【幕間】転移者少女と異質なモノ
まったく1mmほども本編に関係のない話ですはい。なのでこれは明確な時系列は存在してない話です。夏はとうに通り過ぎていますがホラー回でもあります。ま、そんなに怖くはないでしょうけど一応ね
(ミチルside)
それはとある日の出来事でした。その日はリンちゃんが一人で夜まで出かける用事があるとのことで、家を留守にしていたのです。もちろんそれ以外の私含めたリンちゃんの家で同居している人たちは家である【安寧の地】で各々留守番をしていたのです。
***
夕暮れ時、陽が沈んで少し経ったころ……家の玄関のドアを叩く音と声が聞こえました。それはこの家の家主であるリンちゃんの声。
『ただいまー。ごめんなんだけどさー、今ちょっと両手が塞がっててドア開けてほしいなー、なんて』
この【安寧の地】の家は内部は亜空間が広がっているけれど、玄関の扉なんかは現実にあるものと連動している。だから来客が来たときなんかも外からの声が聞こえる。そしてドアを開けない限りは空間は区切られているので中から外へ声が漏れたりすることはない……らしい。
「ご主人様がお帰りになったようです。ルミナ様、申し訳ないのですが扉を開けていただけますか?」
「オッケー任されたわ~」
ルミナさんがドアに近づいていく。だけどここで私はふと、疑問を抱いた。果たして本当に外にいるのはリンちゃんなのだろうか……と。よく考えればおかしい。だって、リンちゃんは【無限大収納】スキルを持っている。その容量は名前の通り無限。だったらリンちゃんの両手が荷物で塞がっているなんてあり得るはずがない!
「待ってルミナさん!開けちゃダメです!」
「どうしたのよミチル。なーんでドア開けちゃいけないのよ?」
「そうですよミチル様、ご主人様が明けてほしいと仰っているんですし早く開けないと……」
「よく考えて下さい!リンちゃんは【無限大収納】があるんですから両手が塞がるなんてあるはずないんです!だからもしかしたらリンちゃんじゃないかも……」
「確かにミチルの言う通りなんだぞ!」
「リーデおねえちゃん……テティ、なんかこわい……おそと……リンおねえちゃんじゃないとおもう」
この時私は前世での都市伝説……というかお化けの話みたいなものの話を思い出していた。知り合いに化けて家の中に入る許可を家主から得ることでその許可した人に憑りついてしまうというもの。たしか原理としては家の中に入る許可を得ることで呪術的な同意を得たと判断される…って話だったかな。もちろんこれはあくまで地球に存在した作り話のことだ。この世界でもそれが適用されるとは考えてはいないけれど……もしかしたらということもある。
『ねーぇー、入れてよ~。リーデ~?ミチルちゃ~ん?ルミナさ~ん!マリーちゃん!あ、テティアちゃんでも良いよ~?』
「獣人であるテティアちゃんも怯えているとなると……ご主人様の偽物である可能性は高いですね……シェイプシフターでしょうか」
「可能性はあるわね。どこかでリンの姿を目撃したのかしら…?」
シェイプシフター?私は自分のユニークスキル【叡智の集積所】を発動して調べてみる。シェイプシフターは……自らの姿を変え、人々を惑わせる魔物…と。その可能性の方が高いのかな
「とにかく、ドアを開けちゃダメですよ!あ!窓は開いていたりしますか⁉全部の窓は閉めてカーテンもしてください!」
「ミチルの言う通りだよー。今ちょ~っと微精霊にお願いして見てみたけど、アレはシェイプシフターじゃないよ。……それとは別の……異質な感じがした。魔物じゃないよアレは。精霊でもレイスとかでもない。もっと別の、悍ましいナニか」
「私、確認に行ってまいります!ピーネ、テティアちゃんを」「任せるんだぞ!テティア!我と一緒にいるんだぞ!ほ~らモフモフだぞ~☆」
『開けてってば~。え、私もしかして嫌われてる?泣くよ?泣いちゃうよ~⁉』
とりあえずシェイプシフターではないんだ……でも、できることはやっておくべきだ。私はキッチンから塩を持ってきてリビングの四隅に盛り塩を行った。もちろん効果があるとはあんまり思ってはいないけど気休めにはなると思うし。
「窓!閉めてきました!」
「これからどうするのよ。シェイプシフターじゃないとなると慎重にならざるを得ないわよ?」
「あたしも、どうすれば良いかは分かんないかな~……」
「我も流石にどうすべきかは分かんないぞ!シェイプシフター以外で他者に変身する魔物なんて聞いたこともないんだぞ!」
皆も混乱してきているのかもしれない。それか恐怖か。無理もない。対処法が分からない上にリンちゃんが今無事であるかもわからないと言えるのだから。
『も~!そろそろ開けてくれないと本当に私怒っちゃうからね~?いいの~?ドア開けるだけじゃん。意外と冷えるんだよ外~』
どうしたらいいんだろう。
『開けてってば~。開けろって言ってるでしょ。ねーぇ?そろそろ怒るからね⁉中に居るのは分かってるんだよ⁉』
もしも今ドアの向こうに居る存在が地球で語られるような怪異とかの類なら……きっとドアを開けるだけじゃなく、返事をすることも、もしかしたらスキルや魔法で攻撃するコトもこちら側の存在を認識させてしまうかもしれない。
私達がどうすればいいか頭を悩ませていると突然、キッチンの方から音がしたそして同時に声も。
「痛ッ⁉」
私達は全員目を合わせて、一応構えながら恐る恐る音がした方へ向かった。するとそこには――
ひっくり返った状態のリンちゃんがいた。まさか……入ってきたの!?
