第7話 : ゲームの主人公
レナード。ゲームの主人公が、目の前に現れた。
「……やあ。……ううん、こんにちは。『ルイス・グリーンフィールド』です」
「私は……『継羽・満月』です」
「……『レナード・タワー』です」
『レナード・タワー』。本物のゲームの主人公だ……すごいな。ゲームのヒロインたちが言っていた通り、可愛い顔をしている。でも、僕の方が可愛いと思うけどね。1ポンドずつ比べたら……いや……よく見ると難しいな。
まったく、めちゃくちゃ可愛いじゃないか!
「まさかゲームに入ったら、主人公が女の子に変わってたみたいな設定じゃないよね?」
僕は身を寄せてコソコソ言った。
「6人目のヒロインの登場なら、正直言っていけるけ——」
継羽はうっとうしそうに僕の顔を押し返した。
「ところで、レナードさん」
「レナードでいいですよ。さっき大声で呼んでいましたし」
そうだった。大きい声で話していたんだった。
僕と継羽は目を合わせて、うなずき合った。
「……少しお話しできますか? レナード」
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「つまり、家のお店がつぶれて両親が逃げた。お金を残すどころか借金を残して、自分たちの貯金を全部持って新しい生活を始めた。だから授業料が払えなくなって、でも学校をやめたくないから、こっそり抜け出して働いてお金を払おうとした、ということですね?」
「そうです」
「頭が良い方法とは言えませんけれど、一日か二日くらいは支払いを遅らせることができるかもしれませんね」
レナードはうつむいて、悲しそうな顔をした。
「店員さんの仕事をしていても、授業料なんて払えるわけがありません」
「私たちが通っている学校は、この国のお金持ちが通う学校ですよ。学校の維持費だけで貴族のお屋敷の家賃と同じくらいです。授業のお金なんて言うまでもありません」
「そうですよね……はは、その通りです」
「先生たちに相談してみましたか?」
「言ってみました。でも、助けるほどの才能がないと言われました」
……まあ、そうだろうな。
「……一日二つの仕事をすることで問題を解決しようとしました」
「あら、とても頭がいいですね」
継羽はいやみっぽく言った。レナードは話を続けた。
「もう一つの仕事は工事現場です。でも二つ仕事をしても、三つにしても足りません。たった一ヶ月の時間では、僕は……」
レナードは真面目な顔で言った。
「全部賭けたんです」
「全部賭けた?」
「カジノでです」
ドテッ!!!!
僕は頭から床に転び、継羽は目を丸くした。
「それでお金を全部なくしました。昨日あったことです。今でも怖くて眠れません……寒いですね、人生って」
「うん、聞いてるだけで寒くなってきたよ」
レナードは自分の肩を抱きしめて温まろうとした。継羽は指をさした。
「この人の人生、もう終わりですね」
「終わり?」
「そんなこと言うなよ、継羽・満月。主人公を信じろよ。主人公にはいつだって助かる道があるんだ。こう見えても、ゲームの女の子たちはみんなで主人公を養ってくれるんだぞ。みんなお金持ちの家のお嬢様なんだから。キャサリンさんがいなくても、俺のだから……」
「そうですか。誰も助けてくれないのですか?」
「……誰もいません。最初の週からずっと学校を休んでいますから」
そうだよね。
助けに来てくれるイベントも、全部この悪女に奪われちゃったんだから。
「こいつのせいだぞ」
「指をささないでください。失礼です」
僕は手を下げた。
「今はどうしたらいいか分からなくて、本当に困っています。ははは」
「お金の問題は、お金で解決するしかないな」
「え?」
僕は大きなため息をついて、仕方ないなと思った。
「俺がお金を払ってあげるよ。後で返してね」
「嫌です」
レナードはすぐに断った。
「僕の問題です。他の人に迷惑をかけるわけにはいきません」
「すごい宮廷魔術師になれなくなるぞ」
「えっ、な、なんで知ってるんですか!?」
レナードは少し驚いて、僕がどうして自分の目標を知っているのか不思議そうにした。でも、あいつはまた笑顔を作って答えた。
「来年また頑張ります。来年だめなら、ずっと頑張り続けます」
「才能がない人が、どうやってたくさんのお金を稼ぐんだよ」
「できる方法を全部試してみます……ずっと追いかけてきた夢ですから」
レナードは目を細めた。
「ずっと楽しみにしていたんです。あの人の隣に立って、僕のことを自慢に思ってもらえる日を」
