第19話:敵の敵は?
トントントン…… 暗闇の部屋に響くマウスのクリック音。青白く光るパソコンの画面には、小説と変わらないほど長台詞の掛け合いが映し出されている。ただ、そこにはイラストと音声が添えられていた。 ―『ビジュアルノベル』、世間ではそう呼ばれている。
「それって面白い?」
ベッドの上から、一人の美男子が声をかけた。
「ん? ……あぁ、面白いよ」
太めな体型の女性―『妹』が振り返って答えた。
「ただ会話してるだけじゃん」
「はははっ! まあね。でも一番の醍醐味はストーリーだから――みんなすごく可愛いし、声優さんの演技も最高なんだよ。『お兄ちゃん』も絶対好きだと思うな。お兄ちゃんは可愛い系とかギャグ系のアニメが好きだし、思っている以上にビジュアルノベルに向いてるかもしれないよ」
「好きってほどでもないけどさ、ただ見てるだけだ」
「ほら、これ」
妹は楽しそうに言いながら、ワイヤレスイヤホンの片方を差し出した。お兄ちゃんは小さく苦笑いを浮かべ、それをを受け取って耳に装着した。
「特にこの子はね、シレーナっていうの」
そう言い終えると、妹は金髪ツインテールの少女が映る画面を指さした。
「触らないでよ! 雑魚!』
「……攻撃的だな。現実でこんな奴に出会ったら、お兄ちゃんなら秒でスルーするけど」
「まったく、現実の物差しで2Ⅾを測らないでよ、お兄ちゃん! でも、確かにちょっとめんどくさい奴だけどね。大人しくしてくれればいいのに、シレーナみたいにキャンキャン吠え続けるところもまた一興って感じでさ。次が―」
体重約100キロの妹――いや、『妹』は、ゲームの中から次々と色々な要素を嬉しそうに兄語り続けた。
お兄ちゃんはそれにしっかりと耳を傾け、一緒に考えながら、心の中で笑っていた。例え自分が興味のない分野であっても、ビジュアルノベルみたいによく分からないニッチなジャンルであっても、妹と話しているその時間が好きだった。それにしても―うん、結構面白いものだな。
金髪の女の子の他にも、胸の大きな紫髪の娘、物憂げな灰色髪の娘、ツインテールのギャル、短髪のランナー、そして他にも善人悪人含めてたくさんのキャラクターが登場した。
そこまで夢中になるほどではないけれど、お気に入りのシーンもできた。特に、キャラクターたちのシリアスな展開に入る瞬間は……あれ、このゲームの名前は何だっけ?
お兄ちゃんはベッドの上に置かれていたゲームのパッケージを手に取った。 『フロントゥア・ミラクル』パッケージには、5人のヒロイン、主人公、主人公の友人、そして―一人の黒髪の少女が描かれていた。
長い黒髪に、底の見えない漆黒の瞳、雪のように白い肌。
お兄ちゃんは、その圧倒的な美しさにどこか引っかかるものを覚えていた。もし現実でこんな容姿の人間に出くわしたら、思わず二度見してしまうか、あるいは声をかけていただろう。
「この黒髪の女の子、誰?」
「ん?」
「正直言って、お兄ちゃんはこの子のキャラクターデザインが一番好きだな」
「どうしたのお兄ちゃん? まさかハマっちゃった? えぇ、お兄ちゃんってロリコン趣味だったの!? それならシレーナちゃんの方がおすすめだよ?」
「バカ言うな、ただ気になっただけだ」
妹はマウスのクリックをピタリと止め、こちらを振り返った。
「……あの女の子ね、悪役令嬢なんだよ。自分専用のルートなんてないし、エッチなシーンもない。悪いことばっかりするのが生きがいみたいな奴でさ。うん、あたしがプレイした二つのルート両方でメインの悪役令嬢として立ちはだかってきたっけ。主人公を目の敵にしてる理由がさっぱり分からないし、周りに迷惑ばかりかけて―何ていうかさ」
妹の顔に、切なげな笑みが浮かんだ。
「あたしにそっくりなんだよね、その子は」
「……いや……そんな言い方、それは...」
よくない。
「ごめん」
そう言い残し、妹は再び画面に向き直った。お兄ちゃんはその背中を見つめながら、ゆっくりと目を細めた。
