第21話 「神聖の図書」と「偶然の青空」
なんとなくでした。愛鈴がわかったのは。自分のもとを訪れてくれた少女がどのような背景を持っているのかということも。それでも愛鈴としては美しい羽でも落たような神聖さで清純そうに舞い降りた少女に”待ってました”と応じてしまうのは、棚からのぼた餅を歓喜しているようでなんだか好まざるものですし、だからといって踵を返して逃げてしまえるほど愚直な人間にも成れないので、ここはひとまず近くのベンチに座ろうということになりました。ちょうどそうしようとしていたようにとても自然なまま、その場に置かれていたローカル雑誌を左手で取りながら。
「君たちともまた会えるとは言い難しという感じだよね。でももしかしたら君は気を使ってくれたのかな? たぶん桜雪は君たちのことをよく思わないだろうから」
「偶然ですよ愛鈴様。それもまた運命という名前で呼べるのかもしれませんけど」
佳景の街並みに吹いた申し訳程度の風に涼しさを感じながら、愛鈴は雑誌の後ろの占いの欄をみて、自分の誕生月と照らし合わせ、”12月生まれのあなたは今日から深謀遠慮な計画を立てましょう”ということを知り、……なるほど。確かにぼくみたいな人生においては深謀遠慮の考えは大切かもしれない……とやけに素直に得心していましたが、いささか深謀をするということは大変ですし、深謀遠慮から深謀を除いた遠慮でいたいと願うも、それはつまり怠け者でいたいとほぼ同義なので、怠け者と策士家は紙一重なんだろうなという私感でまとめながらもーー、
「ぼくの前に現れてくれるなんて、まさか君たちはぼくを助けてくれるのかな?」
「あの魔術師の帽子を被っている本人も、今はまだ愛鈴様の元にも足を運ぶことができないことをとても残念がっておりましたがーー要件自体は伺っておりますので」
「そうして君はいまのぼくにとってはとても役に立つ”ぼくの人生の参考書のような本”を渡してくれるけどーーぼくもそこまで純粋じゃない。この世界では君たちのような悪魔だったり、君たちがあまり仲の良くない天使は、政治家のような一面があるでしょ。ぼくは見ての通り政治には無関心だけど、君たちが何も理由がないままにただ偽善として手に入れた情報を渡したりするほど暇ではないと思うんだ」
「確かにある意味では私たちも愛鈴様には感謝をしています。愛鈴様がただ優しさを受け取ってしまっているような人には育っていなくて。でも今は愛鈴様にとっても私たちが手に入れたものを必要として頂けて、私たちにとってはぜひともーー」
「ーーぼくのことを罠へと誘いたい。そんなうそのない現実があるというだけ?」
「いいえ。ぜひとももしも愛鈴様のお力添えになれれば、それはとても喜ばしいことになるということです。それに優しい愛鈴様だからこそ心のどこかでは思って下さっている。ーーあの魔術師の帽子の青年なら本当にただ暇なだけなのではと?」
小さく笑った愛鈴の気持ちを本という形にならって述作したのなら、”悪魔たちと裏切りの女神が味方なんてーーぼくは本当にこの世界の反逆者だね?”なんていうものになったのかもしれませんが、瑞葉くんたちがいる図書館へと向かおうとする愛鈴の数歩後ろを添書を運んでくれた少女が貞淑そうに歩いてくれている中で、足取りが青空の下の列車の汽笛の音に急かされるようでもなかったのはーー。
「でも君はとても賢そうだ。だから本当は君たちのほうがそんなに下手に出るようなことはなくても、ぼくが断ることがないことだってわかっていたんでしょう? ぼくにとってはとりあえず今は君たちの情報が役に立てばそれでいいし、もしも思っているよりも早く”白と黒”がわかるなら、それはそれでプラスかもしれない。ーー時と状況によるけど、後者のほうがぼくには価値があることもあるはずだから」
「愉快な賢さが愛鈴様にはあるとおっしゃっていました。あの魔術師の青年も」




