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第9話:継羽満月とは一体?①

 継羽満月とは、一体誰なのだろうか? この謎の本当のことは……。


「『でも』じゃない! 言いなさい——『お金を貸してください』って!!!!」


 一人の茶髪の男の子が、黒髪の男の子に向かって大声で叫んだ。


「か……お金を貸してください」


「いいだろう。頼まれたから貸してやる」


 継羽は建物の後ろに隠れていた。彼女は建物の陰から、茶髪の男の子……学校の友達を助けるためにお金を貸す提案をした、ルイス・グリーンフィールドの笑顔をこっそり見つめていた。


 助ける理由なんて何もない。自分のおうちの生活だって良くないのに、もう一つの人生を背負おうとしている——バカだなあと思うけれど、彼がいつも言っている『ゲームの主人公』だからなのかな。このためにわざわざ安い寮に住んで、お金を貯めていたわけじゃないよね。


 とにかく—問題が一つ解決した。彼女はそう思ってニヤッと笑うと、


 日が昇る前の夜道を歩き始めた。


「無駄足になってしまいましたね」


 継羽満月は、自分の姿を変える高級な魔法『へんしん』を使って、カジノまでこっそりついてきていたのだ。彼女が住んでいる国の、ある一族に伝わる魔法だ。


 様子を見て、自分のお小遣いでその主人公を助けてあげようと思っていたけれど、ルイスに先を越されてしまった。


「まあいいです。女の子でなければそれでいいです」


 言い終わると、へんしんの魔法が解けた。継羽はくすくす笑いながら、自分が思い出している人がどんな顔をするか想像してみた。


 継羽満月とは、一体誰なのだろうか?彼女は分厚いノートを取り出して、ページを開いて読み始めた——表紙には『フロントゥアクス・ミラクル 記 覚えてる範囲で By.ルイス・グリーンフィールド』と書いてある。


 そう、それはルイス・グリーンフィールドが書いた、この世界のお話のノートだ。


 書かれていることはほとんど本当のことだ。ルイスが書きたかったことと覚えていることしか書いていないから、詳しいことが抜けているけれど。


 ゲームの主人公の名前すら書いていないし、ヒロインたちのお話もあまり詳しくないけれど、継羽は大事なところを理解することができた。だから未来のお話や、ヒロインたちのことが少し分かっていた。


『キャサリン・ダークモア』生徒会長で、学校の有名人。


『ラーラ』有名部活のエース。


『フィレーナ・サルヴィア』昔の悲しい事件のせいで呪われた子と呼ばれている、つぶれた有名な魔法使いの家の子。


『カイラ・モンテロ』商人のおうちの娘で、生徒会の一人。


『シレーナ・エステル・ドーベンシェア』第二王女様。


 ルイス・グリーンフィールドがハーレムを作ろうとしている5人のヒロインたち……あ、一人減らさないといけないけれど、まあいいや。


 継羽は5人のことを少しずつ知ろうとしてきた。ただ……『フィレーナ・サルヴィア』という、部屋の隅っこにいて誰とも話さない灰色の髪の女の子だけは別だ。自分と同じ魔法剣学科なのに、あまり話したことがない。


 それともう一人——この国の第二王女様である『シレーナ・エステル・ドーベンシェア』も、話す機会があまりなかった。


 仲良くなったキャサリンやラーラとは違って、この二人とは全然話す機会がない。それともう一人、仲良さそうに見えて実はよく知らない女の子がいた。


 ギャル? ルイスはそう呼んでいた。有名な商人のおうちの娘。 カイラ・モンテロだ。


「ヤッホー、つきはちゃん!」


 後ろから明るい声が聞こえた。


 継羽が振り向くと、胸がペタンコな可愛い女の子がいた。


 身長は165センチくらい。肩までの長さの茶髪のポニーテールで、うすい赤色の目、小麦色の肌をしている。ちょっとエッチな私服を着ていて、胸が見えるニットと短いパンツ、ハイヒールを履いている。


「……カイラさんですね」


 ゲームのヒロイン、カイラ・モンテロ。


「イェーイ! たまたま会うなんて超ラッキー!」


「そうですね。ところで、こんな夜遅くに何をしているんですか?」


 カイラは指をお口にあてて、恥ずかしがりもせずに言った。


「男を探し中よ〜」


  この人は、相変わらず毎日こんな感じだ。


 カイラ・モンテロは勉強も何もせず、毎日パーティー好きの友達や、良くないことばかりしている。特に男の人との噂話が毎日あって、学校の格好いい男の人たちをほとんど食べちゃったという噂まであるくらいだ。


