いや正当防衛ですよね
はい。もはや働かずとも良くなったであろうお金持ちの私です。リンちゃんです。
冒険者ギルドで依頼を受けに行ったら突然の大金をゲットしてしまう衝撃も抜けきらないまま、依頼先である商業ギルドへ訪れた私。この世界、ギルドと呼ばれる組合は冒険者、商業、鍛冶、生産系ギルドの4つに分類されているらしいのです。で、どの組織も横のつながりが強いと。当然ですよね。どれも密接に関係していますからね。
商業ギルドは冒険者ギルドとはまた違った落ち着いた内装をしていますね。そして比較的静かなのかと思っていましたが、喧騒は案外冒険者ギルドと変わらないようです。
「おんやぁ?ここはいつから子守りの場になったのだぁ?ここは我らが商人のための神聖な場だぞぉ?貴様のような貧乏人風情が気軽に足を踏み入れて良い場所ではないのだぞ?」
えーっと、依頼の話を聞くのはどの窓口でも良いのかな?じゃあ一番忙しくなさそうな窓口は……と。
「おい!貴様聞いているのか?……ふむ?よくよく見れば整った見てくれをしておるじゃないか。どうだ?我が商会で雇ってやろう。存分に贅の限りを尽くせるぞ?グッフッフッフ……」
……商業ギルドって趣味の悪い置物置いてるなぁ。私には理解できないセンスです。こんな太って脂ぎった醜悪な豚の置物って……どんなセンスですかね。
「貴様…!今、この私を!あろうことか豚呼ばわりしたなァ⁉誰に楯突いたのかその身に教え込んでやろうか?ん?貴様をこの街から、いやこの国から締め出すことなぞ簡単なのだぞ?それが嫌ならば……分かるだろう?」
……人を不快にさせるのが上手ですねぇコレ。よくもまぁここまでひっどい言語プログラム組めるなぁ……逆に感心しちゃいます。アレかな?アンガーマネジメント用かな?とりあえず私には関係ないのでさっさと依頼を……
「貴様ァ!よくも私をコケにしてくれたなァ……!こっちに来い!私が直々に教育してやる!」
そう言って豚の置物は私の腕を掴んできた。脂ぎってて気持ち悪かったので思わず反射で『身体強化』魔法を掛けて手を振り払ってそのまま左手でぶん投げてしまいました。というかもしかして私の心の声ガッツリ漏れてたのかな。今度からは気を付けましょうか。
「ぬわぁぁぁぁぁ⁉」
はい。えーっと、壁と一部の装飾品が……ぶっ壊れました。弁償かなぁコレ……とりあえず周りを見回してみると空気が凍っていた。一部はあの置物……いえ、おじさんに非難の視線を。また一部は私に対して同情するような視線であったり、よくやった!という視線も混じっているような?……さてはこのおじさん常習犯ですね?……正当防衛成立しないかなぁ
「えっとぉ……コレ、私が弁償ですかねぇ…?」
「よくやったぞ嬢ちゃん!」
「見事な手際だったぞー!」
え?え、え?一気にギルド内の空気が歓喜一色に包まれた。わけがわからないよ。私が状況を飲み込めず困惑していると、一人の老紳士が近づいてきた。
「素晴らしいお手前でした、お嬢さん。」
「あ、あなたは?」
「失礼。名乗り遅れましたな。私はアグリ・オランドという者です。オランド商会というしがない商会の長を務めております。」
「これはご丁寧にどうも。私は冒険者のリンです」
「なるほど、あなたが噂の……」
噂?噂になるようなことなんて私はして……あー……全然してますねぇ!目敏い商人ならばそういう噂を掴むのも速くて当然ですか。
「先ほど貴方が投げ飛ばした男の名はガマール・クーズダーネ。クーズダーネ商会の若造でしてな。先代の七光りでしてね。先代の威光を笠に着て横暴な行いを繰り返していた男です。女癖も悪く、金遣いも荒い。その上少し気に食わないことがあれば所かまわず問題を起こそうとするような男なのですよ。おかげで我々も非常に迷惑しておりましてな。証拠がないだけに何もできなかったのですが……我々に代わり成敗してくださったことをここにいる商人を代表して感謝をさせていただきたい。」
よほどの問題児だったんですかねあのおじさん。こどおじよりも厄ネタなのでは?
「でも私ここの壁ぶっ壊しちゃいましたけど……」
「ああ、構いません。先に手を出したのはあちらなのですから、賠償責任を負うのは貴方ではなく彼ですよ。そうでしょう?」
オランドさんはギルドの受付にそう問いかけた。
「はい。我々も記録用の魔道具も明確にガマール氏がそちらの方に対して無礼な行いをし、手を出そうとしたことは確認しておりますので。正当防衛ですね」
「だ、そうですよ」
良かった~。とりあえず商業ギルドに睨まれるとかいう展開にはならないみたいで。
「分かりました。教えていただきありがとうございます」
「いえいえ、では私はこれで。リンさん、当商会は冒険者の方向けの商品も多数取り扱っております。もし機会がありましたら我がオランド商会のご利用をぜひ、お待ちしておりますよ」
「はい。機会があったら利用させていただきますねー」
そう言って老紳士ことオランドさんは去っていった。そしてそれからすぐにえーっと……ガ、ガマガエル?おじさんは衛兵に連行されていった。どうやらちゃんと生きていたらしい。良かった~、こんなんで殺人犯にはなりたくないですからね~。
じゃ、私も気を取り直して依頼を受けるとしますかね。そうして空いている窓口に立った。
「先ほどは大変でしたね。こちらとしては非常にスカッとしましたよ!…こほん。では、ようこそ商業ギルドエクレシア支部へ!本日はどのようなご用件でしょうか?」
あのおじさんギルドの人にも嫌われてたんだ。まぁ……あんな態度だと自分以外の人間は下だとか思ってそうですしねぇ
「商業ギルドから出ている古屋敷の調査依頼を受けてきたんですけど」
「調査依頼……あ!あの依頼ですか!中々受注してくださる冒険者の方がいらっしゃらずほとほと困っていたのです。受注いただきありがとうございます!今、担当の者へ取次してまいりますね!少々お待ちください!」
よほど困ってたんでしょうか。受付の人スキップしてもおかしくないくらいの勢いで飛び出して行っちゃいましたよ。
「お待たせいたしました。担当者へ取次が完了しました!詳しい話は奥の部屋で行うようですので、そちらへご案内いたします」
「はい、よろしくお願いします」
受付の人の案内に従って部屋に通された。




