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第23話「夢幻の銀燭」と「世界の予感」

 清雅な雰囲気の中で月明かりのように銀燭の光が灯った部屋で、黒曜石のような輝きをするペンを右手に持ちながら瑞葉くんが椅子に座っていて、分厚い書物が山のように積まれた机の周りへと集まっていた桜雪ちゃんや風歌ちゃんや月葉ちゃんよりも、少し離れた所の本棚に背を預けて当事者の割には落ち着いていた愛鈴がーー。


「なるほどね。今まで何も共通点や規則性があるようにみえなかったのもあながち間違いではなかったんだ。その根底には”預言書”というものがあっただけならさ」


「……ということはお兄様の周りでここ数日のうちに起きていた、”鉄道の爆発”や”正体さえ不明だった騎士たち”や”もう1人の黒き影”などということもーー」


「もしかしたら最初から”この世界のどこにも存在していなかった”のかもしれないということでしょう? だから愛鈴くんが感じていた事がこの世界の誰かに知られるようなこともなかったし、そこにあったはずの証拠も消えたりしちゃったの」


「う〜ん。でも愛鈴くんがこんなにも真実のように夢や幻に騙されちゃうようなことも考えられないし、そこに何か理由はあるんだろうけどーーそこが不思議だよね」


「まぁだからこその”いつかの世界を揺らがせたまだ未解決の預言書”なんだろ?」


 おそらくはどんな時だって本というものを好んでいた瑞葉くんだからこそ持っていた知識による予感と、あの魔術師の帽子の青年がもたらしてくれた愛鈴たちもまだ知らなかった非日常的な現実の情報が形になって、この”名もなき預言書”に愛鈴たちの現在の状況が似ているということを啓示してもらえたのかもしれません。


 寝惑うような朧げな靄が払拭できて、愛鈴としてはやっと新鮮な空気を吸えた気分でしたが、この預言書がいったい何を示しているのかということはどこか謎解きのようでさすがの瑞葉くんもまだ理解できていないようですが、これからすぐに何か起こるだろうということは、これまで愛鈴が見たものと魔術師の帽子の青年から届いたものの地点に点を打って線で結ぶと、”幾何学的と非幾何学の狭間にあるような魔方陣の軌跡”を描いていることからわかりました。そしてその魔方陣の中心にある街。そこがどことなく赤く光っているような気は誰もが感じていたのです。


「まぁ今は何も分からなくても、いつか分かればいいんじゃないのかな。だから瑞葉はもう少しこの預言書について調べてみて、桜雪と風歌は念のために智夏ちゃんと冬音ちゃんのところに行ってあげてよ。たぶん奏大かロザリアのどちらかは2人と一緒にいてくれていそうだけど、もしも何かあったらやっぱり心配だからさ。ーーそれで月葉ちゃんはここでミズハーンと一緒に待っててもらえるかな? こういう時のミズハーンはしっかりしているから、そういう姿もちゃんとみておくといいよ?」


「……パパリアンはどうするの?」


「ぼくは少し行かない所があるみたいだからね。ーーでもぜんぜん大丈夫だよ」


「いやいやお兄様。ぜんぜん大丈夫って、お兄様1人ではーー」


「本当にぜんぜん大丈夫だよ。たぶんユフィリアが来てくれるはずだからさ。ぼくがユフィリアを信じれる理由はあるからーーみんなもユフィリアを信じてあげて」


 優しそうな表情で愛鈴が少女たちに言い聞かせると、桜雪ちゃんも風歌ちゃんももちろん月葉ちゃんにとっても、ユフィリアは特別な少女なのでその点では納得はしてくれましたが、風歌ちゃんはそれでも何か考えている事があったようにーー、


「でも愛鈴くん? もしもこれから向かう街のすべての規模で何か起こってしまったりしたら、愛鈴くんとユフィリアお姉ちゃんでもーー危なくはないんですか?」


「だからぼくはぼくの大切な友人の奈季とユフィリアの大切な友人のルークリナのことも信じてみるよ。2人ならたぶんもしもの時も間に合ってくれると思うからさ。それによく考えれば奈季がぼくを不安にさせるようなことを伝えたのも、基本的には暇人の奈季がぼくやユフィリアのことをどこかでルークリナが見守ってくれているのを偶然にも知って、逆に安心させるために伝えたかったのかもしれない」


「! 確かにそれは愛鈴くんの言う通りかも! ーー良かったね愛鈴くん? やっぱり奈季くんはさ愛鈴くんに意地悪しようとしていたわけじゃなかったんだよ!」


「……はぁ。お兄様はせっかくここまでしてくれている奈季くんにもそんな失礼なことを思っていらっしゃったのですか? いくらなんでも失礼すぎるでしょう?」


「まぁ駁論ばくろんはないよ。ーーぼくのこんな状況に抱く感想と同じようにさ」


 この期に及んでというよりもこの期に及んだからかどこか潔ささえもあるような瞳で現実を受け入れた愛鈴には、これからいったい何がみえるというのでしょう。


 それでも愛鈴が想っていたことは、”この世界では本当は誰も傷ついていなかった。もしも全てが幻でしかなかったというのなら……これからも誰も好きに傷つけさせたりはしない”という誰かのためだけではないーー答えだったはずでした。

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