 本当なら継羽にとって一番危険な人だけれど、運良くルイスは彼女のタイプではなかった。彼女は男らしい人が好きだったのだ。


「あら、つきはちゃんこそ何してるのかな~? 内緒で好きな人に会いに行ってきたのかな~?」


「そうですね」


「えぇぇぇ!? ウソでしょ、もういるの!? ねぇねぇ、紹介してよ!」


 いるわけないけれど、いても絶対に教えてあげない。


 カイラ・モンテロは、他の人の男の人を食べてみたくなるタイプだ——継羽は彼女と知り合ってそれを学んだ。


「冗談ですよ。私は学生の間に恋人を作ることを許されていませんから。知っているでしょう?」


「まあそうだけどさ〜! でもでもでも! つまんないじゃん! こっそり付き合っちゃえばいいじゃん! 学生の思い出だよ~!」


「考えておきますね。それでは」


「おっと、もう行っちゃうの?」


「カイラさんは用事があるのではないのですか?」


「うん、約束してあるんだ〜! 騎士学科の男友達3人と、女の子が一人かな。私を入れないでね~! つきはちゃんも来なよ!人数が揃った方が楽しいじゃん!」


「私はそういう場所には向きませんから」


「みんな最初はそう言うんだよね~!」


 カイラは継羽の腕をつかもうと手を伸ばした。強引に連れて行こうとしたけれど、継羽は後ろに下がって避けた。急に空気が重くなった。


 継羽はため息をついて、落ち着いて答えた。


「私は男の人に興味がありません」


「……ヒヒッ、本当かな~?」


 カイラはニヤッと笑って、言った。


「この前、ルイス・グリーンフィールドと一緒に歩いていたじゃん」


「……」


「あの時、つきはちゃん、すっごく笑顔だったよ! 私と一緒にいる時とは全然違ったもん!」


 いつからカイラに見られていたんだろう。いくら考えても思い出せなかった。きっとルイスの変な話を聞いていて、油断していたからだ。 バカはうつるって本当だな。


「そういうタイプが好きなら言ってよ~!」


 カイラ・モンテロは、ずっと継羽のことを見ていたみたいだ。


「……」


 継羽が警戒したからだろう。


「あ、変な意味じゃないよ! つきはちゃんに興味があっただけ! だってキャサリンさんとたくさん関わっているし、楽しそうなこといっぱいしてるじゃん! 人を助けたり、誰かを追っかけたり! たまに私も見張られているのかな~って思っちゃうよ!」


 冗談っぽく言っているけれど、継羽が時々自分をつけていることを知っているのだ。軽くからかってきている。


「女の子なんだから、警戒するのは当たり前だよね! それに一番大事なのはね~!」


 カイラはピースサインをした。


「楽しそうだなって思ったから、見られる範囲で見つめていただけだよ! 変なことは何もしてないからね!」


 彼女は続けた。


「今のところはね!」


 カイラは笑顔を見せた。あまり気持ちのこもっていない笑顔だったけれど、悪い気持ちも入っていなかった。カイラ自身が何も感じていないみたいだった。楽しいと言っていたけれど、本当に楽しいと思っているのか月羽には分からなかった。


 考えを読み取るのが難しい。


「さすがモンテロ家のお嬢様ですね。耳も目も早いですね」


「へへっ、ほめてくれてありがと! じゃあね~!」


 カイラは後ろに下がりながら、継羽に手を振った。


「ずっと応援してるからね、つきはちゃん! いつでも相談に乗るよ! 私、恋愛のプロだから!」


「何のお話か分かりませんが、ありがとうございます」


「あらあら~!」


 カイラは路地に消えていった。継羽は少し歩いてから立ち止まり、自分の胸に手を当てた。 ……


 ……


 ……ドキドキ、ドキドキ、ドキドキ、と。


 胸が激しく鳴っていた。警戒されたからでも、後をつけていたことがバレたからでもない。ある人の名前を出されて、「そういうタイプが好き」だと疑われたからだ。


「……カイラ・モンテロ……やりますね」


 継羽の顔は真っ赤になっていた。彼女は奥歯を強く噛みしめてイライラした。


 ゲームのヒロインの一人、カイラ・モンテロは、継羽がルートに入ることができない相手だった——ゲームの知識が足りないのか、それとも自分自身の問題なのか。お話通りに進めても、彼女に信用してもらうルートに入ることができなかった。まるで大事なのは行動ではなく『本当の自分』で、カイラは目を合わせるだけでそれを見抜いてしまうみたいだった。


