祝勝会
表彰式が滞りなく終わり、私たちは重厚な勲章を胸に控室へと続く廊下を歩いていた。激しい戦いの余韻と心地よい疲労感が体表を包む中、曲がり角を曲がったところで、またしても見覚えのある影が立ちふさがった。
先ほど本戦で打ち破った、第一騎士団のリーダー格の男だ。
顔には泥がつき、制服も乱れに乱れた彼は、悔しさと怒りに満ちた赤黒い濁ったオーラを全身から噴き出していた。敗北の屈辱に耐えかねたのか、彼は血走った目を私に向け、吐き捨てるように言った。
「……おい、新米の小娘が。運良く勝てたからって、いい気になるなよ。どうせお前のような役立たずが、まともな実力なわけ――」
ねっとりとした侮蔑の言葉が最後まで紡がれることはなかった。
「――そこまでだ、ルーク。」
冷え切った、しかし芯のある凛とした声が廊下の空気を一瞬で凍りつかせた。
びくりと男――ルークの肩が跳ねる。私たちは驚いて声の主の方へと視線を向けた。
そこに立っていたのは、鮮やかな赤髪を短く刈り上げた、引き締まった体躯の女性だった。凛々しい眉の下にある琥珀色の瞳は鋭く、第一騎士団の最高峰を示す端正な制服を纏ったその姿は、周囲の空気を圧倒するほどの気高さを放っている。第一騎士団団長――ローザリンデが発する気迫は、絶対的な威圧感を伴っていた。
「だ、団長……っ!?」
ルークは顔面を真っ青に染め、情けない声を漏らしてその場にへたり込みそうになった。
彼女は、震えるルークを一瞥すると、怒りを込めた声で容赦なく叱責を飛ばした。
「我が部下の不始末、見ていて実に不愉快だったな。敗北した上に、公式の場で負け犬の遠吠えを上げるとは、第一騎士団の誇りを泥で汚す気か!」
「し、しかしこいつらは――」
「言い訳無用!」
団長の鋭い一喝が廊下に響き渡り、ルークはもはや恐怖でまともに息もできていない。彼女はさらに一歩詰め寄り、その男を真っ直ぐに見据えた。
「実力の世界において、結果がすべてだ。正々堂々勝負に敗れ、それを認めもせず陰湿な嫌がらせを繰り返すなど、騎士の名に値しない。これ以上我が騎士団の名を貶めるような真似をすれば、ただでは置かん。今すぐ消えろ!」
「はっ!……申し訳ありませんっ!」
ルークは血の気を引かせた顔のまま這うように逃げ出していった。足音を響かせて遠ざかる背中を見送った後、赤髪の団長はふっと息を吐き、それから視線をまっすぐ私へと向けた。
緊張でわずかに体がこわばる私に対し、彼女は不敵で、しかしどこかサバサバとした鮮やかな笑みを浮かべた。
「見苦しいものを見せたな、第二騎士団の新米。――お前の戦いぶり、見事だったぞ。誇りを持って胸を張れ。」
その言葉には、私情を挟まない純粋な武人としての敬意が込められていた。彼女の纏う強い赤のオーラからは、偽りのない称賛の色が揺らいでいる。
「……ありがとうございます。」
私は背筋を伸ばし、しっかりと頭を下げて答えた。
ルークのような人間がいる一方で、こうして実力を正しく認めてくれる強者もいる。広がり始めた私の世界で、新たな出会いと確かな手応えを胸に、私は再び顔を上げた。
夜更けの食堂は、王国合同演習の勝利を祝う第二騎士団の祝勝会で熱気に包まれていた。テーブルの上には山のような料理とエールジョッキが並び、あちこちで陽気な笑い声やグラスがぶつかる音が響き渡っている。
「いやあ、本当によくやったよな、リズ!」
オリバーは真っ赤な顔でジョッキを傾け、豪快に笑い声を上げた。彼の背中から発せられるのは、勝利の興奮と安堵に満ちた明るいオレンジの光だ。私も負けじとグラスを持ち上げ、彼と軽くコツンと合わせる。
「オリバーこそ、あの場面でしっかりサポートしてくれたから勝てたのよ。お疲れ様。」
「へへ、相棒の晴れ舞台だもんな!」
私たちが笑い合っていると、その声を聞きつけた周りの先輩騎士たちが次々とやってきた。普段は厳格な面持ちをしている古参の騎士たちも、今日ばかりは気さくな笑みを浮かべて私たちの肩を叩いていく。
「おい新米、予選から本戦までのあの立ち回り、見事だったぞ。最初の頃の心配は完全に杞憂だったな。」
「第一騎士団の生意気な連中をギャフンと言わせてくれたお陰で、こっちまでスカッとしたぜ。よくやった!」
次々にかけられる称賛の言葉。仲間として認められ、背中を叩かれている。その一人ひとりのオーラに触れると、そこには嘘偽りのない敬意と歓迎の色が温かく揺らいでいた。
「ありがとうございます。皆さんの支えがあったからこそです。」
私が頭を下げると、先輩たちは「謙遜するなよ、お前らは十分な活躍した!胸を張りな!」とさらにグラスを勧めてくる。
賑やかな喧騒の中、私はふと少し離れた席に目をやった。
そこに座るウォルターは、周囲の熱気から少し距離を置くように静かにエールを飲んでいた。しかし、私と視線が合うと、グラスをわずかに掲げて無言で頷いてくれる。その不器用な態度に隠された確かな誇らしさを感じ取り、私は自然と笑みをこぼした。
居場所がなかった過去を抜け出し、自分の足で切り拓いたこの世界には、温かい仲間と確かな未来が広がっていた。