妹は3年前から引きこもっている―高校を中退し、部屋から一歩も出ない生活が続いている。詳しい事情までは聞いていないが、どうやら壮絶なないじめに遭い、人間社会に耐えられなくなって心を閉ざしてしまったらしい。
何年経っても状況は好転せず、両親との溝も次第に深まり、ついには経済的な援助も精神的な繋がりも絶たれてしまった。
それでもお兄ちゃんは、自分のアルバイト代や小遣いからこっそりお金を工面して妹に渡し、彼女だけの世界に歩み寄ろうとしていた。
ただ、昔みたいに妹に笑ってほしかっただけなのに。
「....お兄ちゃん」
「どうしたの?」
脂肪がついてふっくらとした頬、不衛生な環境と免疫力の低下でできたニキビ、そして日を追うごとに生気を失っていく肌。妹の顔の眉間には深いシワが刻まれ、その瞳はどこか虚ろだった。無理に笑ってみせても、その表情と笑顔はちぐはぐだった。
「私を妹に持って、がっかりした?」
薄暗い部屋の中に、沈んだ空気が重く澱んでいく。 ただ、時計の針が進む音だけが響いていた―その結末が訪れるまで。
@@@@@
10日が過ぎた。 日常のルーティンは変わらない。
キャサリンさんからのゲームクエストをこなし、継羽を特訓台に―じゃなくて一緒に汗を流し、他のヒロインたちとも距離を縮めていく。特に【カイラ・モンテロ】とは少しずつ仲良くなってきた。『いつもの場所』と呼ばれる彼女の秘密のスポットにも時々顔を出しているが、継羽やレナードがいつも忙しそうにしているので、毎日のように通うわけにはいかない。
すべてが順調に進んでいる、そう信じていた。
とある早朝のひとコマ。
この僕、【ルイス・グリーンフィールド】は、とある【ジム・SIS」と一緒に汗を流していた。
「ハァ……ハァ……ハァ……」
頭のてっぺんから足の先まで完全に身を包んだ謎の女性。全身パーカーにマスク、サングラス、キャップ帽。かすかに覗くのは、美しい金色の一房の髪だけだ。
「うん、もう十分だよ、セレーナ」
『引きこもりセレーナ』はトレーニングマシンから立ち上がり、額の汗をぬぐった。
「付き合ってくれてありがとう、ルイスくん」
「あぁ、これくらい余裕さ」
僕はセレーナの腕を引いてマシンから降ろした。
今日のメニューを終えた僕たちはジムの建物の外に腰掛け、爽やかな朝の空気を吸い込みながらペットボトルの水を喉へと流し込んだ。
「生き返るぅ~」
「染みるねぇ」
「はははは!」
セレーナが楽しそうに笑うと、釣られて僕も笑みをこぼした。
僕たちは無駄なおしゃべりをしない。一緒に汗を流し、ただ横並びになって静かに休み、何か言いたくなったら話し、話したくなければ黙る。ただ心地よい風だけが通り抜けていく。
「それにしても、ルイスくんってちょっと意地悪だよね」
「なんだよ急に」
「だって、一緒にトレーニングできるのは一日おきって言ったじゃない。最初は体の調子を整えるため、無理をしないように効率よくって理由だったけどさ……でも、ルイスくん、実は毎日ここに来てるんでしょ」
「え?」
「この前、別の女の子と一緒にいるところを見かけたからさ……まさか、わざわざ一日おきにしたのは、その別の女の子と会うためじゃ……なーんてね?」
セレーナがキャップのツバの下からジト目を向けてきた。
「あぁ、あの女のことか。まあ、あいつもセレーナと同じようなものさ、雇われてるだけだからな」
「雇われてる? お世話係の人……そういうことなんだ」
セレーナは蚊の鳴くような小さな声で何かを呟いた。
「なんだいなんだい、そんなに毎日俺顔が見たかったのかよ?」
からかうようにそう言ってみると、セレーナはみるみるうちに狼狽え始めた。
「えっ、ううん、そ、そんなこと……わ、私なんか……!」
「そんなに会いたいなら毎日来てもいいんだぜ。まあ、あいつとは極力顔を合わせない方が身のためだけどな。あの女、狂犬みたいに気が強くてさ、きっとセレーナとはソリが合わないと思うぜ」
