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第22話 「本棚の世界」と「理想の幻想」

「……はぁ。でもそれじゃあまたあの青年はいらっしゃらないのですか? 彼は何かこのような大切な時に遅れて来ないといけない制約でもあるのでしょうかね」


「でももしかしたらあいつのことだから冬音ちゃんたちの所に行っているのかも」


「もしも本当にそうならば何か隠す必要はあるのですか?」


「ぼくの心象がよくなるかな。実は愛娘たちを守っていたんだって言われるとね」


 世界が平和そうに笑った愛鈴に桜雪ちゃんはため息をついてしまいそうでしたが、桜雪ちゃんも愛鈴が選んだ答えには何も言いませんでした。桜雪ちゃんは理解してくれているのでしょうか? 愛鈴の気持ちやどんな風に考えているのかも。


 塔のような図書館に2人はいました。楕円のように本棚が並んでいて、螺旋階段のほかには、本を手に取って読むためのソファーがあります。でもこの空間はただ本の微香を感じるだけではなく、電燈を付けたり消したりするような感覚で、本棚を透明にしてガラス窓に変化させ、水彩画のように美しい街並みを見下ろせるようにパノラマの景色を広げさせられるのでした。理想的なデートスポットでしょう。もしも雨が降っている時などは、よにも幻想的な雰囲気があるのかもしれません。


 愛鈴は螺旋階段を挟んで背中合わせのような形でソファーに座っている桜雪ちゃんに、彼女の隣にはいないので何を読んでいるのかは分からなくてもなんとなくは分かるまま、いまの桜雪ちゃんには気付かれることもない優しげな表情でーー、


「でも君はこれからどうする桜雪ちゃん? 桜雪ちゃんももう大人になったんだし、もうこれからの事は君が決めてもいいんじゃないのかな。もうそろそろぼくの役目は終わりかな。桜雪ちゃんはもうぼくがいなくても大丈夫だし、桜雪ちゃんには風歌みたいな子もいるし、もちろん君を一生守ってくれる人にも出会えるかもしれない」


「……? いきなりどうなさったんですかお兄様?」


「なんとなくだよ。でも君にだけはそういう想いを知っていてもらいたかったんだ。ぼくは桜雪ちゃんの事も、冬音ちゃんや智夏ちゃんや月葉ちゃんと同じように考えているからね。もちろん綺麗さや可愛さとかじゃないよ? 大切に思う気持ちでね」


 桜雪ちゃんもさぞや驚いているだろうと思いました。つまらない洒落さえも許されそうな状況ではありましたが、そうとは言え洒落で終わらせることと洒落で終わらせられないことはありますから。だから桜雪ちゃんが振り返ろうとするよりも先に愛鈴はソファーを立ち上がって桜雪ちゃんのほうを振り返ってあげるとーー、


「まぁ本当に深い意味なんてないよ。ただユフィリアが傍にいると、君にそんな言葉を伝えるのもなんとなく恥ずかしいような気がするからさ。ただ本当にそれだけ」


「ーーはぁ。お兄様はまさかこれから死んでしまうのですか?」


「すぐかどうかは分からないけど、いつかそんな時が来たら君は泣いてくれる?」


 どこか狐に化かされているような気持ちだっただろう桜雪ちゃんも、愛鈴の冗談めいた笑顔をみると止まりかけた秒針も動き初めてくれたようですが、穏やかなまま愛鈴が最後の問いかけをすると、桜雪ちゃんは困ったように俯いてしまいましたが、桜雪ちゃんが”イエスかノー”かで迷っているのではなく、イエスと伝えることに戸惑っているらしい様子は誰の瞳にも明らかだったから、愛鈴は微笑みました。


 この現実ノンフィクションの最果てにまだ見果てぬ夢があったとして、手のひらに握るのが世界の夜明けなのか世界の落陽なのかはわかりませんが……愛鈴がゆっくりと瞳を向けると、今まで静かだった瑞葉君がいるほうの扉から風歌ちゃんが出て来てくれてーー。

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