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火の山の若君は、未来を夢に見る ~阿蘇家嫡流の若君、名臣甲斐宗運と乱世を切り拓く~  作者: アトラス


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第二百二十四話 一つの御旗

 天文二十一年(一五五二年) 七月。


 正月の大評定から、半年が過ぎていた。


 あの時に定めた仕置きが、どこまで進んだのか。


 それを確かめるため、阿蘇館の評定の間には、九州各地から集められた書付が積み上げられていた。


 戸籍。

 検地帳。

 兵籍。

 蔵に納められた米。

 港へ入った船。

 市で取引された品。

 道を通った人と荷の数。


 以前ならば、一つの家が把握できる量ではない。


 だが、今は違う。


 九州各地へ阿蘇家の文官が入り。


 村から郷へ。

 郷から国へ。

 国から阿蘇家へ。

 数字が集まるようになっていた。

 広間には、多くの者が座っている。


 甲斐宗運。

 鍋島種茂。

 甲斐親英。

 大友隼人。

 島津日新斎。

 島津貴久。

 島津義久。

 龍造寺家宗。

 吉弘鑑理。

 臼杵鑑速。

 戸次鑑連。

 ほかにも、北里を含め、各家の重臣たちが並んでいた。


 その中央に。


 惟種が座っている。


「では、始めよう」


「はっ」


 最初に書付を取ったのは、種茂だった。


「まずは、九州各地の仕置きにございます」


「うむ」


「先の捕縛により、阿蘇家へ明らかな害意を持つ者は、おおむね取り除かれました」


「おおむね、か」


「すべてとは申しませぬ」


 種茂は平然と答えた。


「腹の中まで調べることはできませぬゆえ」


「それはそうだな」


「されど、私兵を集め、反乱を起こせるほどの者は、ほとんど残っておりませぬ」


 捕らえられた者。

 処断された者。

 領地を没収された者。

 武器を差し出した者。

 阿蘇軍へ組み込まれた者。

 田畑へ戻った者。

 道普請や水路造りへ回った者。


 それぞれの行き先は、すでに決められている。


「空いた土地には」


「文官を入れておりまする」


「領民の様子は」


「初めは不安がっておりました」


 種茂は別の書付を開いた。


「されど、勝手な賦役を禁じ、兵の乱暴を取り締まりましたところ、今は落ち着きつつございます」


「訴えは聞いているか」


「各地に訴え所を置いております」


「握り潰しておらぬだろうな」


「握り潰した文官は、すでに役目を解いておりまする」


 惟種が種茂を見る。


「もう出たのか」


「二人ほど」


「早いな」


「人が増えれば、そのような者も交じります」


 宗運が静かに言った。


「ゆえに、文官を見張る者も必要にございます」


「見張る者を、さらに見張る者も要るな」


「左様にございます」


 宗運は、一枚の書付を前へ出した。


「正月より増やしてまいりました草や忍び、聞き役、目付をまとめ、阿蘇家直轄の組織といたしまする」


「名は」


「肥後鷹衆と」


「鷹か」


「阿蘇家の御紋より取りました」


 違い鷹の羽。


 阿蘇家の印である。


「役目は」


「文官の横領。旧主たちの不穏な動き。武具や兵糧の隠匿。他国から入り込んだ間者」


 宗運は淡々と続けた。


「兵を集める前に察し、謀反となる前に摘みまする」


「誰でも勝手に捕らえるような真似はさせるな」


「無論にございます。鷹衆の役目は、探り、証を集め、報告するところまで」


「人選は、わしと宗運で行う」


「御意」


「人も同じところへ長く置くな。一年ごとに改めよ」


「承知しておりまする」


「鷹が腐れば、今度は鷹を見張らねばならぬ」


「左様にございます」


「まず三年を目安に動かす。だが、組織のあり方は毎年改める」


