第二十七話:「探偵」
「……で、『証拠を持っている』というのはどういうことでしょうか?」
俺は仙台市内の喫茶店で、警察所の前で出会った自称探偵の男性……竹内さんと話しこんでいた。警察署前で彼と別れる際、「証拠を聞きたければここに来い」と言われ、出向いた形だ。有海を迎えに行きその帰りに俺は指定された場所に立ち寄った。
俺の隣には仕事終わりの有海がいて、机を挟んだ対面に竹内さんがいた。
時刻は20時半。家にいる海人には、タクミに伝えてご飯を作ってもらい、先にご飯を食べておくように伝えてある。
「どういうことって言われてもねぇ……。知っているからそう言っているんですよ」
もて遊ぶような不敵な笑みをした竹内さんは俺達を順繰りに見やりながらそう返答する。
「は、はあ……。何で知っているのかということを聞いているのですが」
俺は若干苛立ちながらも彼に問いかけた。
その時、俺の太ももにやさしい感触を感じた。横を見ると、有海が俺を見つめていた。「落ち着いて」と語り掛けているかのようだ。
「よくぞ聞いてくれました!!!!!」
一転ハイテンションになった竹内さんが声を張り上げ立ち上がる。そんな彼を見て、俺と有海はびくっと身を震わせる。
周りにいた他のお客さんも、ハイテンションな竹内さんを見て訝しげな視線を送っている。
「竹内さん、落ち着いて。目立ってますよ」
俺は小声で竹内さんに伝える。すると一転気落ちした竹内さんは下を俯き椅子に座った。
「失敬。少しテンションが上がってしまいました」
竹内さんが俺達に平謝りしてくる。
「……お答えしましょう」
彼が、俺を見据えた。急にまじめな雰囲気になった竹内さんを見て、俺は緊張する。
「まず私が何を調査しているのかについてお答えしましょう。それは、ロボットによる人間の誘拐事件です」
「……え? それは、桜井さんの誘拐事件ですか?」
「いや? 違いますよ?」
そんなことを言われ、俺と有海はきょとんとする。
「……え? じゃあ一体なんの事件の調査をしているのよ」
有海が竹内さんに問う。
「だから、ロボットによる人間の誘拐事件です。このところ5件程発生しているのですが……。知りませんか?」
「「……え???」」
俺達は驚く。テレビやネットでニュースはよく見ていたが、そんなことは一度も聞いたことがなかったからだ。
「初耳です。ニュースで一度も聞いたことがないのですが……」
俺は彼にそう呟くと、彼は一転ニコニコ顔になった。
「そりゃそうでしょう。細部まで警察が公表していないのだからね……。5件の事件が起こった日付と場所を今から伝えるので、ネットで調べてみるといいでしょう」
彼はそういうと、メモ用紙を俺達に見せてくれた。そこには5行にわたって日付と場所が記されていた。
「一件目が今年4月3日和歌山。二件目が今年6月5日福島。三件目が今年7月15日東京の八王子。四件目が今年8月10日の仙台。五件目が今年8月20日の山形。いずれも20代~30代の若い男女が失踪していますね」
彼はメモ用紙を読み上げながら、端的に説明する。
俺は彼の説明を聞きながら、スマートウォッチでネット検索を行った。
「……確かに行方不明者がでていますね。どれも未解決事件だ」
俺は唸る。その事件の犯人を検索するとどれもヒットしないのだ。
そして、不思議なことにそれらの事件について乗っている情報が限りなく少なかった。誰がどこで失踪したとしか記載されていなく、現場の状況などが全くといっていいほど書かれていなかった。
その検索を終え、俺は竹内さんを見据える。彼の顔は、真剣そのものだ。
「そこで、私たちはその未解決事件達を調査しているんですよ。各現場をかけずり周り、調査を行いました。……結果、いろいろなものが見えてきました」
彼は続ける。
「まず、各現場には共通してある足跡がついていたんです。そして……銃撃跡がありました」
その発言を聞き、俺は有海と目を見合わせる。桜井さん家と俺達の家で起きたことと同じことが起きている……。俺の背筋は震えた。
「しかしそんな大きな事件……。なぜ世間で話題になっていないのでしょうか……?」
俺は興味半分に聞いてしまった。すると、また竹内さんが立ち上がる。
「よくぞ聞いてくれました!!!!!!!」
――はあ、彼と密談はできそうにないな。
俺は気落ちしながらも、彼に座るように促す。そして、彼は先ほどと同じように俯きながら座った。
「……失敬。話を進めます」
彼は俯きながら話を続けた。
「確かにネットで少し話題になったぐらいで、その後は不自然な程話題にならないんです。貴方達の友人の誘拐もそうでしょう?」
俺は振られ、思案した。すると、横の有海が頷きつつ返事をする。
「確かに桜井さんの誘拐事件に関して全く報道がないわ……。1月前の台風被害なんてまだ報道しているのに……」
「奥様。そうなんです。そこで、私達探偵所は誰かが情報統制をしているのではないかと……思っています。誰だと思いますか?」
「「え??」」
思いもかけない問いかけに、俺と有海は目を見合わせる。
「えっと……。真犯人は誰かっていうことですか?」
俺は合点のいかない気持ちで彼に問う。
「いえ、違います。情報統制をしているのは犯人とは無関係です。わかるでしょう。どこがまず事件の捜査をしていますか?」
俺はそんな問いかけに一瞬思案する。そして、背筋を震わせた。俺の中での「信頼」が、今崩れ去ってしまったからだ。
「まさか……」
「……え?」
合点のいかない有海が俺を見つめる。俺はそんな有海に微笑みつつ、二人にこう宣言した。
「つまり、『警察』が一枚噛んでいるっていうことですか……」
言われてみれはその通りだった。桜井さん誘拐事件の時のあの初動の遅さ、そして俺達の家が襲われた時の柊木さんの不自然さ。そして、今日警察に聞いた際の不自然な程の捜査の遅さ。全て警察がこれらの事件に関して本気で調査をしていないところからきているのだろう。
そして俺には虚無感が込み上げてきた。
『有海と海人を守るには、俺はどうすれば良いのだろうか……』
「信頼」を置いていた警察に見捨てられているということが、俺の不安を加速させた。
もしかしたら、警察が犯人と繋がっていて、秘密裏に工作をしているのかもしれない……。俺はそう思うと、柊木さんに「ことの顛末」を話してしまったことを後悔してしまった。
「……そんな不安な顔をしなくても大丈夫ですよ。全てうまくいきます」
彼は頷きつつ、そんなことを口にした。
「……どういうことでしょうか?」
俺は不安からか、言葉にとげを載せて発言してしまった。横の有海が心配そうに俺を見つめる。
そしてその言葉を聞いた竹内さんが、俺達を見据えてこう言い切った。
「私達に貴方たちの技術を提供してくれるのなら……。全てなんとかしましょう」
彼は机の上に名刺を差し出した。そこには、彼の事務所名と連絡先が書かれていた。
「もし良いご返事を頂けるのなら、ここに連絡をください。きっと助けになれるでしょう」
竹内さんは微笑みつつ、席を立った。
「では、私も時間があるので失礼します。良いご返事を期待していますね」
「……ありがとうございます」
俺は竹内さんに礼を言う。彼はその声を聞き満足したのか、手をひらひらさせると足早に喫茶店を後にしていった。
PS.喫茶店の飲食代は全て昭人持ちになりました。




