第十九話:「転居」
「この冷蔵庫はキッチンのここ、この机はリビングの前においてください!」
「「はーい。了解いたしました」」
俺は軽快な足取りの引っ越し業者へ指示を出す。引っ越し業者の半分はAIを搭載したロボットなので、荷物の搬入がスムーズにいく。
3日前、海人のサーバー解析と桜井さんとの電話を終えた俺達は、その後家族会議を行い、転居を決定していた。
俺と有海とタクミは年休を取り、自宅から徒歩15分ほどの位置に新しいマンションを借り、現在引っ越し中だ。借りた部屋の階層は4F。侵入者を検知できるマンションを選んだつもりなので、防犯対策もしっかりしている。
なお、今まで住んでいた一軒家は事が落ち着いたら戻るつもりだった。マンションでは工作ができないし、一軒家にはまだローンが残っており、引き払うことは非常に損だからだ。
なので、このマンションには最低限住める程の設備しか置くつもりはなかった。
半日程で引っ越し業者の搬入が終わった。全てをマンションへ運んできていないからか、部屋の中はまだガラガラであった。
搬入が終わった後、引っ越し業者はそそくさと帰っていった。
次の家の作業があるため、忙しいのだろう。
「タクミ、段ボールに詰められている荷物を運んでほしい。本はあそこの本棚へ。食器たちは食器棚の中へ。配置は任せるよ」
「昭人様、承知いたしました」
俺はタクミに指示をだし、荷物の整理を手伝わせる。対する俺達も段ボールから荷物をだし、収納する作業を行った。
さらに2時間程たち、小物も全て整理がついた。これもタクミの一助のおかげだろう。
「さて……。これで取り急ぎ一安心かね?」
達成感に満足した俺は大きな伸びをしつつ有海にそう話かける。
「そうだね……。ここなら必要な物があればすぐに取りに戻れるから楽だね!」
満面の笑みで有海がそう話してきた。ただ、それだと意味がない……。
「うん。まあ、暫くはあまり近づきたくないけどな。頻繁に行くと移り住んだ意味がなくなっちゃうしな」
「……そ、そうだね」
有海から消極的な返事が来た。これは注意してみていないとすぐに元の家に行ってしまいそうだな……。
「お父さん、お母さんただいま!! おー! きれいなところだね!」
小学校の部活から帰ってきた海人が、マンションの部屋を見て目をキラキラさせて驚く。
「海人の部屋はあっちな。言われた通りに物は配置しておいたから、小物はタクミと協力して片付けてくれな。サーバーは元の家に置いてきたから、ミヤビの情報を入手するときは元の家に行こう」
俺は海人へそう伝える。
「え~! わざわざいくの!? ここからネットを使えばここからサーバーへアクセスできるのに!」
「いや、サーバーをネットにつなげると、前みたいに情報が流出するし、俺達がアクセスしていることがばれると逆探知されてここが敵にばれてしまうかもしれない。だから、ここからアクセスするのはやめような」
「……わかったよ」
若干不機嫌になった海人からそう返事がきた。面倒くさいだろうがここは諦めてもらうしかないだろう。
新居にて夕飯を食べた後、俺と海人は元の家へ戻り、ミヤビの情報を入手していた。現在のミヤビの位置を把握するためにだ。
薄暗いガレージの中で、いつも通り海人がパソコンの電源を入れ、地図を表示させる。
「……お父さん!」
嬉しそうな海人の声が俺の耳に届く。
「ん。どうした? ミヤビの動きが止まったか?」
海人の雰囲気に飲まれないよう、冷静な気持ちで俺は海人へ語りかける。
「うん、その通りだよ! 昨日からずっと動いていないみたい! 電池が切れたかな?」
「ん。ミヤビはどこにいるんだい?」
「えっとね……。面白山高原から南に40km程の山奥だね! 山形県と福島県の県境ぐらい! 近くに県道が通っているから、少し山に入れば回収できると思うよ!」
なるほど。やはり山奥に入り初日より移動速度が低下したようだ。
「了解。じゃあ、明日にでも取りに行くかい」
「うん! そうしよう! よろしくね!」
先日の不正アクセスの件もあるし、ミヤビは早めに回収しに行ったほうがいいだろう……。そう思った俺は、明日も年休を取ることにした。なお、海人は夏休み期間中のため明日はフリーだ。
俺達はミヤビの位置情報をスマートウォッチのカメラで撮影し、パソコンの電源を落とした。
その後俺達は仮の自宅へと戻った。
「やった! やっとミヤビに会える!」
ミヤビを回収できるのがよほどうれしいのか、俺達がいるリビングで海人はずっとニコニコ顔で踊っている。このダンスの動きは今までに見たことないが……。やけにキレがある動きだった。
「回収したらAIを書き換えなおさないとな」
そんな海人の動きを見て、微笑ましく思っている俺は海人へそう告げた。
「そうだね。あのままだとまた逃げ出しちゃうよね~。起動する前に書き換えないとね」
海人の動きが1.5倍速になった。一体何なんだろうか……。
しかし、あの不穏な動きをしたミヤビに会いに行くということに、俺の心の中で若干の不安が渦巻いていた。
「ちょっと対策した方がいいかね……」
俺はリビングでテレビを見ながら、そう呟いた。




