新しい任務
一緒に過ごしたあの休日から数日が過ぎたある日の訓練終わり、私たち数名の騎士は団長室へと呼び出された。
重厚な木の扉をノックして室内に足を踏み入れると、執務机の向こうから鋭い視線を向ける第二騎士団団長・レイモンドの姿があった。その傍らには、ウォルターも腕を組んで控えている。
呼ばれたのは私とオリバーを含めた、若手の中でも特に実力を認められつつある数名の精鋭たちだった。
「全員揃ったな。早速だが、お前たちに新しい任務を言い渡す。」
レイモンド団長は低い声でそう告げると、手元にあった一枚の羊皮紙をテーブルの上に広げた。
「近頃、王都で急激に勢力を伸ばしている『アシュレイ商会』の護衛警護任務だ。彼らは独自のルートで高品質な魔導具や特産品を扱い、瞬く間に商界の中心へと躍り出た。だが、その急成長ゆえに既存の古い大商会や、彼らを快く思わない者たちからの妬みを買っている。」
団長の瞳が、私たちを順に射抜くように見据えた。
「ここ最近、彼らの輸送部隊や店舗に対する嫌がらせや、悪質な妨害工作の噂が絶えん。近々、他領へ向けた大規模な商団の移動がある。第二騎士団の威信にかけて、商会の安全を完全に守り抜くのが今回の任務だ。」
「はっ!」
私たちは一斉に力強く返事をした。
第一騎士団とのいざこざを乗り越え、実力を認められたからこそ任された重要な任務だ。これまでの努力が実を結んだ証を感じて胸が高鳴る。
ふと視線を横に向けると、ウォルターがわずかに目を細め、私にだけ伝わるような静かな信頼の視線を向けていた。
新しい大剣の重みを腰に感じながら、私は気を引き締め直す。これまでの訓練の成果をすべて発揮し、この任務を完璧にやり遂げてみせると、私は心の中で静かに誓った。
数日後、私たちは護衛対象である「アシュレイ商会」の本館へと赴いた。
豪華な応接室に通され、少し緊張しながら待っていると、軽やかな足取りで鮮やかなオレンジのオーラを纏った一人の男性が部屋に入ってきた。
「やあ、第二騎士団の皆さま! わざわざ足を運んでいただきありがとうございます。アシュレイ商会会頭の、アーサー・アシュレイです。どうぞ楽にしてくださいね。」
現れたアーサーは、整った端正な顔立ちに人懐っこい笑みをたたえた、非常に男前な青年だった。豊かに広がる黄金色の髪は、日差しを浴びるとまるで本物の金貨のように眩しく輝き、少し長めの前髪の隙間から覗く、澄んだトパーズ色の瞳は、先を見据える鋭い知性を宿していた。商会のトップといえば厳しい人物を想像していたが、彼の纏う空気はどこまでも気さくで明るく、部屋の緊張が一気にほぐれていく。
アーサーはソファから立ち上がり、私たち一人ひとりのもとへと歩み寄ってきた。
「あなたがウォルターさんですね。よろしくお願いします。」
「あぁ」
「こちらはオリバー君だね。頼もしい目をしている! そして――噂に名高いリズさんだな。若くして見事な腕前だと聞いています。よろしくお願いします!」
一人ひとりと丁寧に握手を交わし、気さくな言葉をかけていくアーサー。その温和で堂々とした振る舞いからは、一代で商会を急成長させただけの器の大きさがしっかりと伝わってくる。彼の周囲には、太陽のように明るく濁りのない、信頼に満ちたオーラが広がっていた。
全員との挨拶を終えると、アーサーは笑顔を引き締め、執務用の大きな地図をテーブルの上に広げた。
「さて、皆さんの緊張が少しでもほぐれたところで、今回の目的地の話をしましょうか。」
彼はペンを手に取り、地図上のルートを指し示した。
「今回の目的地は、隣国の交易都市『オルテア』です。通常であれば数日の道のりですが、今回は大量の魔導具や特製品を積んだ大型馬車を含む大規模な商団となります。そのため、移動速度はどうしても落ちてしまう。」
アーサーは真剣な眼差しを私たちに向けた。
「敵が狙うとしたら、山越えの難所である『ルベウス峠』のあたりでしょう。あそこは視界も悪く、街道から外れた野盗や、あるいは私たちを快く思わない同業者の差し金が最も動きやすい場所です。どうか、安全にオルテアまで私たちを導いてください。」
「承知しました。ルベウス峠の警戒は特に厳重に行います。」
ウォルターが代表してハッキリと答えると、アーサーは安心したようにふっと柔らかく笑った。
「心強い限りです! 道中長旅になりますが、どうかよろしくお願いしますね」
気さくでありながら隙のない商会のトップと、私たち第二騎士団の精鋭たち。大きな商団を守るための緊張感ある旅が、いよいよ始まろうとしていた。
王都を発ったアシュレイ商会の巨大な商団は、ずらりと並んだ馬車の車列を組み、のどかな平原から徐々に険しさを増す街道を進んでいった。
先頭を行く馬車のすぐ脇を、私は愛用の新しい大剣を携えて馬を進める。オリバーや他の第二騎士団の仲間たちも周囲を隙なく警戒し、商団全体が緊張感を持った隊列を維持していた。護衛の依頼主であるアーサー会頭は、道中もピリピリとした雰囲気を和らげるように、時折馬車から顔を出しては騎士たちに差し入れを配ったり、声をかけたりしてくれていた。そのお陰で長旅の疲労や過度な緊張が和らぎ、私たち部隊の士気は非常に高く保たれていた。
そして――出発から数日後。
ついに、今回の最大の難所である「ルベウス峠」の麓へと差し掛かった。
空はどんよりとした雲に覆われ、周囲を囲む険しい山肌は深い森と岩陰に隠れて不気味な影を落としている。道幅は急に狭くなり、これでは大型馬車がスピードを上げることはおろか、万が一襲撃を受けた際の回避行動も制限されてしまう。
「ここから先は、より一層気を引き締めるぞ。」
隊列の中央あたりから、馬を進めてきたウォルターが低く、よく通る声で指示を飛ばした。
彼の纏う鋭い青のオーラが、周囲の警戒感を一気に引き締める。私はその背中を横目で見ながら、こくっと力強く頷いた。
「はい。周囲の気配、私の方でも注意深く探ります」
私の能力のことは口に出せないが、「卓越した洞察力と勘」として、わずかな物音や草木の揺れにも意識を集中させる。
視界の悪い山道に入り、馬車の蹄の音と車輪の軋む音だけが静寂に響く中、私たちは警戒の度合いを最高潮にして、険しいルベウス峠の深い懐へと足を踏み入れていった。