「え、なんで私キッチンの戸棚から排出されたの?あ、ただいま皆。」
「「「…………」」」
「ちょっと、え、なになに⁉なんでそんな怖い顔してるの?私なんかしたかなぁ⁉」
あんまりこちらに悪意があるようにも見えないし、本物のリンちゃんっぽくはある、と思う。
「本当に…本物のリンちゃん、なんだよね?」
「なにその言い方は。まるで私に偽物がいるみたいじゃん。え?マジで何。ちょ、誰か分かるように説明してくれない?なんで私キッチンの戸棚から排出されたの?せっかく帰って来たと思ったら変な風になったんですけど~?」
『おい!開けろって言ってるでしょ⁉開けてよ、ねぇ聞いてるでしょ?開けてってば~。開けて開けて開けて開けて開けて開けて開けて開けて開けて開けて開けて開けて開けて開けて開けて開けて開けて開けて開けて開けて開けて開けて開けて開けて開けて開けて開けて開けて開けて開けて開けて開けて開けて開けて開けて開けて開けて開けろ開けろ開けろ開けろ開けろ開けろ開けろ開けろ開けろ開けろ開けろ開けろ開けろ開けろ開けろ開けろ開けろ開けろ開けろ開けろ開けろ開けろ開けろ開けろ開けろ開けろ開けろ開けろ開けろ開けろ開けろ開けろ開けろ開けろ開けろ開けろ開けろ開けろ開けろ開けろ開けろ開けろ開けろ開けろ開けろ開けろ開けろ開けろ開けろ開けろ開けろ開けろ開けろ開けろ開けろ開けろ開けろ開けろ開けろ開けろ開けろ開けろ開けろ開けろ開けろ開けろ開けろ開けろ開けろ開けろ開けろ開けろ開けろ開けろ開けろ開けろ開けろ』
「ひぃっ⁉」
「ちょ、何よコレェ⁉」
「あー、そういう感じかぁ。よいしょっと。リーデ、ご飯の前に紅茶淹れてくれない?」
「え?か、かしこまりました…?」
推定本物のリンちゃんは妙に落ち着き払っているのはなぜだろう?絶対痺れを切らして本性を現しているんだよ⁉怖くて寝れなくなるって!
リンちゃんは平然とソファに座り、リーデさんに用意してもらった紅茶を一口。
『開けろ開けろ開けろ開けろ開けろ開けろ開けろ開けろ開けろ開けろ開けろ開けろ開けろ開けろ開けろ開けろ開けろ開けろ開けろ開けろ開けろ開けろ開けろ開けろ開けろ開けろ開けろ開けろ開けろ開けろ開けろ開けろ開けろ開けろ開けろ開けろ開けろ開けろ開けろ開けろ開けろ開けろ開けろ開けろ開けろ開けろ開けろ開けろ開けろ開けろ開けろ』
「んー、やっぱリーデの淹れる紅茶うまー」
「ね、ねぇリンちゃん…?」
「ん?どしたのミチルちゃん。あ、ミチルちゃんも飲む?」
「いや、そうじゃなくて……」
『入れろ入れろ入れろ入れろ入れろ入れろ入れろ入れろ入れろ入れろ入れろ入れろ入れろ入れろ入れろ入れろ入れろ入れろ入れろ入れろ入れろ入れろ入れろ入れろ入れろ入れろ入れろ入れろ入れろ入れろ入れろ入れろ入れろ入れろ入れろ入れろ入れろ入れろ入れろ入れろ入れろ入れろ入れろ入れろ入れろ入れろ入れろ入れろ入れろ入れろ入れろ入れろ入れろ入れろ入れろ入れろ入れろ入れろ入れろ入れろ入れろ入れろ入れろ入れろ入れろ入れろ入れろ入れ――』
あれ…声が収まった…?それも、声が途切れるように。どうして……
「……ここは私の聖域だ。お前みたいな無粋者に踏み入る資格なんてあるわけないでしょうに」
リンちゃんは何かを呟いたようだけれど、私には聞き取れなかった。何を言ったんだろう?
「リンちゃん、何かしたの…?」
「いや?こういうのは本人が戻ってきたら消えるものでしょ?さ!ご飯食べよー!リーデ、今日の献立は~?」
***
こうして、私達を襲った恐怖体験は幕を下ろしました。でも……あの時のアレはなんだったんだろう。魔物でも精霊でもないナニか、だなんて。




