第二十話:「捜索」
翌日、俺と海人は車で山形県を訪れていた。今日は連日の残暑が一段落し、仙台の自宅付近も若干肌寒い程の気候だった。
なので、俺達はこの夏で初めて長袖の服を着こんで車で移動していた。
なお、有海は本社で仕事中だった。今日は外せない会議があるらしく、年休は取れなかったようだ。
俺の運転する車は東北中央自動車道を一旦降り、山形県道2号線へと入る。そしてそのまま山道を進み始めた。
「すごい場所だな……」
がたがたと揺れる車の中で、運転する俺は思わず声を漏らしてしまう。
最近この道は使われていないのか、一応舗装はされているがボロボロで劣悪な状況だった。
しかし、対する海人はなんだか楽しそうだ。
「あ”あ”あ”あ”あ”~!! 揺れで声が震えるね!!」
こいつはMなんじゃないだろうか……。と俺は若干不安になりながらも、ミヤビの位置情報から1km程の位置に車を停めた。かなり路肩へ寄せたので、この狭い道でも対向車は困らないと思う。まあ、走行してくる気配はないが……。
「よし、海人。山登り開始だ」
「あいあいさー!」
海人の元気な掛け声とともに俺達は道端から山を登る。傾斜は20度程で木々も密集しており、かなり登りにくい斜面だった。
小学生の海人には少しきついかもしれない……? と思い俺は海人を先に登らせた。海人に何かあった時にフォローをするためだ。
「大丈夫か海人? 登りきれるか?」
斜面を上りながら、俺は海人に確認する。
「大丈夫だよこれくらい! 学校の登山学校で鍛えたからね!」
「ほう」
海人の元気な返事に俺は満足をしながら斜面を登る。
もちろん俺は海人を完全には信用していなく、常に彼の動きには気を配っていた。
30分程かけて登りきり、俺達の登る崖も傾斜が緩やかになってきた。
ただ、傾斜は緩やかとはいっても依然木々や背の高い草花が乱立しており、先を見通すのはかなり困難な状況だった。
「海人、位置情報的にミヤビはこの付近にいると思うけどどうだい?」
俺は位置情報をスマートフォンで見ている海人にそう問いかける。
「うん。この付近だと思う。どこにいるんだろ?」
「了解。じゃあこの付近を手分けして探すか。GPSの精度は直径10mぐらいだから、ここから5m以上先には行っちゃだめだよ」
「はーい」
元気な海人の返事を聞いた後、俺達は手分けをしてミヤビを探す。俺が斜面の下部方、海人が上部方を担当した。
「あーー! いたよいたよお父さん!」
5分程して、海人から元気な声が響いた。
「おー。いたか」
俺は海人の発見に満足しつつ、海人の方へ向かう。
そして木々の合間から手を振る海人を発見した。彼の足元には、赤茶色の金属の物体が倒れこんでいた。
「朱色の塗装だったよな。結構汚れちゃったな」
倒れこんでいるミヤビを見て、俺はそう呟く。
「そうだね~。ずっと山の中歩いてきたんだもんね。そりゃ汚れちゃうよね」
少し心配した表情でミヤビを見つめる海人は、俺に対してそう答えた。
「帰ったら洗ってやらないとな」
「そうだね! 後はAIプログラムの書き換えだね!」
俺はミヤビを持ち上げつつ、海人と微笑みあった。俺はミヤビを見つけられたことから、達成感を覚えていた。
その時、木々の隙間から山を歩く機械音と、何かを呼ぶ声が聞こえてきた。
「「「ミヤビ……。ミヤビ……」」」
……ミヤビを探す多数のロボット達の声のようだ。
「……海人」
察した俺はミヤビをその場に戻すと、海人の手を引き聞こえてくる声とは逆の位置へと移動する。
そして、俺と海人は近くの竹やぶへと身を隠した。
「お父さん。どうして身を隠すの?」
いぶかしげな表情をした海人は、そう俺に問いかけてきた。
「いや……。このタイミングでミヤビを探すロボットは……。俺達の敵のような気がするんだ」
「敵……?」
「ああ、不正アクセスをしてきたやつらの一味だと思うよ」
「ふむ……?」
海人はその後俺に聞いてこなくなった。納得してくれたんだろう。理解が早くて助かる。
その後、俺達は物音をたてずに竹やぶの隙間からミヤビを監視した。
2分程たち、ミヤビを呼ぶ6号君たちが姿を現した。数は全部で5台。俺達と同じように何かを探すように地面を凝視しながらこちらへ歩いてきた。
『発見しました』
1台の6号君がミヤビを発見すると、それを他の6号君へ伝える。
『了解しました。目標物を回収します』
発見した6号君がミヤビを持ち上げると、そのまま来た道を引き返して歩き始めた。
「おとうさん。ミヤビがつれてかれちゃう……」
海人が小声で俺に訴えかけてきた。
「……静かに」
俺は自分の口に人差し指をたて、海人がそれ以上話さないように諭した。
暫くして、あの6号君たちの音が聞こえなくなったところで、俺は海人に話しかける。
「ごめんな。あいつらに俺達が見つかると、最悪殺されるかもしれないんだ」
「……うん」
海人の声がしょげ返っていた。せっかく手元に戻ってくると思っていた自分の作品がまた遠くへ行ってしまったのだ。そりゃ当然だろう。
「ただね……?」
俺はポケットからスマートフォンを取り出し、ある画面を開いて海人へ見せる。
「なにこれ……? まさか!」
驚く海人をみて俺は満足する。
「そう。ミヤビに発信機は取り付けておいたよ。これなら12時間おきじゃなくていつでもミヤビがどこにいるのかわかる。隙をみてあいつらからミヤビを取り返そう」
「おー! お父さんさすが!!」
落ち込んでいた海人のテンションが少し元に戻った。
俺はこの状況に満足しつつ、海人にこう告げる。
「さあ、戻ろうか。次はミヤビを連れて行ったあいつらを少し調べないとな」
「うん。そうだね。一旦仕切り直しかな」
俺達は山の斜面を下り、車のところまで戻る。
車まで戻った後、俺と海人は手早く車に乗り込んだ。そして、俺は手早くエンジンをかけ、足早に車を運転し始めた。6号君たちに見つからないようにするためだ。
「海人。ミヤビは今どこにいる?」
スマートフォンを海人に渡し、運転する俺に代わり位置を確認してもらう。
「えっとね、北へ移動しているね」
「この道沿いにはこなさそうだよな?」
「うん。方向は全然違うよ」
「了解」
道中でエンカウントしないと把握した俺は、少し安心して車の運転を続けた。
『うん……。6号君たちが暗躍しているとなると……。少し心配だな』
不正アクセスしたと思われるやつらが裏で動いている……。自分の推測から俺は桜井さんの安否が心配になってしまった。
『落ち着いたら後で電話をしてやろう』
車を運転しながら、俺はそう心に決めた。




