第百十二話 退き口
大友の軍は、退いていた。
だが、それはまだ敗走ではなかった。
少なくとも、戸次鑑連が目を光らせている間は。
少なくとも、吉弘鑑理と臼杵鑑速が、まだ声を失っていない間は。
「列を崩すな!」
吉弘鑑理の声が、煙の中を飛んだ。
「旗を見よ! 旗から離れるな!」
兵は振り返る。
振り返って、また前を見る。
後ろでは、まだ村が燃えていた。
火の音。
人の叫び。
阿蘇の鬨。
そして何より、何度も何度も聞こえる声。
「大友義鎮、討ち取ったり!」
そのたびに、兵の足が揺れる。
主が死んだ。
その事実は、矢より深く兵の腹へ刺さっていた。
臼杵鑑速は、馬上で顔を歪めた。
「声を止めさせろ」
「無理です」
近くの者が答える。
「あの声は、こちらの耳へ投げております」
「分かっておる」
鑑速は、低く言った。
分かっている。
だから腹立たしい。
阿蘇は、こちらを崩そうとしている。
槍で崩すのではない。
耳で崩す。
心で崩す。
足を止め、列を乱し、遅れた者から刈っていく。
遠くで、また悲鳴が上がった。
遅れた兵がいた。
村へ火をかけに散っていた兵である。
戻ろうとして、戻る列を見つけられず、畦の間で迷っていた。
そこへ、阿蘇の兵が寄った。
突っ込まない。
叫ばない。
無理に斬りかからない。
左右へ開き、逃げ道を狭め、槍先だけを向ける。
「降れ!」
阿蘇の声が飛ぶ。
「武具を捨てよ! 降る者は殺さぬ!」
大友の兵が、槍を握ったまま震えている。
抵抗すれば死ぬ。
降れば生きる。
その迷いが、一瞬で列を砕いた。
一人が槍を落とした。
次に二人。
それを見た三人目が膝をついた。
阿蘇の兵は、その者たちを斬らなかった。
縄をかけ、後ろへ送る。
抵抗した者だけが、短く討たれた。
臼杵鑑速は、それを見て歯を噛んだ。
「殺しに来ておらぬ」
吉弘鑑理も同じものを見ていた。
「削りに来ている」
二人の視線が合った。
言葉は少なかった。
だが、互いに分かっていた。
阿蘇は、こちらを全滅させようとしていない。
少なくとも、ここではない。
大友が府内へ帰る。
その数を減らそうとしている。
それが分かった時、鑑理の背に冷たいものが走った。
「府内か」
鑑速が、かすかに眉を動かす。
「何か申されたか」
「いや」
鑑理は首を振った。
今は考える時ではない。
まず、帰らねばならぬ。
府内へ。
大友の本拠へ。
主を失った以上、そこへ帰らねば大友は終わる。
◇
大友の諸将は、逃げながら道を論じた。
陣など、もうなかった。
幕もない。
床几もない。
地図を広げる台もない。
泥の上に、槍の石突きで線を引く。
吉弘鑑理が、短く言った。
「北へ抜ける道」
臼杵鑑速が応じる。
「阿蘇谷か」
「最短ではある」
「無理です」
鑑速の答えは早かった。
「阿蘇の腹へ入る道です。義鎮様を失い、列も乱れたまま、阿蘇神社の膝元を抜けるなど、死にに行くようなもの」
「二重峠を越えれば、豊後へは早い」
「越える前に食われます」
鑑速は断じた。
「兵は近道を好みます。だからこそ、敵もそこを見ます。今の我らが北へ向かえば、阿蘇の国人どもに道を塞がれ、落ち武者狩りに遭う。戸次殿の輿も通せませぬ」
吉弘鑑理は黙った。
分かっていた。
だが、言わねばならなかった。
「では、山か」
鑑速は、泥に引かれた東の線を見た。
「祖母の山を越える道」
「意表は突ける」
「兵は残りませぬ」
鑑速の声が、少し低くなった。
「あそこは、軍が通る道ではない。獣が逃げる道です」
近くにいた家臣が、唾を呑んだ。
祖母山系。
国境の山。
谷は深く、道は細く、荷は通らず、輿も通らぬ。
身一つなら逃げられる者もいるだろう。
だが、それは軍ではない。
兵は散る。
旗は消える。
負傷者は捨てられる。
鉄砲も荷も食糧も捨てることになる。
山へ入った瞬間、大友軍は大友軍でなくなる。
「山へ入れば、各々が己の命だけを見る」
鑑速は言った。
「そうなれば、もう戻せませぬ」
「では」
吉弘鑑理は、残った線を見た。
南東へ伸びる道。
「馬見原へ出る」
鑑速が頷いた。
「日向へ回る道です」
「遠い」
「遠いだけです」
鑑速は言った。
「北は死地。山は散り道。遠くとも、まだ軍でいられる道はそこしかありませぬ」
吉弘鑑理は、煙の向こうを見た。
そこには戸次鑑連がいる。
殿に立ち、大友の退き口を支えている。
鑑理は、かすかに目を閉じた。
義鎮は死んだ。
御首も取り戻せぬ。
馬印は傾き、旗本は崩れた。
ならば、残すものを決めねばならぬ。
全部は持って帰れない。
全部を救えない。
全部を惜しめば、全部を失う。
「日向へ回る」
吉弘鑑理は言った。
「馬見原、高千穂を抜け、豊後へ入る。府内へ帰る」
臼杵鑑速が頷いた。
「荷は」
「捨てる」
その言葉に、周囲がざわめいた。
鑑理は振り返らなかった。
