第20話「運命の戯曲」と「偶然の背景」
もちろん愛鈴にとっても瑞葉くんのことは信じていました。もしかしたら彼なら大切な何かにも本当に気付いているのくれるのかもしれないと。でもだからと言って何もしないまま手持ち無沙汰に瑞葉くんのことを待っているのかというと、それとこれとはまた別でしょう。今の愛鈴にだって何かわかることはあるのかもしれません。もしかしたら瑞葉くんとはまた別の視点から。それが瑞葉くんの助けとなるなら、彼に面倒ばかりかけている愛鈴の申し訳なさも多少は緩和されるはずでした。住めば都とはいうものの、どれほど好意的にみたとしても”バラック小屋のような自らの運命”を友人ばかりに直させているのは、さすがに笑えませんから。
先に図書館へと向かってくれた桜雪ちゃんや風歌ちゃんに月葉ちゃんのことを任せ、あの黒き影の惨殺死体があった場所をもう1度訪れてみたのです。でもやはりこの場にも何の痕跡もありません。この場所で確かに愛鈴が、可否も是非もないままに世界の全てが背景のようになっていくような感受性を抱いたことは現実だったはずなのに。またもや全てが嘘であるかのように何も存在していないのです。
愛鈴は紫陽花が旗雲から注ぐ和光を浴びる路地に膝をついたまま、何かを探すように石道を手で触れてみますが、この頃の娑婆で水のように溶けている何かを分かったりもしません。思うことと言えば愛鈴の周りで起きている全ては、本当に偶然なのかということと、ユフィリアがもしもそばにいたらどうしてくれているのだろうということぐらいでした。もうユフィリアと会えないわけでもないはずなのに、ふとした時に迫ってくる悲しさと寂しさが入り混じったような不思議な感情が、それは愛鈴にとっては大きな心の空洞となってしまったのかもしれません。
「ーーあぁ。ユフィリア。それも君がぼくにとって美し過ぎるのがいけないんだ」
なんていう譫言のような戯言を戯曲の主人公にでもなったかのようにのたまいながらも、空中から地上に降り立つような音がにわかに届くと、何かが気になったようにしてというよりはそちらに意識を移すようにして、後ろを振り返るとーー。




