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吸血鬼少女は振り返る

今回はルミナさん視点です。思ったより長くなったな

(sideルミナ)

私の名前はルミナ・ブラッドリア。誇り高き吸血鬼(ヴァンパイア)よ。……自分で言っておいて本当に誇り高いのかは疑問だけどね。私達吸血鬼は自身の種族を誇り高いものと語る癖がある。そんな話はさておいて、だ。私はいわゆる箱入り娘……どころか籠の中の鳥というやつだろう。つまり、超が付く世間知らず。


私の母は物心つく前に儚くなった。だから朧げに母の顔は浮かぶけども、母と過ごした記憶は無いに等しい。だから私の記憶にあるのはいつも父が私を屋敷に閉じ込めていた記憶。閉じ込めていたと言っても疎まれていたわけではない。むしろ父なりに愛してくれていたのだろうとは思う。……過保護が行き過ぎて事実上の軟禁状態ではあったけど。


幼い時は友達がいないことも、屋敷の外に出たことがなかったことも疑問にも思っていなかった。他者との関りも使用人たちがいたからなかったわけではないし。けれどずっと屋敷にいる以上やれることは限られている。父は私が庭に出ることも、厨房で料理をやってみることも全部、危ないからの一言で禁止されていたから必然的に読書に耽ることになる。もちろん、吸血鬼の力の制御の訓練もやっていたが。


読書に耽るとどうなるか?簡単だ。外の世界への興味が湧いてくる。使用人たちも外に出してもらえない私を可哀そうに思ったのかそういった話をしてくれたから。


そして18歳になった私はとうとう外の世界への好奇心を抑えられなかった。自分の力の制御も一人前と言っても過言ではないという自負もあった。だから私は父に外の世界を見てみたいと願い出た。けれど父はいつものように危険だからダメだと一蹴したのだ。そこで私の中で何かが切れた気がした。気が付いた時には私は父に向って、


「パパは私の事なんだと思ってるの!?私もう18!子供じゃないのよ⁉……もういい!パパなんて知らない!」


と言い放ってその勢いのまま屋敷を飛び出していた。


初めてこの目で見る外の世界はそれはもう美しい物に映ったわ。見たことのない食べ物、小説なんかで見かけた露店商、街を走る子供たちなんかを。私の胸は外の世界を見れた喜びと興奮で満ちていたの。でも、現実は世間知らずの引きこもりには優しくないわけで。


着の身着のままで家出してきた恵まれた生まれと育ちの娘が何もなしに生きていけるわけもなく。お金の存在も知っていてもそれをどうやって獲得するのか、なんてことも分からず。それでもまだ屋敷には戻りたくなかったからなるべく屋敷から離れるように動いて。


街をいくつか越えたけど、その時の私はかなり弱っていたわ。まともな食事を摂っていたわけではないからだ。時には魔物の血を吸ったこともあったわね。そしてその街で私は……


ともかく、私は街をいくつか渡った先でうっかり人攫いに捕まってしまった。その先で私は同じく攫われた?獣人の―後にテティアと知る―少女に起こされた。その少女は満足に食事を摂れていないのか痩せこけているのが分かる。


人攫いたちはどうやら私とこの子を木の箱に押し込んで馬車で運んでいるらしかった。隙を伺って私は人攫いの馬車から逃げ出してきたの。当然、私を助けてくれたに等しい少女も連れて。なんとか体を蝙蝠の姿に変えて、少女を運びながら飛んだ。


山を越えるところまでは順調に進んだ。けれど、日が最悪だったの。その日は新月だった。私達吸血鬼は月の眷属。月の満ち欠けで振るえる力の質も変わる。満月ならば最も強く、逆に月の隠れる新月では最も弱体化する。そんな種族だ。元々弱り気味だった私は山を越えて街が見えてきたことで気が抜けたのか新月の影響か、墜落してしまった。


