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第11話:呪われたヒロインがモブに興味を持ったみたい

 一体何が起きているんだ……? もちろん僕はそう考える。だって、主人公ってのはこういう時にそう思うものだからね。神様だって、僕が心の中で「よっしゃあああ!」って叫んでいるなんて思わないだろう。


 そうだよ、フィレーナ・サルヴィア!! 不思議そうに僕を見るんだ! 僕に興味を持って、僕の存在を価値あるものとして扱うんだ!


 僕をゲームの主人公みたいに扱うなよ! それから、何でもいいから言葉を発するんだ。詳しく言えば、そのピュアで可愛い顔で僕の名前を尋ねるんだよ!


 僕をゲームの主人公にするんだ!!!


 願いが叶おうとしている。僕はニヤリと笑った。 もちろん、一人だけ選ぶならキャサリンさんを選ぶよ。だけど——一人だけ選ぶなんて雑魚のすることだ。はっきり言えば、綺麗事を言う負け犬のすることさ。嘘をついたり、良い人のフリなんてしない。 ハーレムができるならハーレムを作る。僕はハーレムが欲しいんだ!


 たくさんの愛を受け取りたい!


 僕を神様みたいに崇めてくれる女の子たちに囲まれたいんだよ!


 だから多ければ多いほどいい。さあ、おいでよ、フィレーナ・サルヴィア! この僕が可愛がってあげるからね——


 @@@@@

 呪われた子。私たちは昔からそう呼ばれてきた。


 両親は残酷に殺され、私は一人残された。その後、関わった人たちはみんな悪いことに巻き込まれていった。命を落とすほどではなかったけれど、みんな私から離れていったから。やがて私は『サルヴィア家の呪われた子』と呼ばれるようになった。昔からの知り合いの親戚でさえ、私を引き取ってくれたのに、この呪われた運命には耐えられなかった。


 結局、私はたった一人取り残された。


 運命なんて残酷なものだ。私は一度も信じたことがない。いつも悲しみをもたらすから。けれど、何度も何度も同じことが起きるから、嫌でも認めざるを得なかった。


 私はこの世界から嫌われている。世界さんに呪われて、そしてみんなから嫌われているのだ。


 たった一人で寂しく生きて、ずっと避けられ続けてきた。だけどある日、魔法学校に入学した最初の日に、私はある人と出会った。


「おはようございます」


 長い黒髪の女の子。背丈は私と同じくらい。自分の口から言うのもなんだけれど、彼女はとても華奢に見えた。なのに堂々としていて、自信に満ちあふれていた。そして、底がないみたいに魅惑的な目をしていた。


「……」


 私は返事をしないことにした。仲良くなりたくなかったし、相手に自分の名前を知られたくもなかったから。


 知らない人同士でいる方が、知られるよりもいい。この世界で15年過ごしてきて知ったことだ。 無視して通り過ぎようとした。なのに——


「私は『継羽・満月』です」


「……」


 それでも、知り合うべきではないのだ。私と関わって不幸になる人なんて、一人もいてはいけない。


 私は仕方なく彼女の横を通り過ぎた。……ところで、継羽満月? 私に名前を教えてくれた人なんて、どれくらいぶりだろう。


 拒絶したけれど、心の中では嬉しさを隠せなかった。


 起きた出来事を、自分だけの小さな大切な思い出として残しておこうと思った。だけど——


「ねえ、私は名前を言いましたよ」


 その人……継羽満月は、私たちの袖を掴んだのだ。


「自分の名前を言い返すのが、こちらの基本的なマナーなのではないですか?」


 無理やり言わされてしまった。 継羽満月はゆっくりと手を離すと、静かに私たちの答えを待っていた。


「……ふ……」


 周りの人たちの怖がる顔が戻ってきた。将来、私と知り合う人たちの顔に浮かぶはずの顔。


「この人と知り合わなければよかった」と言っているみたいな顔たち。


 私は目を細めて地面を見つめた。出会った問題から逃げようとした。だけど、目の前の人は地面にかがみ込んで、私に見えるようにしてくれた。


「怖がらなくて大丈夫ですよ」


「……フィ……レ……フィ……レ」


「何ですか? 聞こえませんでした」


「私は……私の名前は」


 私は頑張って一番大きな声を出した。普通の人が叫ぶみたいな感じだったけれど、人間の普通の話し声くらいの大きさにしかならなかった。


「私は『フィレーナ・サルヴィア』」


 だけど言っちゃった……言っちゃったんだ、あの嫌な名前を。


「ええ、はじめまして、サルヴィアさん」


「……えっ」


 彼女はあっさりと返事をした。


「あ、それともフィレーナさんと呼んだ方がいいですか? 私の文化では、知り合ったばかりの人を苗字で呼ぶのですけれど。郷に入っては郷に従えと言いますし、フィレーナさんと呼んでも気にしませんか?」


