第二十五話:「襲撃②」
「……なるほど」
俺達の家の中、散らかったリビングのフローリングに立つ柊木さんは、俺のいきさつを聞き唸った。そして、あごに手を添えて話を続けた。
「つまり、貴方達は特別なパスワードを知っていて、それが原因でロボット達に襲われているということですか。そして、先日発生した誘拐事件と犯人が同一だと思われるということですか……」
柊木さんは頷きながらそう呟く。
「はい、そういうことなんだと思います」
俺は、彼の呟きを肯定した。
このやり取りの少し前、俺は柊木さんへ近況を説明した。説明したその内容は、「ミヤビが逃げたこと」「ミヤビが敵方の6号君に奪われたこと」「元同僚が6号君に誘拐された」という3つの事実と、「6号君の根本のプログラムを書き換えるためのパスワードを知っている人が襲われている」という俺の推測だけだった。俺が過去に未来に転移し、未来の状況を見ている件については信じてもらえるはずもないので伏せた。
「……そのミヤビさんの現在地を教えてもらえませんか? 警察内での犯人捜査に活用させていただきたい」
俺の発言に納得したのか、俺を見据えながら彼は呟いた。
「勿論です。私たちや桜井さんが助かるのならなんだってやります」
俺は間髪入れずに彼にそう返した。
「……タクミ。部屋から何がなくなっている?」
「……見た限り散らかってはいますが何もなくなってはいません。他の部屋も見てみますか?」
俺が問いた後若干思案したタクミは、俺にそう答えた。
「うむ。このまま部屋全てを回ろう」
俺はタクミの言葉に満足しつつ、廊下に目を向け別の部屋へと歩みだす。
タクミを含む6号君の中には、大容量の記憶媒体が存在し、過去1月分彼の視覚情報が保存されている。
なので俺はまずは全ての部屋の中をざっくりとタクミに見てもらい、何がなくなっているのかを確認することにした。
他の部屋を順々に周り、最後に俺達はガレージに到着した。ミヤビを起動したあの部屋だ。
この部屋も他の部屋と変わらず、散らかっていた。照明がついていないのか、部屋は薄暗かった。
「ん……。お父さん、電気がつかないよ」
横から気落ちした海人の声が聞こえてきた。彼は壁のスイッチをパチパチと押し続けるが、照明は一向につかない。
「……壊されたか」
俺は悟った。そして俺は天井を見上げると、納得をした。照明器具は銃弾で打ち抜かれたのか穴だらけになっており、下を見るとついていたはずのLED照明らしきものが落下して割れていた。
俺は気持ち奮い立たせると、タクミに問いた。
「今度はどうだ?」
その声を聞き、タクミの動きが静止した。自分の記憶と照合しているのだろう。
「……一部なくなっています」
「……え?」
俺は思ってもいない回答を聞き驚いてしまう。すかさずタクミへと聞き返す。
「照明関係か?」
「いえ、海人様のサーバーです」
「……ああ」
その答えを聞き、俺は納得してしまった。あの中には敵が不正アクセスした際の情報が保存されていた。もしかしたら、敵はその中の情報を隠蔽したかったのかもしれない。
『発信機もあるし、取り急ぎはサーバーがなくても困らないか……。しかし、敵がサーバーを盗んだとなると……俺たちに見られたくない情報が含まれていたのかもしれないな』
俺はそう思い、海人に問いた。
「海人、サーバーの情報はどこかにバックアップされてないか?」
その声を聞き、彼は俺を見据えた。
「今の家にあるノートパソコンに重要な情報が保存されてるけど、全部は保存されてないな……。あと、この部屋にサーバーのバックアップとしてSSDが置いてあったんだけど、それもないのかな?」
「ふむ……。タクミ、どうだ?」
俺が話を振ると、タクミは海人のサーバー付近を見つめ始めた。
「……残念ながら、SSDも無くなっています」
「そっか……」
海人が俯きうなだれる。
「……サーバーはまた買ってやるから、そう気落ちするな」
俺は優しい言葉で海人へそう話しかけると、彼は顔を上げ俺を見据えた。
「……うん。よろしくね」
涙声になっている海人は俺を見つめつつそう答えた。
「私も少しは援助するから、早く買おうね」
隣にいた有海も海人を見つめてやさしく話しかける。仮面で見えないが、表情も穏やかなのだろう。
「……うん。お母さんありがとう」
両親の優しさに触れたせいか、彼の涙声が一段とひどくなった。彼の仮面の目の付近の隙間から、何か光る物が見えた気がした。
そんな情景を見て、俺も気持ちが緩んでしまう。しかし、ふと隣にいる柊木さんを見るとなぜか険しい顔をしていた。
「……どうしたんですか?」
俺は恐る恐る柊木さんに問いた。彼の雰囲気がただ事ではなかったからだ。
「……。あ、すみません。貴方達の気持ちを思うと、少し考えてしまって」
先程の厳しい表情が嘘だったかのように、一転穏やかな顔になった柊木さんが俺を見据える。
「……そうですか。ありがとうございます」
俺は彼にそう伝えると、彼は俺に対して微笑む。
若干間が空いた後、柊木さんが話を切り出す。
「さて、ガレージで現場の確認は最後でしたね。他に見たいところはまだありますか?」
そう話す彼の顔は達成感に包まれていた。
「いえ、もうありません」
俺がそう答えると、彼は満足した表情をした。
「では、後の現場検証は私たちにお任せください。必ずや犯人の証拠を見つけてみせます!」
「あ、はい。よろしくお願いします」
場違いな程に明るく振る舞う柊木さんを見て、俺はびっくりしてしまった。
その後、俺達は柊木さんに急かされながらそそくさと自宅を後にした。
規制線の外に出た俺は、2人と1台を引き連れつつ自宅に徒歩で戻る。自宅までの道は乗用車が通れない程の細い道であり、この時間帯に人通りはなく閑散としていた。塀を隔てて存在する民家の灯りと月明かりだけが頼りであるため、道は薄暗かった。
「なんか最後急にせかされたよね。まるで追い出されるかのように……。やっぱ邪魔だったのかな私たち」
俺達に対し有海がそう呟く。
「どうなんだろうな? やけに達成感に打ちひしがれたような顔をしていたから、邪魔とはおもっていなかったんじゃないか?」
「そうなのかな? でもなんか変だよね~」
「うむ……」
思案しながら俺は呟く。確かに先程の柊木さんの雰囲気が尋常ではなかった。
「まさか……な」
俺のその呟きに呼応するかのように、心配そうな表情の有海と海人が俺を見据える。
「えっと……。そうだな、あの話をしようか」
まだ不確定な話を皆にしても不安にさせるだけだ。そう思った俺はその不安を打ち消すため、有海に向き直り最近自身がハマったSF小説の話を始めた。
◇
『……はい。星は仮面をつけています。探せばすぐに見つかるでしょう』
「なるほどな。襲った後に拘束できない時はどうしようかと思ったが、簡単に尻尾を出してくれて助かったよ。報告感謝する」
ある薄暗い部屋で電話を受けるその男は、要件を聞き終えると画面の表示を消した。
部屋の中には沢山の工具と工作機械が置かれており、その横には人が入れる程の大きなガラス筒が置かれていた。
彼は、報告を聞きおえた後満足した表情となった。
しかし、一転表情を変える。
「なるほどな……。うまく隠れるよな。流石この時代の開発者だよ」
その男は気色悪い笑みを浮かべつつ、唸った。