次に私が目を覚ました時、そこは知らない天井だった。すぐ近くには見知らぬ少女。だけれど内に秘める魔力は他に類を見ないほど多い、そんな少女が読書をしていた。


「お目覚めですか?体の調子はどうです?」

「ッ⁉あ、あんたはどこの誰でここはどこ⁉私に何をしたの‼」


つい、警戒して彼女の首筋に自身の血を媒介に操る魔法【ブラッドサイズ】を突き付けてしまった。……おそらくここは彼女の家で、倒れていた私と少女を保護してくれたのだろうとは思い至ったけれど。それでも警戒を解くわけにもいかなかった。


少女に事情を聞かれた私はこれまでの経緯を説明した。するとその少女は驚くべき提案をしてきたの。


「それじゃ、帰りたくなるまでは、家で一緒に暮らします?」

「え?」

「帰りたくないんでしょう?そしてお金も心もとないと。なら、家でしばらく一緒に住めばいいと思います。もちろん家事なんかは分担で手伝ってもらいますけどね。食と住に関してはしばらく保証しますよ」


想定外の提案すぎて警戒するのも忘れて【ブラッドサイズ】を消して私はその子に問いかけていた。


「助けてもらった私が言うのもアレだけど……あんた、警戒心とかないわけ?」

「え?」

「だって私は、ついさっきあんたを殺そうとしたのよ?」


少女はきょとんとしてから一言、


「敵意や殺意があるかは分かりますから。それに……他人を素直に心配できる人は悪い人じゃないですよ。」


とだけ言った。この時、私の警戒心は完全にどこかへ消え失せていた。だから、お礼を言おう……と思ったのだけど、恥ずかしいことに空気の読めない私のお腹が泣きだしたのだ。


血を吸うかというひと悶着があったけれど少女―リンは私に一つの赤い果実(野菜らしい)を手渡してきた。見るだけでもう美味しいのが分かるほど丸く、赤く、艶があった。一口かぶりつき、驚いた。


「…んっ!これ、すごく美味しいわ!瑞々しくて、それにただ酸っぱいだけじゃなくこの野菜の甘さを引き立てるかのように酸味と甘味のバランスが凄いわ!一生コレだけ食べてても生きていけそうだわ!」


生でここまで美味しいものは食べたことがなかったからだ。


そして私は私と一緒にいた少女、テティアちゃんと共にリンの家でしばらく厄介になることになった。それから2日後……リンが朝の散歩に行くと言って家を出て行ってから少し……リンのメイド(契約精霊)のリーデが何かを感じ取った様子で家の外へ出て行った。私もわずかに遅れて外に出るとそこに広がったのは、父が、リンを魔法で殺そうとしている場面だった。


だから、口を出した。私の恩人に手を出すなと。でも父は私の言い分すら聞かなかった。それだけなら、まだいい。けれど、私の恩人達を人間だからという理由だけで、見下し、侮辱もし続けた。そこで、家出前に吐き出した怒りがさらにヒートアップして戻ってきた。


そして私はこれまで思っていたことを勢いのままに全部、父にぶちまけた。……正直に言ってめちゃめちゃすっきりしたわ。これまで18年……ではないか。それでも十何年か分の鬱憤を晴らせたから。


最終的に父はリンたちに謝罪し、私がしばらくはリンの家でお世話になるから反省してと伝えたら、私を連れ帰ることはあきらめた様子で屋敷へ戻っていったのだった。パパには悪いけれどせっかく外へ足を踏み出したのだもの。存分に見て回って、それから家に戻りたいの。


でも、使用人の皆にはいらない苦労をかけてしまった自覚もあるからパパには使用人の皆へあてた手紙も託したけどね。ともかく、私の社会勉強生活が、リンとリーデのおかげで始まった。帰る場所がないというテティアも一緒に保護してもらえたり、二人には感謝してもしきれない、返しきれないほどの恩が出来ちゃったわね。

山というのがエクレシアの街の東に広がっているエクルスト山脈。旧版を読んだ方はご存じかもしれない光の龍王様が住んでいらっしゃる山脈ですね。まぁ山脈の名前は変えましたけど。似た名前にしすぎて逆に(作者が)分かんなくなったからね

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