗して有海や海人を失えば、今後一生悔やむだろうと思ったのだ。


 そして、装備の性能を見て俺はこの作戦に参加することを決意した。装備の性能から、対人間やロボット戦で危険な目にあうことはないだろうと確信したからだ。


 ちなみに海人は、家政婦さんとタクミに任せてある。

 昨日家を出発する時、玄関で目に涙を浮かべて俺と有海に抱きついてきた。その後頭を撫でて彼を落ち着かせたが、相当心配だったのだろう……。

海人のためにもこの作戦を無事に遂行させて、サクッと帰還したいものだ。


 この作戦の目的はただ一つ。「誘拐された人間を救い出す」ことだ。

それが叶わなかった場合、少しでも誘拐された人たち、敵の情報を手に入れることが目的だ。

 そして俺は、この作戦のついでにあわよくばミヤビを回収したいと思っていた。

ミヤビが失踪してから2ヶ月経つが、海人はまだ何か引きずっているように見える。海人には早く元気になってもらいたい。俺はそう思っていた。


『皆さま、そろそろ目的地に到着します。準備をお願いいたします』


無機質な声が荷台の中で響き渡る。この声は、このトラックを自動運転しているAIからだった。


 この声を聞き、若井さんが俺達を見据えた。

「そろそろ目的地に到着します。到着次第、荷台の中で武具を装着し、敵のアジトまで徒歩で移動しましょう。強化鎧(パワースーツ)の能力をフル活用して、敵に気づかれず素早く潜入をめざします」


「予定通りですね。了解です」


俺は、若井さんの声を聞き、頷く。

この内容は、事前に決めていた方法と変わりなかった。今のところ作戦の遂行は予定通りだった。



 暫くたち、荷台の揺れが止まる。荷台の小窓を見ると、車窓の流れも止まっていた。


「目的地付近の道端に到着したようです。……取り急ぎ荷台の中で着替えましょう」


若井さんの一言で、俺は強化鎧(パワースーツ)とその他武具を装着する。


≪……装着者、認識。「小林昭人」。正しい場合は応答をどうぞ≫


強化鎧(パワースーツ)のAIから念話が届く。この問いかけにこたえるため、俺はAIに向かって念じた。


『その通りです。私は小林昭人です』


≪装備の機能を使用しますか? オート、アシスト、機能使用なしの3つから選んで下さい≫


『アシストモードで』


≪承知いたしました。オートモードへ移行する場合は、左手のみを挙げて念じてください≫


AIとの念話が終わり、強化鎧(パワースーツ)の装着が完了する。


ちなみに、先ほどのモードの種類は以下の意味がある。

「オート」……「自動操縦モード」のこと。武器の使用、回避等全て自動で行ってくれる。

「アシスト」……AIが動きをアシストしてくれるが、基本的に装着者自身が動きを判断する。

「機能使用なし」……AIが全く干渉しない。ただし、強化鎧(パワースーツ)の身体強化は適用される。

今回俺は、アシストモードを使用した。このモードならば、危険が近づけばAIが念話で教えてくれるからだ。


AIとのやり取りを終わらせると、俺は武具の装着を続ける。

武器の紹介でもあった、盾や銃、閃光弾を装着していく。


≪武具、「盾」「レーザー銃」「麻酔銃」「閃光弾」の装着を認識しました。応戦テンプレートに追加します≫


 武具を取り付けるたびに、武具と情報をやり取りしたAIが念話で俺に状況を教えてくれる。

武具から情報を受け取り、AIが武具の扱い方を逐次アップデートしてくれているのだ。


 武器紹介の時は、アップデートは6号君……ウイスが行っているだけだったので、自分自身でこれを体験するとは思っていなかった。しかし、実際に体験すると、自分がロボットになったかのように感じ、身震いがする。


 昔俺が読んだSF本で、主人公がロボットに乗り込み敵を倒していくという話があった。

しかし、その主人公は敵にロボットの自我を乗っ取られ、ロボットごと自滅していってしまっていた。


 飯島リーダーは、敵に乗っ取られないように最新のセキュリティを導入したとは言っていたが、敵の技術が向上していけば、いつかは俺達を超えるときがくるかもしれない……。

今は敵の技術も追いついていないだろうから大丈夫だと自分に言い聞かせているが、この懸念に俺は一抹の不安を感じていた。

そんなことを考えていると、俺は若井さんの言葉を聞き現実に引き戻される。


「みなさん、装着は終わりましたかね? では、荷台の扉を開けます。敵に怪しまれないように迅速にアジトを目指しましょう」


「昭人。ついにだね。桜井さんを見つけようね」


隣の有海が、ヘルメットの透明な保護具の中から真剣なまなざしを俺に向けてくる。

俺はその目を見つめ、頷いた。


そして、荷台の扉が開かれた。

突然明るくなった景色に目が眩みそうになるが、強化鎧(パワースーツ)が補正をしてくれた。


『よし……。待ってろよ桜井さん。必ず救い出して見せる。そして、俺達が生きながらえるためにも……敵の情報を必ず集めてやる』


俺は心の中で決意しつつ、目の前の若井さんに続き、強化鎧(パワースーツ)の性能を信じ荷台を飛び出した。

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