第二十三話:「仮面」
俺は桜井さん家を後にした後、車を河合エレクトロニクスの本社に向けて急ぎ走らせた。敵に俺の顔の情報が知れ渡っているということが分かり、有海が心配になったからだ。
運転中に少し落ち着いた俺は、桜井さん家での出来事を海人へと伝えた。そして、俺たちもいつ6号君に襲撃を受けるかわからないことを伝えると、海人は俯き言葉を失ってしまった。
……小学生には重すぎる話だったかも知れない。
それから30分程車を走らせ、俺と海人は河合エレクトロニクスの本社へと到着した。俺は車を会社横の立体駐車場へと停めると、薄暗い車の中で時間を確認する。時刻はちょうど17時30分。あと30分程で河合エレクトロニクスの退社時刻となる。俺は現状に満足すると、有海へ「正門で待ってるね」とメッセージを入れた。メッセージを入れた後1分程で既読がつき、有海から「今から下に行くね!」と返事が来た。
「お母さんが下に来るらしい。迎えに行こうか」
俺は笑顔を作り海人へそう伝えた。
「……うん。僕も今はお父さんと離れたくない」
硬い表情をしながらそう言った海人は、俺と一緒に車を降りた。そして俺たちは、薄暗い駐車場内を歩き、本社のフロントロビーへと向かった。
「お母さんお疲れ様!!」
海人はエレベーターから出てきた有海を見つけ、暗い顔から一転はちきれんばかりの笑顔になった。そして、彼は彼女へ駆け出し飛びついた。
近くには河合エレクトロニクスの社員達が歩いており、その情景を見て微笑ましいものを見るような顔をしつつ通り過ぎていく。
俺はそんな光景を見て、殺伐とした気持ちが癒されるような気がした。
「あれ、なんか今日はいつもより懐っこいね」
有海は俺と海人を交互に見やり、海人の雰囲気に笑顔を溢す。
「うん、お母さんが危ないって聞いたから、抱きついてみた」
海人は抱き着いたまま有海を見上げ、見つめながら心配そうな面持ちでそう話す。
「危ない?」
有海は眉をひそめながら、海人と俺を交互に見やる。
「ああ……。その話は車の中で話そう」
俺は有海へそう伝えると、3人で駐車場に停めてある車へと移動した。
「……というような感じだったんだよ」
俺は有海と海人が車の中に入り、ドアが閉じられたのを確認すると、有海へ桜井さん家で探索した結果を伝えた。
それを聞いた有海は、落ち着いた声で話す。
「なるほどね……。敵に私たちの顔が割れてるということは、住まいを移しただけでは不十分ということね。つまり不意に敵方の6号君が近くにいれば、私たちが突然襲われるっていうこともありえるっていうことね……」
助手席に座っている有海が、喋りながら頷く。彼女の顔を見るとどこか引きつっているような雰囲気を受ける。想像以上の現状を受け入れきれないのだろうか。
「最悪そうだね。ただ、俺たちの仮住まいの位置がまだ敵にバレてないのが幸いだよ。家にいれば敵は攻めてこないだろうからね」
俺は皆を安心させようと、そんなことを口にした。しかし、俺は今の仮住まいが敵にバレるのも時間の問題だと思っていた。何故なら、敵はこの世の中で一番流通している6号君を最低でも51台手下として従えている。その6号君が日常生活に溶け込み、俺たちを会社の前で張り込み、自宅まで追ってしまえば、すぐにその位置もばれてしまうだろうから。
「僕の存在もばれてるのかな?」
後部座席に座っている海人が、不安な顔で俺たちの会話に割り込んできた。
「今はバレてないと思うが、今後はわからないな」
「そっか……」
俺の推測を聞き、気落ちする海人。俺は一瞬罪悪感に駆られたが、すぐにその思いを隠した。海人のことだから、俺が悲しい顔をすると余計に心配しちゃうだろうからね。
「さ、家に帰るぞ。今日は家まで帰れればひとまず安心だ」
俺は皆へそう宣言した後、車のアクセルを踏みこむ。そして、俺たちを乗せた車は足早に仮住まいへと向かった。
車を運転する最中、俺はずっと考え込んでいた。
このままでは俺達も桜井さんのように敵に見つかり、捕まってしまう……。
では、これ以上どうすれば敵に見つからないようにできるのだろうか。