「……」
「名前を『継羽 』って言うんだ。お高くとまっててろくなことしないし、性格も最悪、口も悪い。人間として終わってるレベルの――っと、まあ」
僕がそれ以上続けようとすると、セレーナがそっと手を挙げてそれを制した。
「あの、その継羽って人の話は、あんまり聞きたくないな……」
「そうか」
どうやら人の悪口を聞くのは苦手らしい。本当に根の優しい子だな。
「せっかくあの女のクソっぷりをたっぷりと語って聞かせようと思ったのに」
「も、もしかして……私とトレーニングしてる方が、その人より楽しいってこと……?」
「決まってるだろ。セレーナは愚痴も言わないし、何事にも一生懸命だ。あんな文句タラタラの女とは大違いさ」
「も、もうっ……ももうももう!」
なんだよ、も、もうって何だそりゃ。 セレーナは再び恥ずかしそうにふふっと笑った。
「ルイスくんって、本当に優しいよね。私がどんなにヘタクソでも決して見捨てない。普段の私は周りから変な目で見られてばかりで、少しでも失敗すると一斉に責め立てられるから、自分の苦手なことに挑戦する勇気すらなかったんだ……でも、ルイスくんに出会ってからは、色んなことに挑戦できるようになって……うん、すごく楽しい。今まで生きてきた中で一番楽しいよ……特に、人とこうやってお喋りするのって……あはは、考えるだけで胃が痛くなりそうだけど、あはは……」
セレーナの口から、なんだか痛々しい『死にたいオーラ』が漏れ出していて少し引いた。
「引きこもり気質の女の子でも俺とは普通に話せるんだから、これってもしかして俺の人間としての魅力がカンストしてるってことじゃないか?」
「そ、それはどうかな……って、引きこもりじゃないもん!」
セレーナは顔を背け、モジモジと体を身悶えさせた。その反応はなんとも愛らしかった。
名前の響きといい、あのツンデレのシレーナといい、どうして彼女がヒロインじゃないのか不思議でならない。 ……おっと待てよ。もしセレーナがヒロインのひとりだとしたら、それはすなわち僕の「攻略対象」になってしまうということだ。
横目で、男にからかわれて顔を真っ赤にしている純真なセレーナの姿を盗み見た。
こんなピュアな女の子をターゲットにして言い寄るなんて、僕のなかのプレイボーイが許さない。
「ふっ、我ながらいい男だぜ」
「うん、とっても素敵だよ」
……ん?
僕は驚いて急にセレーナの方を振り向いた。彼女はきょとんとした顔で首をかしげている。
あんなに人見知りで、ちょっとからかわれただけで体を縮こまらせるくせに、今のはあまりにも自然に褒めてくれたな。
まあいいか。
「それじゃあ、俺はそろそろ」
「もう帰っちゃうの?」
「あぁ、午前中は授業があるからな……そういえば、この学院もいよいよ学園祭のシーズンが近づいてきてさ。準備で色々と忙しくなるんだ。もしかしたら来られない日も出てくるかもしれないから、その時は前もって言っておくよ」
「そっか……そうだよね。フロントアクス学園の一大イベントだもんね。いつだって大忙しだし、みんなで色んな出し物を準備するんだ。ルイスくんが忙しくなるのも無理ないよね」
何だか急にしゅんとした様子を見せる。
「もしよかったら、学園祭の当日に遊びに来てよ。俺がエスコートしてやるからさ」
「えっ、ううん……」
「引きこもりを卒業するいいきっかけだと思ってさ」
「だ、だから引きこもりじゃないってば!」
「はいはい、そういうことにしておこうな。それじゃあな、セレーナ」
「……うん、またね」
僕は手を振って彼女に背を向け、寮へと足を向けた。
@@@@@
「おっ、お疲れ様ですアニキ! ちょうどご飯が待ち遠しかったところなんですよ!」
「おう、分かってるよ」
毎朝のルーティンの一つとして、朝のジム通いが終わるとレナードのための朝食をこしらえるのが日課になっていた。
最初はこの野郎に自分で作らせようとしたのだけれど、想像を絶するほどの絶望的な料理音痴で、かつ毒物めいた何かを錬成してくれたおかげで、結局僕が作らざるを得なくなったのだ。