「……私……怖くないの?」


「怖がる?」


 継羽は少し考えてから答えた。


「あなたの呪いが、私に何かできるとは思いませんけれど」


「えっ……私たちのことをもう知っているの?」


「ええ、呪われた子でしょう? 面白そうだと思ったので、知り合いたかったのです」


「どうして……答えになっていないよ。私と一緒に、この世界から拒絶されるのが怖くないの……!?」


 こんなのおかしい。人間はみんなこの世界で生きていきたいはずだ。世界から拒絶された私みたいな奴に近づくなんて……そんなの、不自然だ。なのに継羽は笑ったのだ。


 小さくて、とても綺麗な声で。


「……何がおかしいの?」


「ヒヒッ、ごめんなさい。世界から拒絶される、ですか? それ、私とちょっと似ていますね」


 似ている?


「結局、世界は私たちの存在を消すことができなかったのではないですか?」


「……」


「言っていることはおかしく聞こえるかもしれませんけれど、あなたに知っておいてほしいのです……世界には、私たちを拒絶する権利なんてありません。少なくとも、私に対してはありませんよ。私はもう、世界を黙らせておきましたから」


 あっさりと、力強く、そして……気高く言った。 目の前にいる彼女は、体の大きさよりもずっと大きく見えた。 私の胸の中で、何かが心の奥底を掘り返しているみたいだった。


 ……そう、私だってこの世界で生きていきたい。目の前の人が言っているみたいに、世界に自分を拒絶する権利なんてないって、胸を張って言いたい。


「もちろん、言葉だけでは何も証明できませんね。それなら、試してみますか?」


「試す……の?」


 どうやって?


「ええ、あなたの呪いがどれほどのものか」


 継羽満月は私に微笑みかけた。


「運が悪ければ、あなたの中の汚い呪いなんて吹き飛ばされちゃうかもしれませんね。この私に勝負を挑もうなんて考えた罰として」


「……」


 ああ—— 継羽満月は、私の呪いを吹き飛ばしてくれる人だ。


 その瞬間から、私はすぐに分かった。彼女はこの世界全体よりもずっと偉大な人だと。


 継羽満月は、ついにできた私の最初の友達だ。


 もちろん、彼女に近づこうとしてみた。だけどあまり勇気が出なかった。1ヶ月が経って、同じ学年で同じ学科で、相手がよく話しかけてきてくれたのに、あまりうまく喋れなかった。まだ乗り越えられない自分の弱虫さのせいだ。 それでも、一つだけ自信のあることがあった。


 継羽満月が私の名前を知ってから1ヶ月が経ったけれど、彼女に何か起きただろうか? 答えは、何も起きていない。 呪い——この世界には、彼女を拒絶することを考える権利なんて与えられていないのだ。


 すごいな、私もお手本にしたい……継羽満月と仲良くなりたいな。だけど今の自分じゃダメだ。だから自分を変えなくちゃいけない。ゴミみたいな人間のままで、彼女と知り合うわけにはいかないんだ。


 それは私が最近思いついたことで、また授業に出てみようと決めた理由だった。


 だけど……だけどね。


 この前、私は継羽がある男の人と一緒にいるのを見かけたのだ。


 背が低くて茶髪の男の人。男の人のくせに、体の大きさは私とあまり変わらない。それに嫌な顔ばかりしている。全然付き合いたくないような人が、継羽満月と親しそうに喋っていた……本当なら——あの場所は【私のもの】のはずなのに。


 あの場所は私たちの場所であるはずだ。私は継羽満月の隣にいなくちゃいけないんだ。だって、私の呪いを吹き飛ばしてくれるって言ってくれたんだよ。なのに……立ち上がってやり直そうとしたのに……あの男の子に奪われるなんて?


 私は急に起きたここ数日の出来事を心に溜め込んでいた。どうして自分が落ち込んで、吐きそうになって、色んなこと……特に良くないことをしたくなるのか分からなかった。


 そしてついに授業に戻ってきて、継羽にまとわりつく男……『ルイス・グリーンフィールド』に出会った。……ううん、違う。継羽だけじゃない。


『継羽様』だ。


 ああ、すみません。継羽様のお名前を呼び捨てにしてしまうなんて。 そう、あの男は継羽様とお喋りして、おまけに失礼な態度をたくさん取っていた。自分を一体誰だと思っているんだろう?


 運良く授業でバったり出会ったから、後ろにこっそり隠れてみた。何にボーっとしているのか分からないけれど、その後ずっと眠っていたのを見かけた。


 この人は何なんだろう。授業に集中しないなんて。授業料だってすごく高いのに、家がどれだけ苦労して学費を出してくれたと思っているんだろう……お金のありがたみを知らない子が、継羽様と仲良くなるなんて。ううん、違う。仲良くなるはずがない。きっとただのお供……ううん、ただの奴隷なんだ。


 そうだとしても。 継羽様の名誉を傷つけていると思わないのだろうか? たとえば奴隷だったとしても、主人である継羽様の顔にならなくっちゃいけないんだよ。


 成績トップ10に入る優秀な生徒か、私みたいに有名な家に生まれた人じゃなければふさわしくない。


 それに、私だって継羽様の奴隷になりたい.....ずるいよ……違う!


