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第28話「満月の神殿」と「理想の時間」

 でもすぐに終わりました。愛鈴にとっての時間稼ぎは。時が止まったような街並みの中心の場所にーーもう愛鈴はいました。スクランブル交差点のように道路が入り組んだところです。愛鈴の裸眼に少女の後ろ姿が映りました。清楚さが絡み織られているような衣服を身に纏った少女が立っていたのです。彼のことをずっと待っていたように。愛鈴はどんな気持ちだったのでしょう。今までに一度も味わったことがないような気持ちでした。そんな気持ちはどのように現せば良いのでしょう?


「ねぇユフィリア。ぼくは気付いていたよ。君が無事だってことも。ぼくたちが初めて出会ったあの場所に君がいるってわかった時にーーそれは偶然の出来事なんかじゃないんだろうって思ったんだ。ましてや誰かの悪意があるまやかしでもね」


「ーーずっと会いたいなぁって思ってくれていた愛鈴君は?」


「どうなんだろう。ぼくは苦手だからさ。自分の気持ちを誰かに伝えるっていうことが。でもなんだか抱きしめたいような気持ちはしたよ。ユフィリアのことをね」


 こんな言葉が冗談だとは分かっていました。愛鈴はもちろんユフィリアだって。でもどこまでが冗談でどこまでが本当なのかーーそれはたぶんユフィリアにだって伝わっていたのでしょう。愛鈴にとってのモチーフがこの白い弓であるのならば、ユフィリアのモチーフとも呼べるものは、”満月を彫刻して、たなびく白雲を理想としたような秀美な刀”となったのでしょうか? それがユフィリアの両手にはありました。ユフィリアの夢や理想が透過しているようなそれをみて、愛鈴は自らの白い弓刀がほかの人にはどんな風にみえているんだろうなと考えながらもーー。


「あれだね。でもユフィリアは変わらねいね。こんな時だって君は書斎にいるような感じと同じなんだ。ーーそれに何かの”末裔”って雰囲気や佇まいがするよね」


「何かって私もいちおうはまだ”女神”だよ?」


「まぁそうだね。でも君はもうあれじゃない。女神ですよっていう名刺を使おうとするとーー裏切りのっていう言葉もおまけに付いてきちゃう。それでもいいの?」


「そんな穢れた身になったわたしの事も大切にしてくれるんでしょ愛鈴くんが?」


「もちろん守ってあげるよ。代わりなんていないからさ。ぼくにとってのユフィリアという女の子には。もしもぼくがこれからさハッピーエンドにウインクしてあげて、君をそこまで連れて行ってあげたらーーユフィリアは喜んでくれる?」


 タペストリーの風景のような街並みに現れた神殿の前でふたりは再会したのです。そのことに意味がないはずがありません。それがお互いの魂の運命でした。全てに繋がる亡者がいるような気配。それをこの地下神殿からは感じていたのです。


「最後にみんなの幸せを唱えてからあげるから、少しだけ待っていて愛鈴くん」


「ユフィリアがそういってくれると、心の奥から迷いや不安が払底できそうだよ」


「この街にいる不思議な男の子の事を任せちゃうルークリナちゃんや奈季くんの事はもちろん、冬音ちゃんや智夏ちゃんの事もやっぱり心配でしょ愛鈴くんも?」


「まぁ瑞葉も心配だけどね。ちゃんと月葉ちゃんを守ってくれているかなって」


「月葉ちゃんのことはやっぱり可愛かった?」


「可愛くないはずがないでしょ。あの子だって君とぼくの大切な子供なんだよ」


「ーー架空の関係じゃないっていうことだからね? 私と愛鈴くんの仲が?」


「すごく湿ってそうだよねあの神殿の中は。足元とかをあの階段で滑らせそうだ。気をつけたほうがいいよユフィリア。まぁぼくのあとを付いて来てくればいいけど」


「手を繋いでくれないの?」


「お化け屋敷だったらそうしてあげるけど、何か合った時に君を守れないでしょ」


「今まではずっと手を繋いで守ってくれていたのに?」


「今までとこれからは違うのよ。それはユフィリアがよく知っているでしょ? ユフィリアのことを手放さないっていうことが、何も手を繋ぐってことではないよ」


「ーー唇ではそう言っても私の左手を取ってくれるのはやっぱり愛鈴くんだね?」


「この階段を降りるまでならいいよ。この階段が終わったら後ろを歩いてね?」

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