学校や会社に行かず、家に引きこもるのが一番の有効打だが、そんなことをすれば今までの生活や築き上げてきた物を全て捨ててしまうことになってしまう。それは最終手段としたかった。
俺はそれ以外の方法を考えたが、今考えてもより良い考えは見つからない。
俺は暗礁に乗り上げた思考を答えに導くため、四苦八苦していた。
◇
「有海、海人、ちょっといい?」
帰宅から3時間後、家族一緒での夕食が食べ終わるタイミングで俺は有海と海人に話しかけた。
「何そんな真面目な顔して? どうしたの?」
俺の発言を聞き、机を挟んで反対側にいた有海が口をもぐもぐさせながら俺に返答する。
「実はさ、明日から皆で変装しようと思ってね」
「変装?」
いぶかしげな顔になった海人が俺に問いかける。
「そう、変装だ。このままだと俺達のこの仮住まいも敵に追跡されて見つかってしまう。そうならないように顔を隠すんだ」
そう、なんだかんだと3時間考えた挙句、俺の思考は『変装』という安直な手段に落ち着いた。
今までの生活水準を維持しつつ、6号君達に見つからないようにするためには、これしか方法がないように思えた。
「え! どうやって顔を隠すの?」
『変装』というキーワードを聞いて童心がくすぐられたのか、有海が満面の笑みで俺に問いかける。
そんな有海を見て俺も顔が緩んでしまった。現状からちょっと悪い方向に考えすぎていたのかもしれない……。
少し気が軽くなった俺は、そのまま二人に話を続ける。
「そうだな……。あのお面を使おうか」
俺は壁掛けテレビの横に飾ってあった3つのお面を指さす。それは、白い基調に黒色の顔が描かれている細長い仮面……。あるアニメキャラクターのお面だった。
「え! カオ○シのお面を使うの? 逆に目立ちそうだし恥ずかしい」
一転げんなりした顔の有海が俺に突っ込みを入れる。確かにその通りかもしれない。
「でもなぁ、うちにはあれしかお面がないんだよな。基本学校や会社への送り迎えは俺が車でやるから、皆は車から降りて目的地の建物に入るまでお面をつけてほしい。もっと良い変装手段は俺が後で見繕うよ」
「うん……。それくらいの時間で良いなら……。海人も大丈夫?」
有海が心配そうな面持ちで海人に話かける。海人がダダをこねないか心配なのだろう。
しかし、そんな心配は杞憂で終わった。
「……うん。捕まるよりはましだよ!」
満面の笑みの海人は、俺達に返答した。
俺は二人の反応を見て満足しつつ頷いた。
「よし、じゃあ決まりだな。俺もつけるから、俺達は明日からカオ○シ一家だ」
俺はそんなことを言いつつ、二人に笑いかける。有海と海人も俺を見つめ、クスリと笑った。
「カオ○シ一家か~。なんか変だね!」
ニコニコ顔の海人がそんなことを言う。
そんな雰囲気の海人を見て気分が穏やかになった俺は、海人に対して何か冗談をいってやろうと思い、少し考えこんだ。
若干の静寂が部屋を包む。そんな時だった。
『ピンポーン』
『ドンドンドン!!』
インターホンの音と共にドアを叩く音が家に響き渡った。
「「「……」」」
若干顔がこわばった俺達は、顔を見合わせた。
今は夜の21時。こんな時間に来客がくることは不自然だった。
「……ちょっと見てくるよ」
来客に不安を感じながらも、俺はリビングにあるインターフォンに向かい、それのテレビ画面を覗く。
そこに映っていたのは、俺達のマンションを管理する大家さんだった。
「……なんだ、向井さんみたいだぞ」
若干安心した俺は、皆にそう伝えた後にインターフォンのスイッチを押す。
「はい」
俺はインターフォン越しに向井さんへ呼び掛けた。
「あ、小林さん? 大家の向井です。大変よ!」
「……何が大変なんですか?」
焦った様子の向井さんの雰囲気に驚きつつ、俺は彼女へ問いかけた。
「貴方達の旧家がロボット達に襲われたそうよ! 今警察が現場検証を行っているそうだから、貴方達も一度顔を出したほうが良いわよ!」
「……え?」
彼女の話を聞き、俺の背中には悪寒が走った。
次は9月30日18時に更新します!




