第6話:行方不明者
ゲームの主人公は一体どこに行っちゃったんだろう? 僕はそんなことを考えながら、継羽の後ろをついて歩いていた。
ご飯を食べ終わった頃にはもう昼過ぎで、僕にはもう授業がなかったし、継羽にもなさそうだった。まあ当然だよね。ゲームの通りなら、クエストを受けた後はちょうど暇になって自由に動けるようになるんだから。
ちなみに、ゲームには「早朝」「朝」「昼」「午後」「夕方」「夜」「深夜)」という時間があって、好きな場所を選ぶと途中で色んな選択肢が出てくる仕組みだった。ぶっちゃけ攻略サイトを見ながら遊ぶのが前提みたいなゲームだ。
結構面白かったよ……まあ最初に遊んだ時はひどいバッドエンドになったんだけどね。
とにかく、今はクエストを進めるか、女の子たちの好感度を上げに行くか選ぶ時間ってわけだ。
最初のプレイの時、僕がキャサリンの写真ばかり選んでいたら、いつの間にか目の前を歩いているこの魔女に後ろから刺されて悲しく死んで、バッドエンドになったんだっけ。
「……行方不明者を探すクエスト、ですか」
継羽がぽつりと呟いた。
行方不明者を探すクエスト? ああ、そういえばキャサリンのお願いって確か、『ある生徒が急にいなくなっちゃったの。悪い事件に巻き込まれたのかもしれないから、手がかりを探してほしいの』みたいな内容だったはずだ。ちゃんと退学の手続きもされていないし、成績が良い生徒だったからね。 やれやれ、相変わらず優しくて面倒見が良いな。
さすが僕が大好きなキャサリン先輩。問題の大小に関わらず、生徒のためならいつだって解決する方法を探してくれる。どこかのトラブルメーカー、ツンデレ野郎や、しょんぼりちゃんっていう人気1位・2位のキャラたちとは大違いだ。 あっ、でもしょんぼりちゃんのことは許すよ。あの子は良い子だからね。だけどあのツンデレ野郎だけは絶対に許さない。
もうすぐ年に一度の大会イベントがあるから、ゲームの知識を使ってあのツンデレ野郎をちょっとからかって遊んでやろう。お仕置きされない程度にね。
頭の中でそんな意地悪な妄想をしていたら、気がつくとこの前行った高いカフェの前に着いていた。
もちろん、継羽をだまして一番高いメニューをおごらせる気満々だ。この世界にあるはずのない『オレオシェイク』がなぜか置いてあるんだからすごい。
まあ細かいことは気にしないでおこう。どうせこの世界は作り話なんだし。
カフェに入ろうとしたその瞬間、
「今回は自分で払ってくださいね」
継羽に先回りして止められた。
「ご主人様なら、お世話係のお金を払うのが当たり前じゃないのか?」
「ええ。じゃあ一日くらい私に口答えしないなら、考えてあげてもいいですよ?」
「……チッ、自分で払えばいいんだろ……いやいや!こんな高いの誰が払うかよ!?」
「じゃあお店を変えましょう」
継羽はそう言って、少し先にある古い木のお店を指さした。一応『カフェ』と書いてあるけれど。
結局ついたのは、どう見ても古い物を売る店にしか見えないカフェだった。
おしゃれなメニューはなくて、あるのは簡単なメニューだけ。しかも写真すらない。
メニューの木には、何かよくわからない虫みたいなのがついているし……。
「「お水で」」
僕と彼女は二人そろって、自分にとって一番良いものを選んだ。
「どうぞ」
濁ったコップに入ったお水が運ばれてきた。僕たちはそれを置いておいて、一口も飲まなかった。それから継羽が話したいことを切り出した。
「一つ、大事なことについて意見を聞きたいのですが」
「運動のメニューならできてるぞ。明日の朝、首を洗って待ってろ」
「それについてはありがとうございます。でも違います」
継羽はため息をついた。
「キャサリンさんからのお願いについてです」
「おお、何でも言ってみろ!キャサリンさんのためなら俺は何でもするぞ」
「……よく分からないのですが、その『フロントゥアクス・ミラクル』というゲームの……ええと、あなた、変だと思いませんでしたか?」
「何がだ?」
「このお願い、『フロントゥアクス・ミラクル』にはなかったんじゃないですか?」
……
……
「あ、本当だ」
学校から急にいなくなった成績が良い生徒を探すなんてクエスト、ゲームにはなかった。
「まったく、自分で遊んだのに」
「クエストなんてたくさんあったんだから仕方ないだろ。お前だって遊んだんだろ?お互い遊んだんだから、気づいた方が教えてくれればいいじゃないか」
「はいはい、そうですね。そういうことにしておきます」
継羽は喧嘩するのが面倒くさそうに、素直にうなずいた。
「それで、どう思いますか?」
「……さあな」
「そうですよね……そのいなくなった人についてですが」
継羽は紙を出して広げ、キャサリンが書いてくれた名前と詳しい情報を確かめた。僕もよく見ようと目を大きく開けた。
……レン……レナード?