「はっ」


「鷹衆そのものが腐っておらぬかも、必ず調べろ」


 宗運が頭を下げる。


「心得ておりまする」


 種茂が、わずかに眉を寄せた。


「宗運殿の手の者を、誰が調べるので」


「種茂」


「私にございますか」


「宗運は文官を疑い、種茂は鷹衆を疑え」


「では、殿は、どなたを疑われるので」


「二人とも疑う」


「よろしいかと」


 宗運が即座に答えた。


「少しは迷え」


 何人かが小さく笑った。


 種茂が話を戻す。


「各地の政は、おおむね順調にございます」


「飢えは」


「ございませぬ」


 種茂は、はっきりと答えた。


「九州の民は、飢えておりませぬ」


 惟種の表情が、わずかに緩んだ。


 そこだけは。


 何よりも大切だった。


「一部で雨の少ない土地がございましたが、近隣の蔵より米を運びました」


「足りたか」


「十分に」


「値は上がらなかったか」


「阿蘇大蔵方が米を出したことで、抑えておりまする」


「そうか」


 惟種は頷いた。


 九州の民は、飢えない。


 それが、惟種の作る国だった。


 豊作だからではない。


 どこかが不作でも。


 別の土地から米を運ぶ。

 村の蔵。

 郷の蔵。

 国の蔵。

 阿蘇家の大蔵。

 米を蓄え。

 道を作り。

 港を整え。

 足りない場所へ送る。

 一つの村だけに。

 一つの国だけに。

 すべてを背負わせない。

 九州全体で支える。

 その仕組みが、ようやく動き始めていた。


「検地は」


 惟種が尋ねる。


 臼杵鑑速が書付を取った。


「まだ、すべてが終わったわけではございませぬ」


「どこまで進んだ」


「村々からの指出は、肥後、豊後、筑後でほぼ集め終えておりまする。肥前、筑前、日向も大半が揃いました」


「実地の改めは」


「順次進めておりまする」


「薩摩と大隅は」


「島津方の帳面と照らし合わせております」


 貴久が頭を下げる。


「古い帳面には、抜けが多うございます」


「農民は農民なりの知恵がある。隠しているのも多かろう」


「そうでしょうな」


 日新斎が笑う。


「されど、今のうちに正せばよい」


 惟種は書付を見る。


「今の積りで、どれほどだ」


 鑑速が一度、息を整えた。


「米に直した積りで、九州全体で三百五十万石を越えるものと」


 広間が静かになった。


「三百五十万」


 惟種が繰り返す。


「はい」


「農地の改革もそうだが、土地が持つ力の積りか」


「左様にございます」


 惟種は小さく息を吐いた。


 三百五十万石。


 数字だけなら、途方もない。


 だが。


 そのすべてを兵に食わせるつもりはない。


 民を飢えさせてまで、蔵を満たすつもりもない。


「税は取りすぎるな。変わらず三公七民でいく」


「承知しておりまする」


 次に、吉弘鑑理が口を開いた。


「道についても、申し上げます」


「うむ」


「阿蘇から肥後各地へ続く道は、大きな荷車が通れるようになりました」


「橋は」


「石橋と木橋を使い分けております」


「雨で流されておらぬか」


「流された場所は、すでに架け直しておりまする」


「早いな」


「近くに材木と人足を置いておりますゆえ」


 主要な街道。

 港へ向かう道。

 山を越える道。

 川に沿う道。


 少しずつではある。


 だが、確実につながっている。


「ただし、殿が考案なされました、焼いた石灰と火山灰、砂、砂利を練り合わせる方法ですが」


「固まったか」


「固まることは固まりました」


「ならば、道に使えるか」


 鑑理は首を横に振った。


「難しゅうございます」


「なぜだ」


「灰や石灰の違いで、固さが揃いませぬ。うまく固まるものもあれば、崩れるものもございます」


「まだ配合が定まらぬか」


「それだけではございませぬ」