 お金持ちで、すごいコネクションを持っていて、貴族でも何もできないくらい強い。頭が良くて、人と付き合うのが上手で、学校で一番人気がある——弱点がない人だ。


 ノートのお話の中にも、彼女の悪いところは一つも書いていなかった。彼女のルートも、最初から最後まで主人公を助けてあげるだけのルートで、『主人公ルート』と呼ばれているくらいだ。


 言ってみれば『継羽・満月』と似ている。けれど……このノートに書かれている彼女と似ているだけだ。


 ルイス・グリーンフィールドに疑われた、本当の彼女。 その小さな弱点。


「私……その部分が一番嫌いです」


 継羽は小さくつぶやいた。胸に手を当てて、もう少し続きそうな心臓の音を聞きながら。


 @@@@@

 次の日の朝。彼女は特別な方法を使って、短い時間でぐっすり眠ることができた。今のところ誰にも説明できない方法だ。そして朝早くからルイスとの約束の場所へやってきた。


「遅刻ですね」


 約束の時間とは違うけれど……まあいいや。 継羽は近くに座って、ゆうべのことを思い出してニヤニヤしていた。その時、一人の人がトレーニングをする場所に入ってきた。


 背が低い女の子だ。継羽よりも背が低くて、150センチくらいしかない。ジャージを着て、長いパンツを履いて、スニーカーを履いている。キャップをかぶって、マスクと黒い眼鏡をつけている。全身で自分を隠しているけれど、よく見ると金色の髪が見える。


 その人はオドオドしながら歩いてきて、怪しいし、なんだか見覚えがあった。


 その身長、その髪の色……。


 怪しい女の子は、慣れない様子でダンベルを持ち上げた。変な格好で2、3回持ち上げると、ダンベルを置いて、道具を使わずに立ったり座ったりし始めた。


 しばらくすると静かになって……ぐるぐる回って……ジャンピングジャックをして……またダンベルのところへ戻ってきた。背中に効かせたいみたいだけれど変な格好をしていて、合っているのか分からない。最後はまた静かになった……けれど、今度は継羽の方を見てきた。


 あらら、継羽が見すぎちゃったみたいだ。 マスクと黒い眼鏡の向こうから、熱気が伝わってきた。


「な、な、な、な」


 な、な、な、な?


「んぐぅぅぅ!!」


 その人は頭を振ると、走ってトレーニングの場所から逃げていってしまった。


「……はぁ」


 ゲームのヒロイン5人のうち3人は、ルイス・グリーンフィールドより先にルートに入ることができなかった人たちだ。そう、邪魔をすることには成功したけれど、完全に主人公の代わりになれたわけではない。ルイスが「継羽が全部解決した」と思っているのとは違っていた。


 このことについては、本当に良かったと思っている。


【フィレーナ・サルヴィア】は暗すぎてどうやって仲良くなればいいか分からない。人間の言葉が通じないみたいだ。


【カイラ・モンテロ】は考えていることが分からないし、仲良くなろうとすると逆に見抜かれてしまう。


 そして最後の【シレーナ・エステル・ドベンシャ―】は……。


「相変わらず変な人ですね、あのヒロインは」


 継羽はシレーナ……つまりさっき走って逃げた怪しい女の子のことを言っていた。彼女は変すぎるし、ノートにも情報が載っていない。 継羽が仲良くなろうとして分かった本当のことは、第二王女様のシレーナ・エステル・ドーベンシェアは『変なツンデレ女の子』だということだ。


「……」


 そうだとしても、シレーナは一番警戒しなければいけない相手だ。カイラがルイスに興味がないと分かったから……なんて言えばいいのかな。


 継羽にあごに手を当てて、不満そうな顔をした。


「あの人、ルイスと相性が良すぎて心配になります」


 きっと二人とも変だからだろうね。 そう思って継羽は深いため息をつくと、ルイスが来るのを座って待った。彼が来るのはあと1時間後だ……。


 継羽満月とは、一体誰なのだろうか?


 今のところ彼女は、あることに夢中になっている一人の女の子に過ぎないのだろう。


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