「ほら、出来たぞ」
「えっ、カツ丼じゃないんですか? ちょっと残念だな」
「文句が多いんだよ! 自分で作れ!」
「ははは、冗談ですよ冗談」
「今日の午後は、俺と一緒に例の場所に行くぞ」
「またカイラさんに会いに行くんですか?」
「当たり前だろ」
カイラの設けたルールでは、僕一人で彼女のところへ行くことは禁じられており、必ずレナードか継羽を同行させなければならないのだ。
レナードはうんざりしたような顔をした。
「今日は授業ないだろ」
今日は木曜日で、レナードの授業は【月・火・水】に集中しているため、木曜は丸一日空いている。 一方の僕は、すべてのイベントを回収するために毎日少しずつ授業を詰め込んでいる。
「えっと、実はこのあとアルバイトが入っていまして……」
「なんだと、サボれよそんなもん!」
「い、いやそれはちょっと! バイト代がないと寮の家賃が払えなくなっちゃいますよ」
「まったく、使えない奴だなまったく」
「ははは、すみません! でも、仕事以外の時間でしたらいつでも喜んでお供しますから!」
レナードは無邪気に笑いながら、目の前の飯をすごい勢いでかき込んでいく。
「姐さんを連れて行けばいいじゃないですか」
ちなみに「姐さん」とは、レナードが敬意を込めて呼んでいる継羽・満月のことだ。
「あの女……」
「あ、そうか。姐さんはアニキが他の女とイチャイチャするのを死ぬほど嫌がりますもんね。余計なこと言ってすみませんでした。ごめんなさい」
「…………」
なぜだか分からないが、少しだけ胸がキュンとした。 僕は軽く咳払いをし、ドンと立ち上がった。
「どうでもいい、ほかのことでもすればいいし 」
「姐さんはきっと、アニキが誘ってくれるのを待ってますよ、ははは! 楽しんできてくださいね、僕の分も」
「うるせぇ」
レナードの気楽な笑い声を背中で聞きながら、僕は寮を後にした―もっとも、日中の授業の間も、そして放課後になってからも、継羽にしつこくつきまとわれ、キャサリンさんの雑務にこき使われるのがお決まりのコースなのだが。
それでも、レナードが付き合ってくれない木曜日や、継羽の授業がない隙間の時間は、思いがけず自由な時間が手に入る。
そんなわけで、僕は今日も学院内の小さな公園にある木製のベンチに腰掛け、初夏の暖かい風を全身に浴びながら午後の空を見上げていた。
これが僕の新しいルーティンだ。同じ場所、同じ特等席。自由な時間になると、ここでこうしてのんびりリラックスするのが日課になっている。すっかり【図書館の守り神】だの【放課後の謎の可愛いいさん】だのと噂され、今やこの公園の主のような風格すら漂わせているのだ、僕の手にかかればね。
「……いい天気だな、昼寝でもしたくなる」
継羽満月……あいつは今頃何をしているんだろうな。
ここ2週間の彼女のストーカーじみた監視とパシリの日々を思い出してみる。
僕が自由になれるのは決まってこの昼休みの時間帯、特に木曜日と金曜日のこのタイミングだけだ。
あいつもあいつで、色んなところで暗躍しているに違いない。例えば、ほとんど顔を合わせていないラ―ラちゃんの方にちょっかいを出していたりしてな。主要なヒロインたちのルートに突入するということは、それだけストーリーが大きく動き出すことを意味する。
そしてこの世界には―忘れちゃいけない。 『悪役』は継羽一人だけじゃない。
ゲーム『フロントゥアクス・ミラクル 』では、それぞれのヒロインの個別ルートごとに固有の小悪党たちが配置されている。
例えばカイラには彼女を目の敵にするライバルがいるし、ラ―ラちゃんには幼馴染のストーカーがいる。キャサリンさんには権力を誇る高慢な貴族の影がちらつき、シレーナには不気味な専属メイドがいる。フィレーナの両親を手にかけた仇の影だってある。 ―そういえば、あのゲームのクズどもは今どこで何をやっているんだ?