 鑑理は別の書付を開いた。


「石灰を焼くために、薪を大量に使います。練るにも人手が要り、固まるまで長く待たねばなりませぬ」


「道へ使えば」


「下の土が沈めば、上だけ割れまする。壊れた場所を直すにも、再び時がかかりましょう」


「割に合わぬか」


「今の阿蘇では」


 惟種は腕を組んだ。


 未来では。


 当たり前のように使われていた。


 だが、作り方を知っていることと。


 国中で使えることは、まるで違う。


「分かった。試したものは残しておけ」


「はっ」


「だが、道や蔵へ広く使うのはやめる」


「よろしいので」


「使えぬものへ、銭と薪と人を食わせても仕方がない」


「御意にございます」


「石を敷き、砂利を入れ、土を固める。今はそれでよい」


「その方が、早く、安く、直しやすうございます」


「便利な物だと思ったのだがな」


「殿のお考えが、すべてすぐに使えるとは限りませぬ」


 宗運が静かに言った。


「言い方というものがあるだろう」


「事実にございます」


「知っている」


 惟種は小さく肩を落とした。


「また、道が整ったことで、市へ入る荷は、昨年よりさらに増えております」


「何が売れている」


「米、麦、塩、魚、布、紙、油」


 鑑理は書付を見る。


「鉄器、陶器、清玉、髪洗薬、髪軟膏も、殿のおかげで需要が高まっております」


「その品の名は読み上げなくてよいぞ」


「殿のお名前が、九州中へ広まっておりますぞ」


「嬉しくない広まり方だな」


 何人かが笑った。


「品が増えたことで、民の暮らしも変わっております」


 鑑理は続ける。


「以前は、村で作れぬものは手に入りませなんだ」


「今は」


「市へ行けば、ございます」


 遠い土地で作られた物が。


 道と船を使い。


 九州の各地へ運ばれている。


「物が動けば、銭も動く」


 惟種が言う。


「銭が動けば、働き口も増える」


「左様にございます」


「農民が、農作業以外でも稼げるようにしろ」


「すでに、運び手、荷車方、蔵方、道普請など、多くの仕事が生まれておりまする」


「よし」


 惟種は満足そうに頷いた。


 おおむね、思い描いた通りだ。


「戸籍は」


「一部ではございますが、こちらに」


 種茂が、分厚い帳面を示した。


「まだ粗い村もございますが、主要な村では、人数、家族、生まれた者、亡くなった者、移り住んだ者まで、おおむね記録できております」


「間者は見つけやすくなったか」


「以前とは比べものになりませぬ」


「戸籍に名がない」


 種茂は淡々と答える。


「宿帳にもない」


「うむ」


「関を通った記録もない」


「うむ」


「村人の誰も知らぬ」


「怪しいな」


「そのような者が入り込めば、以前より、はるかに早く知らせが上がりまする」


 戸籍だけではない。


 宿場の帳面。

 関所の記録。

 港へ入った船。

 商人の名。

 荷の中身。

 語り部が聞いた噂。

 村役人からの知らせ。

 肥後鷹衆が探った動き。


 すべてが、少しずつつながっている。


「語り部は、相変わらず各地へ送っているのか」


「はい」


「木版も」


「配っておりまする」


「何を伝えている」


「阿蘇家が行った仕置き」


 種茂は指を折る。


「税の定め」


「うむ」


「米の配給」


「うむ」


「新しい道と市」


「うむ」


「殿が後光をさす絵を」


「それはいらぬ」


「疱瘡を防ぐ苗」


 疱瘡除けの苗は、民の心を大きく動かしていた。


 阿蘇家ならば。


 子を疱瘡から守ってくれるかもしれない。


 飢えた時には、米を出してくれる。


 道を作る。

 橋を架ける。

 市を開く。

 兵の乱暴を止める。

 訴えを聞く。


 そうやって民の心をつかんでいく。


「学び所は」


 惟種が尋ねる。


「各地で増やしておりまする」


