1−5|当惑
男の声が私の頭の中に響き渡る。
「汝は我に何を求める」
私は一瞬、頭の中が真っ白になった。
それは頭の中に声が直接響き渡っていることと
目の前に起こっていること。
頭の思考が追いつかない。
この場に誰かがいるわけでもなく、
どこから話しかけられているのかもわからない。
あと、私が見ているものは何なのか?
さっきまで、この盗賊の人たちと話をしていたし、
それ相応の色もあった。
しかし、すべての色という色が灰色に染まっており、
時が止まっているように見える。
本に触れてからだ。
……体を動かそうとしても、動かない。
まるで金縛りにあっているような感覚にさらされる。
全てはこの本に触れてからだ。
「何を求める」
響き渡る声。
どうやって声を出したら、いいのかわからない。
「……あ」
……心の底から話したいと思えば、話せるのか
「ちか……力が欲しい」
「汝が言う力というものはどういうものか」
「どういうもの……」
「護る力、護られる力、支配する力何通りもある。
して、汝はどの力を欲する」
私が欲しい力は・・
☆ ☆ ☆
「……ここはどこだ」
透と彼方は倒れていた。
体を起こして、周りを見渡すと透の住んでいる町が見える。
「ここはーー」
「公園ね」
彼方が歌っていた場所、透にとってはお気に入りの場所。
そんな場所にワープされた。
透の家の地下から、石碑と一緒に。
「本当はここにあったというわけね」
「本当は?」
頷く彼方。
……
「あのさ」
口火を切ったのは透だった。
透は複雑な表情をしている。
怒り、困惑、悲しみ、様々な感情が心の中に渦めいている。
「鳳、どうして俺はこんなことになったのかな」
彼方は立ち上がり、石碑を見ている。
「そりゃ、毎日がつまらないと思ってたけど
こんなのあんまりだって……」
彼方は公園を歩き回っている。
何かを調べているような感じがする。
「おい」
「ん……」
「鳳!」
「え、何」
素っ気ない素振りをする彼方。
「私に喋りかけてたの? 独り言かと思った」
「……」
「ここは安全、あの人たちの気配も感じられないし」
「安全? そんなのどうしてわかる」
「この石碑を起点に公園全体に結界が張られてるから
誰も入ってこれないと思う」
「あ、そう……そんなこと言われても俺には何のことか」
「それで? 私に聞かれてもわからないことだらけだけども、
それでも私に聞くの?」
「お前しか、状況を把握できそうなやついないし、
まさか、あいつらに聞くわけにはいかないだろ」
彼方、ため息をつく。
「わかった、私がわかる範囲で説明する」
雲ひとつない快晴。
まるで、時が止まっているかのような景色と時間の流れの中で
彼方は話し始める。
「少し、長くなるから座ろうか」
石碑の周辺、そこだけなぜか、草が整っている。
透が座ろうとすると一瞬、体が浮き上がった。
「なんか今」
「体が少し浮いたでしょ?」
彼方の手のひらに渦を巻いている風が見える。
「私が使える属性は風、私はそれだけ」
手のひらの風がなくなり、拳を握る。
「この世界には魔法という言葉は存在するけど、
それは架空の話であって現実の話ではない
だけど、こうやって使える人はごく稀にいる」
「ごく稀?」
「無意識に使ってる人がいるんだよ。
例えば、晴れになれって思った人がいた
大雨だったのに数分後快晴になったとか」
ん〜っと唸りながら、透は考え込む。
「それはただの気候の変化とかではなくて?」
「例えばだよ。台風がいつの間にか消えて無くなったとか」
「確かにたまにあるけど、それも魔法の仕業ということ?」
「人によって、強さがあるけど、たとえ微弱でも結託すれば
それは大きくなる」
「塵も積もれば山となる?」
「そんな感じ」
・・・・・・
「それで何が言いたいの?」
透は問いかける。なぜか真意から離れた気がするから
「この世界では魔法なんて存在しないと思われてるから
使えると言っても、ただ馬鹿にされるだけでしょ」
「まあ、確かに」
「でも、私の世界は違う」
「私の世界?」
「そう、私の世界……こことは違う世界線のお話。
魔法という概念があり、その力は迫害されている世界」
「この世界でも昔、魔女裁判というイベントがあったの知ってる?」
「確か、魔女と告発されて、何人もの人が処刑された」
頷く彼方。
「それが何百年と続いてるの、私たちの世界では。
だから、魔法が使えるのを隠していかないといけない」
「どうして何百年も……」
「戦争があったんだ」
「戦争……」
「1人の魔女が全世界を相手にして、たった数ヶ月で世界人口の3分の1の人間を滅ぼした戦争。
理由はわからないけど、その戦争のせいで私たち、魔法を使える人間は迫害を受けることに」
「疑問なんだけど、どうして鳳はこの世界に?」
口を噤む彼方。
「言えないのか?」
「いや、別に……」
「言えないならいいんだけどさ、ひとつだけいいかい?」
「なぜ俺が巻き込まれなきゃならないんだ?」
彼方は何も言えず、俯く。
それを見た透は何かを悟ったのか、急に立ち上がる。
「行かなきゃいけない場所がある」