「レ、レ、レ、レナードだってぇぇぇぇぇ!!!???」
「レナード……誰ですか、それは?」
継羽は首をかしげて不思議そうにした。
「お前、本当にゲームを最初までやったのかよ!?レナードを知らないなんてありえないだろ!!?」
「説明してください。言ってくれないと分かりません」
ゲームを最後までやって、こいつを知らないなんて絶対にありえない。
だって、だって——こいつは、
「『ゲームの主人公』だぞ!!!」
「なるほど……レナードという名前だったのですね」
「言っておくけど、ゲームに名前を変える機能なんてなかったからな! キャサリンさんのエッチなシーンでも毎回『レナードくん』って言ってたんだぞ! しかも何度もな! 覚えないわけがないだろ! あのツンデレ野郎のうるさい『バカレナード』も、しょんぼりちゃんの『レ...レナード』も、やったやったちゃんの『レンくん』も、ギャルちゃんの『レンくん』もだ!!」
「ララさんとカイラさんですね。それにしても呼び方が全く同じで、性格も似ていますけれど、作った人は考えるのが面倒だったのですか?」
「多分な! ヘタクソなライターにはそのくらいしか作れないんだよ!!」
「ところでツンデレとしょんぽりちゃんって誰のことですか? ツンデレがシレ―ナ王女のことなら、本人の前で絶対にそう呼ばないでくださいね。私は学校の広場で首を切られるところなんて見たくありませんから」
「わかってるよ、気をつける!!」
僕は興奮して息を荒くしながら、話を続けた。
「レナード、16歳、身長165センチ、白い肌に黒い髪と黒い目、普通の見た目だ。魔法の力は少ないけどがんばり屋で、有名な魔法使いの家じゃないのに魔法学校に合格した。目標はすごい魔法使いになることだったけど、その途中で家のお店が倒産した。両親は彼を捨てて逃げて、お金も一瞬でなくなった。絶望していた彼をキャサリン先輩が助けて、その代わりにお仕事を手伝うことになって、色んな人と出会って特別な関係になっていく……それがレナードだ」
「主人公らしいお話ですね。かわいそうです。彼から主人公の場所を奪うなんて、本当に心が冷たいですね」
「お前だってやってるだろ!!」
「私の場合はわざとやったわけではありません。その主人公さんをいじめるつもりはありませんでしたから」
「信じるかぁぁぁ! 信じるもんかぁぁぁ!」
「はいはい、好きにしてください。でもこれで、レナードさんがどこへ行ったのか答えが出ましたね」
そうだな、一体どうしていなくなったんだろう……。
「……あっ」
「やっと気づきましたか」
継羽がニヤッと笑い、僕もそれを見てニヤッと笑った。
「レナードの家がつぶれた」
「お金がない」
「……でもキャサリンさんに助けてもらった」
「仕事を手伝う代わりにね」
で、今その仕事を手伝っているのは誰だ? ああ、主人公の役のことだ。 そう、目の前にいるこの魔女だ。
「どうやら私のせいみたいですね、ふふっ」
継羽は自分の頭をぽんと軽くたたいた。
「笑ってんじゃねえよ、この悪女!!!」
「仕方ないでしょう。私、主人公の顔なんて知りませんでしたもの。知っていたら私のはした金で助けてあげましたよ」
「それじゃお前が6人目のヒロインになっちゃうだろ!」
「いいじゃないですか。私だってヒロインになれるくらい天使の心を持っていますよ」
「オエッ、オエッ!!」
僕は吐くマネを継羽の顔に向かってやった。継羽のまゆげがピクッと動く。
「ヒロインはお金のこと『はした金』なんてそんな風に言わないんだよ! 自分の立場を知れ悪女!」