「何を教えている」


「読み書き。算術。九州の地理。阿蘇家の定めた法と、銭の扱いにございます」


「子らの様子は」


「島津の民、大友の民、龍造寺の民というよりも」


 種茂が一度、広間を見回した。


「九州に住む、阿蘇家の民であると考える者が増えておりまする」


 広間にいる旧大名たちが。


 わずかに表情を変えた。


 だが、誰も異を唱えなかった。


 少なくとも、幼い子らの中には。


 物心がついた頃には。


 道も。

 蔵も。

 学び所も。

 阿蘇家の手で整えられていた者がいる。

 旧い領主の世を、ほとんど覚えていない者もいる。

 阿蘇家が治めていることを。


 特別なことだとは思わない。


 それが、少しずつ当たり前になっていく。


「語り部にも、同じことを伝えさせよ」


 惟種が言った。


「阿蘇家が偉いと、ただ叫ばせるな」


「では、何を」


「何をしたかを伝えろ」


 米を出した。

 税を軽くした。

 道を作った。

 子を病から守った。

 悪い役人を罰した。


「その上で、誰が行ったことかを伝えればよい」


「承知いたしました」


 旧い領主への忠義よりも。


 毎日の暮らしの方が重い。


 民の心は。


 確実に阿蘇家へ寄り始めていた。


「では、正月に定めました軍制の改めについて申し上げまする」


 宗運が口を開いた。


 広間の空気が変わる。


 前へ出されたのは、九州全体の兵籍だった。


「正月までは、九州の兵は家ごとに分かれておりました」


 島津の兵。

 龍造寺の兵。

 大友の兵。

 甲斐の兵。

 相良の兵。

 名和の兵。


 それぞれが、それぞれの家へ従っていた。


「正月の大評定にて、外へ振るう刃は一つにすると定めました」


 宗運は兵籍へ手を置いた。


「それより半年。各家との改めも進み、兵籍、武具、兵糧、俸禄を、阿蘇家の帳へ移し始めておりまする」


 誰も口を挟まなかった。


 正月に決めたのは、大本の方針である。


 この半年で。


 誰を兵として残すのか。

 誰を田畑へ戻すのか。

 どの城へ置くのか。

 どの家に、どれほどの手勢を残すのか。


 一つずつ、帳へ落としてきた。


 農民は、農民へ戻す。

 兵として残る者は。

 阿蘇家から銭と米を受け取る。

 島津の土地で生まれた者でも。

 島津だけの兵ではない。

 龍造寺の土地で生まれた者でも。

 龍造寺だけの兵ではない。


 すべて。


 阿蘇軍の兵となる。


「各家に属したまま残すのは、屋敷と当主を守る近習の手勢にございます」


「どれほどだ」


 貴久が尋ねる。


「家格に応じて、五十から、多くても五百」


「城番や村の守りは」


「阿蘇家の役として別に置きまする。家の私兵ではございませぬ」


「近習だけならば、その数でも足りよう」


「反乱を起こすには、少のうございます」


 日新斎が楽しそうに言った。


「なるほど。よく考えておる」


「父上」


 貴久が横目で見る。


「なぜ嬉しそうなのです」


「島津が疑われぬならば、それでよいではないか」


「島津の兵も減りまするぞ」


「わしが阿蘇軍を預かれば、同じことよ」


「同じではございませぬ」


 宗運が静かに否定した。


「阿蘇軍は、島津家の兵ではございませぬ」


「分かっておる」


「日新斎様がお命じになられても、阿蘇家の軍令に背く命であれば、従いませぬ」


「分かっておると言うておろう」


「念のためにございます」


「相変わらず、細かい男よ」


「軍を預かる者が、細かくなくてどういたします」


 惟種が、二人を見る。


「仲良くしろ」


「仲良くしておりまする」


 二人が、ほとんど同時に答えた。


 まったく、そうは見えなかった。


「正月に定めた軍の指揮筋を、ここで正式に固める。細目は追って伝えるが、まずは大本だ」


 惟種が書付を広げる。


