第二十八話:「密談」
9月中旬の日曜日。季節は夏と秋の狭間にあり、梅雨前線と台風が猛威を振るっていた。
今日も例外ではなく、南の海上にある台風が湿った風を送り続け、日本中が大雨となっていた。
「……ここであってるよな」
ざーざー降りの大雨の中、傘を目深に差した俺は、そう呟きつつ街中にあるオフィスビルの前に佇んでいた。
隣には有海もいて、同じく傘を差している。
付近は雨のためか人通りは少なく、雨音がオフィス街に響きわたっていた。
「名刺の住所を見る限り……。ここだね」
有海は俺を見据えつつそう答えた。
「うむ……。ここでじっとしていても意味はないし、行ってみるか……」
俺は緊張を押し殺しつつ、竹内さんが所属している「佐藤探偵事務所」へと向かった。
傘の雫を払った俺たちは、エレベーターを使ってオフィスビルの3階へと向かう。そして、エレベーターを降りた先に現れたドアの横にあるチャイムを押した。
しばらくして隣のインターフォンから声が聞こえる。
『はい』
低めの男の声だった。その声が俺の不安を加速させる。
「あ、小林と申します。竹内さんとの会議があり、こちらに尋ねました」
『……了解です。少々お待ちください』
彼はそう言うと、インターファンを切った。
暫くして、目の前のドアが開く。ドアの横から顔を現したのは、竹内さんだ。
「どうもどうも! 暫くぶりです!」
やけにハイテンションな竹内さんは、俺たちを見やりながら話す。顔はかなりニコニコしていた。
「あ、はい。今日はよろしくお願いします」
そんな雰囲気に若干引きながらも、俺は彼を見据えて礼をする。
それを見てか、横の有海も彼に会釈をした。
「どうぞこちらへ」
俺たちは竹内さんに促されるまま執務室内のソファに座る。
ここは、オフィスの一角だった。仕切り板を隔てた先には数個のデスクが置かれており、そこでは3人程がパソコンに向かって作業をしている。そして、そのデスクの向こうにはホワイトボードが置かれており、何かの相関図が書かれていた。捜査している事件の内容なのだろうか。
俺がそんなことを思っている間に、竹内さんは俺たちの対面に座った。そして、俺たちを見据えて話を始めた。
「では早速ですが……。本題に入らせてください。ここに来て頂けたと言うことは、技術提供は可能だということでいいんでしょうか?」
それを聞き、俺は口を開く。
「いえ、まだ提供するとは決めていません。俺たちのどのような技術が必要で、また何故必要なのかを教えて頂けなければ決められませんので」
俺はこう言い切ると、彼はニコニコ顔から一転真面目な顔になり、俺を見据えた。
「……そりゃそうですよね。失礼しました」
一瞬間が空き、再度彼が口を開く。
「今から話すことは、関係者だけの秘密です。もしご協力頂けない場合でも、他言無用でお願いします」
「……了解です」
俺は頷く。
「奥様も問題ありませんね?」
「あ、はい。問題ありません」
横から聞こえる有海の返答を聞き、満足したのか竹内さんは話を続けた。
「ロボットによる人間誘拐事件について、私達は調査を続けてきました。そして、私達は犯人の手掛かりを見つけています」
「……手がかりですか?」
俺は竹内さんに問う。
「はい、ある情報筋から手に入れました。それは……『犯人のアジトの位置』です」
「……」
竹内さんのその発言を聞き、俺は一瞬思案する。まさか……。
「あの、申し上げにくいのですが、もしかしてその情報筋って『警察』ですか?」
俺のその発言を聞き、竹内さんが一瞬顔を引きつらせる。
「――――なぜそう思うのですか?」
彼のそんな雰囲気を感じ取り、俺は再度緊張しながらも話を続けた。
「いや、俺達も敵のアジトの位置を知っているからです。そして、その位置を警察に知らせたのは俺達ですし」
竹内さんは、俺の発言を聞き、眉間にしわを寄せる。
「…………」
しかし、一転彼は笑い声をあげた。
「ふふ。ははは……。そういうことですか……」
彼は5秒ほど笑い続けると、話を続ける。
「『警察が情報源』っていうのは正解です。その情報源が貴方達だったとは……。しかしどのようにその情報を手に入れているんですか?」
彼の問いに、俺と有海は顔を見合わせる。そして、二人で見つめつつ頷くと、俺は竹内さんに向き直った。
「実は、私達のロボットが敵の手にわたってしまっていまして……。そのロボットには発信機をつけているので、どこに連れ去られたのかがいつでもわかるんです」
それを聞き、竹内さんは目を見開く。
「……なんと。流石は河合エレクトロニクスの研究者だ」
その後彼は研究職について俺達を含めべた褒めを始めたのだが、研究職じゃなくても発信機はつけられるので愛想笑いをして適当に返答をしておいた。
話が途切れるのを見計らい、俺は竹内さんに進言する。
「……すみません。話の続きをしましょう?」
「……あ。そうですね。失礼いたしました」
彼はまた下を俯き、そう答えた。
「では話を戻します」
竹内さんは話を進める。
「先日話した5件の事件……。いや、小林さんが絡んでいる事件も含めると7件ですか。最初の事件から既に半年近くたっていますが、警察の捜査進捗を調べても全く進んでいないといっても過言ではありません。そこで、私達「佐藤探偵事務所」がアジトに侵入し、行方不明者の証拠を手に入れてこようと思っています。その証拠を用いて最終的には行方不明者の救助を行おうと思っています」
静かに、そして高らかに彼は宣言した。
「……え? アジトに潜入する??」
竹内さんの発言を聞き、俺は驚愕する。
「敵は、武装をしていますよ? 生身で突っ込んだら、捕まって殺されてしまいます」
俺は竹内さんに進言する。すると、彼は俺達を見据えた。
「そうですよね。だから、貴方達の力をお借りしたいんです」
「……武力を提供してほしいということですか?」
俺は訝しげな気持ちになりつつ彼に話を振った。
俺としては、正直このロボット技術を武力で活用したくないと思っていた。
そのため、河合エレクトロニクスでも直接武力になるような製品は開発していなかった。
「……すみません。河合エレクトロニクスでは武力になる製品を作っていないんです」
俺は、竹内さんを見据えて答えた。
「……そうなんですか」
俺の発言を聞き、彼は俯く。
それに見かねたのか、俺の横の有海が彼に話かける。
「……貴方達に武力を提供すれば、桜井さんを助けられるチャンスも作れるし、私達も安心して暮らせるようになるっていうことよね?」
「……はい。アジトに潜入する技術があればそのチャンスは十分にあると思います」
竹内さんの言葉を聞き、有海は一瞬口を閉ざす。そして、彼女は彼へこう宣言した。
「……ありますよ。武力」
有海のその発言を聞き、俺は驚愕して彼女を見つめた。俺のその視線に気づいた彼女は、俺を見つめて呟く。
「ごめん昭人。心配させたくなくて黙っていたんだけど、武器の開発は私主導で進めていたんだ……」