「殺す、クソガキ」
「主人公の役を奪うだけじゃなくて、新しいヒロインにまでなろうだなんて……お前はどこまでみんなの『フロントゥアクス・ミラクル』を汚せば気がすむんだ!」
「あなたみたいに汚くありませんよ。ルイス・スケベ・ハーレム狙い・最初から主人公の役を奪う気満々クソ野郎」
「ぐはっ!」
強い反撃をくらって言い返せない。
継羽は調子に乗って、くすくす笑いながら手をたたき始めた。
「ほらほら、もっとほえなさいよ。ルイス・スケベ、ルイス・エッチ、ルイス・変態。私に向かって鳴いてみせなさいよ。女の子の体、特にキャサリンさんの体が大好きでしょ? でも残念でした。あなたには触る権利なんてありませんよ、ふふふっ」
「ぬ、ぬぬ……継羽満月……!!!」
「なんですか? ルイス・グリーンフィールド。言いたいことがあるならはっきり言いなさいよ」
「……け」
「け?」
「権利がないってどういうことだよ……! 助けてくれるんじゃなかったのかよ!? キャサリンさんと仲良くなってエッチな雰囲気になれるように手伝ってくれるって言ったじゃないか!!!」
継羽は急に動きを止めて、顔を赤くした。
「……」
「嘘だったなんて言わないよな!? 許さないぞ、このバカ女!!」
「……私、あなたのそういうところが本当に嫌いです」
継羽はぷいっと横を向いて、僕をほったらかしにした。
「それで、レナードはどうするんですか?」
「そうだなあ」
「ちょうどいいんじゃないですか?どうせお目当ての可愛い女の子たちを集めたハーレムを作って、中に座らせておいて、鑑賞したい子をいつでも呼び出せるようにしたかったのでしょう? あなたから女の子を奪う権利を持った存在なんて、排除してしまった方が都合が良いのでは? 」
継羽は少し怒った様子で言った。
「あらあら、ハーレム王への道が大きく開けましたねえ 」
一体誰に怒っているのかさっぱり分からない。男にでも振られたのかな? このイライラした態度は、Ⅹに生息しているネット弁慶のバトルヒロインたちを思い出させるな。
「急になにイラついてんだよ」
「別にイライラなんてしていません。勘違いしないでください」
「はあ? じゃあ俺が何をしたっていうんだよ」
「……」
「……」
「……ぷいっ」
黙っちゃったよ。
「……正直なところ、いなくてもいいんだけどさ」
「……」
「確かにそうだけどさ——新しい主人公になる者として、モブキャラに優しくしてあげるのも悪くないだろ」
「よくそんな恥ずかしいこと言えますね」
「恥ずかしくなんてないね。恥ずかしがってたらここで終わりだ、次の出番なんてないんだからさ」
僕は立ち上がって、天井の穴が開いた場所を指さした。そこから夕方の光が少しだけ入ってきて、コップの水に落ちていた。
「この俺がゲームの世界でハーレムを作って、ゲームの主人公を『主人公の友達』に変えてみせる!! 首を洗って待っておけよ、レナード!!」
「……拍手でもした方がいいですか? 全くすごいと思わないんですけど」
「してくれると助かる」
パチパチパチ。そのあと、拍手の音が聞こえた。でもそれは継羽からではなく……。
「すごいですね。でも……あの、さっきからレナード、レナードって……ええと……僕のことですか?」
僕と同じくらい可愛い顔をした男の子。短い黒い髪に黒い目、身長は165センチくらい。少し汚れた制服を着て、破れたエプロンをつけている。
……店員さん?
「……誰ですか?」
「レナードだよ」
「なるほど」
ゲームの主人公、レナードが現れた—困ったような笑顔で。




