第27話「社会の構想」と「魔法の兵器」
疲れというものを知らないようでした。愛鈴も天空の兵器のような青年も。あまりにも呼吸が乱れないのです。ここまでくれば2人の姿は空間へと投影されているようでした。嫌というほどに刀と刀が響き合います。返ってくる答えはいつもそれでした。類い稀なる眺めです。愛鈴と天空の兵器のような青年の追いかけっこは。
お互いにお互いを誘い込むようなことはしていません。でも無意識のうちにお互いがお互いのことを誘い込んでしまっているだけです。愛鈴にとってはいつだってサイコロを振っているようでした。当たりかハズレかは実際に刀をぶつけ合って見るまではわかりません。本当にいつのまにかそこにいるという感覚でした。出し惜しむという気持ちはありません。お互いの右腕の合流点があまりにも多すぎて。
キャンバスに筆で絵を描くように命を奪い合います。殺し合うというよりは猟奇的な無理心中でした。どんどん正気は失われていってしまいます。臨死体験の連続です。新たな驚きによって先ほどの驚きも塗り替えられていきました。空間の認識もわからなくなります。自分がどこにいるのかもわからなくなるのです。あまりにも街中を三次元的に移動しすぎて。空中でどれだけ身体を回転させたのでしょう。
悲しみも喜びがなくても愛鈴の瞳は生き生きしていました。政治も法律も社会の常識も手が出ない領域で。ポストに届くのは手紙ではありません。お互いがお互いを捉え損なった攻撃の残滓です。2人には露天が並んだ店先も戦場になりました。
数分前さえ懐かしくなるような現実の中で広場へと左足から舞い降りた愛鈴は、広い地帯ーーそれはつまりあの預言書の魔法陣の範囲ーーが動乱を招くような悪い材料によって包まれかけていることも予感します。地獄のような風が吹こうとしていたのでした。どうやらあの天空の兵器のような青年は愛鈴のことを足止めして時間稼ぎをするためにいるのだろう。そのことは愛鈴もここで実感をしました。
それでも愛鈴の脈拍も鼓動も落ち着いていたのです。
愛鈴にとっての構想力だって現実を組み立てるだけではありません。これからの未来を組み立てるもののことも考えていました。愛鈴にとってもこの場が時間稼ぎであるということは、あの天空の兵器のような青年とも同じだったのでしょう。
ここまで腕比べした青年がお互いに決着を求めていずに、本心ではお互いに時間稼ぎを願っていたというのもーー面白い話ではあるかもしれませんが、あくまでも時間稼ぎだと隠していたからこそ、愛鈴と天空の兵器のような青年が起こしたこの一連の流れは、舞踏とさえ呼べるような美しいものだったのかもしれませんが。