原作のストーリー通りなら、そろそろあいつらが陰謀を企て始める頃だ。
主要なイベントのいくつかが未だに発生していない。特に、あの悪質な嫌がらせイベントの数々が―まさか、全部継羽が裏で潰しているわけじゃないよな?
僕は大きく息を吐き出した。その瞬間、急に喉がカラカラに渇いていることに気づいた。ちょうどベンチの横に、まだ誰も開けていないペットボトルの水がぽつんと置かれているのを見つけた。誰の忘れ物か分からないが、渇きに負けてろくすっぽ考えもせずにそのキャップを捻り、一気に喉へと流し込んだ。そして―
「……なんか、急に眠気が」
一体あいつは何を仕込んで……意識が薄れる中、そんな思考のまま僕は深い眠りに落ちていった。
……
…………
………………
「お前、本当にこれで大丈夫なんだろうな」
「当たり前だろ! このタイミングを逃していつやるんだよ、ゲホッ……今しかねぇんだよ、ゲホッゲホッ!」
「わ、私、今からでも逃げちゃってもいいですかね……?」
「このバカ、今さら逃げられるわけねぇだろ!」
「しっ、声が大きいぞ! こいつが起きちまうだろ……!」
……
…………
騒がしい怒声で目を覚ました。
一体何が起きやがったんだ? 意識を完全に覚醒させると、目の前にはいかにも【悪役です】と言わんばかりの、個性的すぎる三人組が立っていた―そして、その顔ぶれはゲームの知識がある僕にとってあまりにも馴染み深いものだった。
ああ、こいつらは……各ルートの典型的な「噛ませ犬の悪役」たちだ。
長身でガリガリに痩せこけた、いかにも病弱そうな金髪碧眼の男。
【フェリックス・フーステン】。この国で最も強大な権力を握るフーステン公爵家の末息子であり、その影響力は大陸規模とも言われている。時には王族すら凌ぐほどの権勢を誇る家系だが、この息子自身はせいぜい学園内でイキっているだけの小物に過ぎない。
要するに、見栄っ張りで病弱な―「三流の悪役」だ。
「はーっはっはっはっ! 見ろ、僕の特製睡眠薬作戦は見事に大成功だ! ゲホッ……くっ、笑いすぎたかな……」
次に、標準的な長身に、平凡な顔立ち、標準的な色白の肌に、どこにでもある髪の色と瞳。最大の特徴は両サイドでしっかりと結ばれた二つの三つ編み。
【サラ・メディウム】。カイラの実家の商売敵の娘であり、成り上がりであるカイラを激しく嫉妬し、何度も嫌がらせを企ててはものの見事に返り討ちにされている哀れな少女。
要するに、地味で頭の悪い【道端のモブ悪役】。いつか学校から追い出される運命にある。
最後に、 身長170センチそこそこで、ぽっちゃりとした体型、青白い肌にどこか陰湿な目つきをした、不気味に長い髪の男。いつも荒い息を吐きながら、表向きは善人のフリをしてラーラに近づこうとしては下心を全開にし、見る者すべてに生理的な嫌悪感を抱かせる哀れな男。
【マルティン・スケイベート】。ラーラの両親の知人ファミリーのボンボン。
要するに、ただの【変態ストーカー】。
この最低な三人組が、揃いも揃って目の前に突っ立っていた……しかも、どうやら僕を拉致した犯人らしい。
何なんだこいつらは?
誘拐するならヒロインを狙えよ! なぜモブの僕なんかを連れ去るんだよ! どうせ拉致するならキャサリンさんを連れ去って、僕が颯爽と救い出して好感度をごっそり稼ぎたかったのに!
こちらは一応、主人公の座を虎視眈々と狙っている男なんだぞ!