レナードの顔は、苦しい状況なのに幸せそうに見えた。昔のことを思い出しているみたいだった。彼がまだ子供だった頃、そう、あの人と出会った時の——
「もうすぐ暗くなります。長い話を聞く時間はありません。長いお話なら、要約してください。三つの文だけでお願いします」
「……」
「……あ、はい。ごめんなさい」
レナードは困った顔をした。レナードがいい雰囲気を作って昔の話をしようとしたのに、継羽満月はあっさり終わらせてしまった。昔の話を聞く必要なんてない。主人公の邪魔をするのが大好きな悪女らしいやり方だ。
「おい、レナード、手伝ってくれ」
「あ、はい!」
古い物を買い取る倉庫——つまりカフェの中から声がした。レナードはその声の方へ急いで歩いていった。
また僕たち二人だけになった。
「聞いてあげなくてもよかったのか?」
「そんなに興味はありませんから」
「へえ、本当かな? 継羽満月は、ゲームの主人公のことが気になって仕方ないくせに……見ていると自分のダメなところを思い出してイライラするみたい」
僕は誂うように言った。この人が継羽満月本人ではなく、中に入っている男の人か女の人だと分かっていても。
継羽満月は空っぽで、一人ぼっちだ。だから、夢と友達がいっぱいのレナード・タワーが羨ましかった。
だから自分と同じにしてやろうとしたんだ。悪いエンドなら成功するけれど、良いエンドなら返り討ちに遭って、悲しく生きていくことになる。
「ダメなところ? ……そうですね。前はあったかもしれません」
彼女は僕をチラッと見て、ニヤッと笑った。
「でも今はもうありませんよ。お礼を言った方がいいのか分かりませんけれど」
彼女はあごに手を当てた。
「今の人生の『目標』は、誰かの夢を本気で壊すことです。絶対に成功させますよ」
「前と変わってないじゃないか」
「そうですか?」
結局、他の人の夢を壊そうとしているんだから、中身が変わっても悪女のままだよね? 相変わらずだな。
「……」
継羽は僕の顔をじっと見てから、手を伸ばして僕のほっぺをつついた。
「あなた、相変わらず小さいですね」
相変わらず?何のことだ?
「すごいちっちゃいですね」
「鏡を見てみなよ」
僕は手を払いのけた。
「それに、お前よりは背が高いからな」
「ふふ、そうですね。5センチくらいでしょうか。頭をぶつけて黙らせるのにちょうどいい高さですね」
そう言って、継羽は悪女のような笑顔を浮かべた……うん……意地悪なやつに見えるな。
「靴を入れて15センチだ」
「……くすっ!」
そう言うと、継羽はくすくす笑った。 まもなくして、レナードが汗まみれで戻ってきた。かなり大変な仕事をさせられたみたいだ。
彼が戻ってくると、継羽は笑うのをやめた。
「お、お待たせしてごめんなさい。店主さんに荷物を運ぶのを手伝ってと言われて」
「重い荷物? コーヒーの粉の袋? このお店、コーヒーが一杯も売れそうにないのにね」
「一ヶ月働いていますけど、買っていく人を一回も見見たことがありません」
レナードは苦笑いして、否定しなかった。
「それにコーヒーの粉じゃないんです」
「じゃあ何を運んだんだよ」
「古い魔法の道具を売りに来た人がいて、それが大きかったんです」
やっぱり古い物を買い取る倉庫じゃないか。見た目通りだな。
話し終えると、レナードは時計を見上げた。もうすぐ夜になる時間だ。
「あ、ごめんなさい。続きはまた今度にしてください……時間なんです」
レナードは後ろを向いて、お店のおじさんのところへ歩いていった。 おじさんはうなずいて、白い封筒を渡した。
「……えっ」
「何ですか、それは?」
「最後のお金です。なくなったお金は工事現場の分で、今あるのはこのお店のお金です」
ちょっと待って、まさか——
「全部賭けてきます!」
悲劇の始まりが見えるようだ……まあ、好きにすればいいけどさ。 僕と継羽は、すぐに家に帰ることにした。
レナードがこの後どうなったかは誰も知らない。でも、レナードが無事で、自分の運に賭けようとしていることは確かだ……あのカジノでね。
どこかの木にぶら下がったりしていなければいいけど。
レナードは、他人の助けを簡単に受け入れないタイプだ。素直に見えて、変なこだわりがある。キャサリンのお金をもらったのも、色んなイベントで説得されたからだ。でも今回はイベントが起きなかったから、自分のこだわりを持ち続けているんだね。
仕方ないな。 応援してあげることにしよう。