 違う違う、私は奴隷じゃない。お供でもない。私は継羽様の本当の友達になるんだ!!


 ううん、もうそうなっているようなものだって言われる!!


 本当の友達。なんて素晴らしい言葉だろう。


 ああ、本当の友達として、継羽様があの頭悪そう奴隷に汚されるのを見ていられない。


 授業が終わってもまだよだれを垂らして寝ていて、全然起きないし、いびきまでかいていた。先生も呆れた目を向けていた。 ダメだ、この奴隷には罰を与えなくっちゃ。継羽様は優しすぎるから、本当の友達である私が代わりにやらなくっちゃ。


 お仕置きしてやろうと思ったら、ちょうど目を覚ましちゃった…………残念だな。せっかく首を絞めるチャンスだったのに。


 私は自分にあざ笑うように微笑んで、継羽様の顔を思い浮かべながら、自分の運命を受け入れるしかなかった。


 ごめんなさい、継羽様。失敗しちゃいました。だけど、お心のお優しい継羽様なら——きっと許して、慰めてくれますよね。 うん、私は許してもらえた。


 ありがとうございます、継羽様。


 @@@@@

 フィレーナは小さく微笑んでいた。恋をしている女の子みたいな顔だ……おいおい、僕を見ただけでこんな重症になるの?


 たまらないね。可愛い系の男が好きなら言えばよかったのに。これならもっとフィレーナにアタックしておけばよかったな。 自分の可愛さに感謝したのは初めてだったよ。


 ハーレムの一人目のはキャサリンさんにしたいと思っていたけれど、まあいいや。フィレーナちゃん、君が先にハーレムのメンバーに入ってもいいよ。


 よし、まずは自己紹介からだね。嬉しそうに微笑んでいるけれど、照れているみたいだ。僕と知り合いたくてたまらないんだろうね、ヒヒッ。あのクソ継羽にへりくだる必要なんてなかったんだ。フィレーナをゲットしたら、あいつとの奴隷契約を解除してあげよう。あっ、いや待てよ。キャサリンさんとの好感度を上げてからにしようかな……キキキッ!


 全てを失った継羽の顔を想像するだけで、ゾクゾクしてくるよ! まったく、これがNTR系の悪役の気分ってやつか。


 フィレーナが口を開いて、言おうとしていた。僕の最高の計画によって用意されたセリフをね。



「なんでもありません」


「っ……ル……ルイス・グリーンフィールド……です……えっと……はじめまして……えっ?」


「なんでもありません」


 言い終わると、フィレーナは立ち上がってご機嫌な様子で教室から出て行ってしまった。……僕はただじっと座ったまま、数十分の時間をやり過ごした。


 ……まったくもう。


「ククッ、照れちゃってさ」


 僕はニコニコと笑った。


 教室を出て行く前のフィレーナの顔は、すごく幸せそうに微笑んでいた。ゲームのストーリーが変わったとしても、彼女が僕に興味を持っているという結果になればそれで十分さ。うん、人間には柔軟性が必要だって言うしね。


「ついに僕の時代がやってきたみたいだね」


「何を寝ぼけているのですか?」


 お邪魔虫が僕の隣に現れた。


 見た目は綺麗な黒髪の女の子だけど、中身は腐りきってる奴だ。


 チッ、せっかく良い気分だったのに。


「どうしたのですか? いつまで経っても教室から出てこないなんて」


「まあね……余韻に浸っていたというか、そんな感じだよ」


 ゲームの主人公になる余韻ってやつにね。


「へえ、面白そうですね」


「フィレーナ・サルヴィアって良い子だね」


「そうですね」


「かなり可愛いよね。人気が高い理由が分かってきたよ。落とすのもそんなに難しくなさそ——」


「私だって可愛いですよ」


 継羽が言葉を挟んできた。


「…はいはい」


「少なくとも、嘘ではありませんからね」


 継羽は手を伸ばして、僕の頭を撫でてきた。


「よくできました」


 頭の上の温かい感触に、僕は妙な気分になった。


 まあ、あんまり好きじゃないけどね。くすぐったいし。


「さ、触るんじゃないよ!」


 僕が手を振り払うと、継羽は避けてから、しばらくの間クスクスと笑っていた。


 まったく、なんで僕のことをからかって笑うのが好きなんだろうね。


「それじゃあ、行きましょうか」


「えっ、どこへ?」


「キャサリンさんのところですよ。報告しなければいけないことがあるのではないですか?」


「あっ、そうだね」


 ゲームの主人公であるレナードのことを、すっかり忘れていたよ。問題は解決したとはいえね。


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