まあいい。
「お前ら、いったい何のつもりだ?」
「おっ、やっと目を覚ましたな、ルイス・グリーンフィールド!」
フェリックスが勝ち誇ったように声を張り上げ、その横でサラとマルティンが怯えたような目をこちらに向けていた。
「僕たちは長年、お前を拉致するチャンスをずっと狙っていたんだ! 優秀な冒険者だと聞いていたが、まさかこんな単純な罠にコロッと引っかかるとはな! この食い意地が張った大食らいめ! 喉が渇いたからって、他人の置いた水を勝手に飲むなんて不用意すぎるぞ、ゲホッ……ゲホッ……!」
そういうことか。あのペットボトルの水には睡眠薬が仕掛けられていたわけだ。
「ゲホッ! ゲホッ! ケホッ! ゲホッ……!」
フェリックスは相変わらず病弱で、すぐに咳き込む。
「無理して笑わなくてもいいんだぞ、見ているこっちが辛くなってくるからさ」
「うるさいな―ゲホッゲホッ!」
「まったく、少しは加減したらどうなんだ」
サラ・メディウムが慌ててペットトボルを差し出し、フェリックスはそれをひったくって一気に飲み干した。
「何度も言ってるだろ、無理して笑うなって。そのうち本当に息が詰まって死んじゃうぞ」
「うるさいな、この女!」
サラは彼の背中を優しく叩きながら、小言をぶつぶつと呟いていた。 ……って、その水はもしや。
「あ、あの……もしかしてそれ、さっきルイスに飲ませたのと同じ水じゃ……」
「「……っ!?」」
そう、僕を眠らせるために罠として仕掛けた、まさにその『睡眠薬入りのペットボトル』だった。
「さ、サラ、おまえーっ!!」
「ち、違うの違うの! わざとじゃないの! 私、私ね!! あなたに薬を飲ませようなんて思ってなかったの―っ!!」
「い、言っておくが、僕のこの虚弱な身体でこんな強力な薬を飲んだら、本当にあの世に行っちまうぞ―って、あれ、なんだか急に眠気が……」
「勝手に寝るな、このバカ!」
何もしていないのに自爆していく。
そう、サラ・メディウムは筋金入りのドジっ娘だ。
まったく、ゲームのシナリオライターは何を考えてサラをカイラのライバル枠になんて抜擢したんだか。まるでアリが象に挑むようなものだ。フェリックスにしてもそうだ、頭の悪い奴にチェスをさせるようなもので、小物感がすごい。
きっと、厄介なことは全部継羽をラスボスにして押し付けたから、こういう雑魚な悪役はプレイヤーのレベル上げ用の当て馬として適当に作っただけなんだろう。
マルティン・スケイベートは冷静にその場を眺めていた。
「うーん、ぼぐはうちに帰るね。また明日、サラ、フェリックスもバイバイ」
「ちょっと待てよ!!」
「わ、私を置いてかないでよ! ぜ、ぜんぜん人殺しとかしたくないんだからね!」
「明後日はラーラがちょうど勝負だからさ、見張るのにいい場所を探さないと。あの継羽野郎にこれ以上三十四回も邪魔させるわけにはいかない」
チームワークはゼロだ。というか今、継羽の名前が出たよな……? 邪魔って?
「おいお前ら、もしかして……継羽の敵なのか?」
その質問に、3人はピタリと動きを止めた。
とりあえず僕はフェリックスのところへ歩いていき、軽くヒールをかけた。
「ちょっと待て、縄を解いたのはいつからだ」
「縛り方がそもそも甘いんだよ、よくそんなこと聞けるな」
眠気覚ましの魔法をかけて危険な状態から救い出してやった。それから椅子に足を組んで腰掛け、他の3人には床に座らせておいた。
「さて、継羽のことだ。あいつがオマエらに何をしたのか、全部話してもらおうか」
僕は面白そうにニヤリと笑った。
もしかしたら、あいつの弱みを握ってギャフンと言わせるネタが手に入るかもしれない―
「あぁ、ついでにいいこと教えてやるよ。オマエらが来るところは間違っちゃいないぜ。だって、この俺も……継羽の敵なんだからさ」