「まず、九州惣軍大将」


 惟種が宗運を見る。


「甲斐宗運」


「はっ」


「謹んで、お受けいたします」


「九州惣軍脇大将。島津日新斎、龍造寺家宗、大友隼人」


 島津日新斎。

 龍造寺家宗。

 大友隼人。


 三人が頭を下げた。


「謹んで、お受けいたします」


「平時は、それぞれ預けられた兵を整えよ。大軍を動かす時は、惣軍大将の命に従ってもらう」


「承知いたしました」


「次に、船手」


 宗運が別の書付を取る。


「船手惣大将。甲斐親英」


「はっ」


 親英が頭を下げる。


「船手脇大将。島津貴久、鍋島信房」


「承知いたしました」


「船の造りは統一する」


 惟種が言う。


「大筒の位置。帆。船員の役目。合図。おおむね揃えている」


「光の合図も」


「海では、すでに用いておりまする」


「陸は」


 宗運が答えた。


「山と城の見張り所をつなぎ、少しずつ整えておりまする」


「届くのか」


「昼は狼煙。夜は火と灯を使います」


「狼煙だけで、詳しい知らせが分かるのか」


「狼煙は、通信を始める合図にございます」


 宗運は地図の上を指でなぞった。


「狼煙が上がれば、各見張り所が灯を用意いたします。夜であれば、そのまま光の明滅で知らせを送りまする」


「昼は」


「狼煙で急ぎを伝え、詳しい知らせは早馬にございます」


「途中で狼煙が上がらなければ」


「その場所で知らせが止まったと分かりまする」


「なるほど」


「肥後鷹衆より不穏な動きの知らせが入れば、近くの城代や軍奉行へ、すぐに合図を送れまする」


「使者だけよりは早いな」


「他家が使者を走らせる頃には、我らは兵を動かし始められましょう」


 反乱が起きてから。


 軍を集めるのではない。


 武器を集め。


 人が集まり。


 不満が謀反へ変わる。


 その前に察し。


 阿蘇家直轄の兵を動かす。


 芽のうちに摘む。


 それが、阿蘇家の新しい統治だった。


「殿が作られましたゆえ」


 親英が言った。


「光らせただけなのだが」


「それで、遠くの船や城が、同時に動くのでございます」


 親英が真顔で答えた。


「もっと誇っていただきたい」


「はっはっは、嫌だ。また説教されるからな」


 惟種は即答した。


 正月に定めた軍制が。


 ようやく、帳の上だけでなく形になり始めていた。


 各家は、外へ振るう兵を、私に抱える者ではなくなる。


 屋敷を守る近習は残る。


 だが、大軍は阿蘇家から預かり。


 阿蘇家の命によって、指揮するものとなる。


 兵を集めるのは阿蘇家。

 兵糧を出すのも阿蘇家。

 武器を渡すのも阿蘇家。

 俸禄を払うのも阿蘇家。


 将が反乱を起こそうとしても。


 兵が、その将だけに従うとは限らない。


「これで」


 惟種が地図を見る。


「正月に定めた通り、九州は本当に一つの軍として動き始めるのだな」


「左様にございます」


「すべて、一つの御旗の下にございます」


 宗運の声は静かだった。


「家ではなく、九州が動く」


 惟種が呟く。


「そのための軍にございます」


 広間に並ぶ者たちが。


 それぞれに頭を下げた。


「承知した」


 惟種も頷く。


「進めよ」


「はっ」


 九州の政は、まだ完成してはいない。


 検地も。

 戸籍も。

 道も。

 軍も。


 すべて、始まったばかりである。


 それでも。


 島津の兵でもなく。

 龍造寺の兵でもなく。

 大友の兵でもない。


 九州の兵が。


 阿蘇の御旗の下で、動き始めようとしていた。


 家々に分かれていた九州が。


 ようやく、一つの国になろうとしている。


 その最初の一歩が。


 確かに、踏み出されていた。


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