「持てるものだけ持て。兵糧は背に負える分。鉄砲は動くものだけ。弾と火薬は分けて運べ。壊れた具足、予備の槍、陣幕、奪った物、重い箱、すべて捨てろ」
「しかし」
「帰るために捨てるのだ」
鑑理の声が強くなった。
「勝つために持ってきたものは、今は足を殺す。捨てよ。捨てられぬ者から死ぬ」
命が走った。
大友の兵は、荷を捨てはじめた。
陣幕が泥に落ちる。
箱が割られる。
奪った米俵が捨てられる。
余った槍が畦に投げ出される。
替えの具足が、燃える村の明かりに鈍く光った。
勝つために持ってきたものを、帰るために捨てる。
その音が、敗北の音であった。
◇
戸次鑑連は、輿の上にいた。
輿を担ぐ者の肩が揺れている。
汗が落ちる。
泥が跳ねる。
だが、輿は止まらぬ。
鑑連はそこから戦場を見ていた。
馬上の者より低い。
徒歩の者より高い。
妙な高さであった。
その高さから、敗軍の形がよく見えた。
大友の兵は退く。
阿蘇の兵は追う。
だが、阿蘇は突っ込まない。
こちらが槍を揃えれば、下がる。
こちらが鉄砲を向ければ、散る。
こちらが押し返せば、逃げる。
だが、離れない。
煙のようについてくる。
水のように回り込む。
蛇のように、遅れた足へ噛みつく。
「妙だ」
鑑連が呟いた。
近くの家臣が、顔を上げる。
「何がでございますか」
「阿蘇が、儂を討ちに来ぬ」
「恐れておるのでは」
「違う」
鑑連は、即座に言った。
「恐れておるなら、もっと離れる。あれは、近い。近すぎる。だが、刃を合わせるところだけ避けておる」
その時、右手で悲鳴が上がった。
十数名の兵が、畦の低みで遅れていた。
そこへ阿蘇の小勢が寄る。
鑑連の家臣が動こうとした。
「救いますか」
「待て」
鑑連は止めた。
阿蘇は、十数名を囲んだ。
殺到はしない。
槍を向け、弓を引き、声を投げる。
「降れ! 武具を捨てよ!」
大友兵のうち、数人が膝をついた。
残る者が斬りかかる。
その者だけが、すぐに討たれた。
降った者は、生かされた。
鑑連の目が細くなる。
「やはりな」
「やはり?」
「兵を殺すより、軍を痩せさせておる」
鑑連は、低く言った。
「降る道を見せれば、弱い者から抜ける。抜けた者を見れば、残る者の腹も揺れる。阿蘇はそれを知っておる」
「では、追撃ではなく」
「追撃だ」
鑑連は答えた。
「ただし、勝ちに酔った追撃ではない。こちらの血を一滴ずつ抜く追撃だ」
また声が聞こえた。
「大友義鎮、討ち取ったり!」
兵の足が止まりかける。
「聞くな!」
鑑連が怒鳴った。
「耳で死ぬな! 足で生きよ!」
兵が、かろうじて動く。
だが、鑑連は分かっていた。
この声は効く。
降れば生きるという阿蘇の扱いも効く。
荷を捨てたことも効く。
義鎮の死も効く。
すべてが、大友の兵から戦う理由を奪っている。
それでも、帰らせねばならぬ。
「戸次様!」
伝令が駆け込んできた。
「吉弘様、臼杵様より!」
「申せ」
「本隊は日向道へ。馬見原、高千穂を抜け、豊後へ戻るとのこと!」
鑑連は、短く頷いた。
「そうか」
家臣が、思わず声を出した。
「日向へ回るのですか。遠すぎます」
「北は阿蘇の腹だ」
鑑連は言った。
「山は兵を捨てる道。日向へ回るしかない」
「では、我らも」
「殿は変わらぬ」
鑑連の声は、静かだった。
「本隊がその道を選んだなら、我らはその退き口を守る」
「しかし、輿では」
「輿でも儂は目が見える。口も動く」
鑑連は、冷たく言った。
「槍を持てぬだけだ」
誰も、それ以上言わなかった。
◇
本隊は南東へ折れた。
それは、簡単な動きではなかった。
兵は北へ逃げたがる。
豊後へ近いと思うからである。
山へ逃げたがる者もいる。
敵の目から消えられると思うからである。
だが、吉弘鑑理と臼杵鑑速は、それを許さなかった。
「北へ行くな!」
臼杵鑑速が怒鳴る。
「そちらは阿蘇だ! 近い道ほど敵がいる!」
「列へ戻れ!」
吉弘鑑理の旗が振られる。
「馬見原へ出る! 旗を見て進め!」
それでも、すべては戻らない。
五人、十人。
二十人、三十人。
小さな塊が、道を外れていく。
山へ入る者。
北へ走る者。
燃える村の陰へ逃げ込む者。
そのたびに、阿蘇の兵が寄った。
深追いはしない。
山の奥へは入らない。
ただ、入口で待つ。
出口で待つ。
逃げ道を狭め、膝をつかせる。
降る者は捕らえられた。
抗う者は討たれた。
大友の兵は、少しずつ減っていった。
大きく崩れたのではない。
切り崩されたのでもない。
こぼれていく。
水を入れた桶の底に、見えぬ穴が空いているようであった。
吉弘鑑理は、それを見て唇を噛んだ。
「止められぬか」
臼杵鑑速が、苦い顔で答える。
「止めようとすれば、本隊が止まります」
「止まれば」
「戸次殿ごと阿蘇に追いつかれます」
二人は黙った。
分かっている。
だから進む。
だが、進むたびに、後ろが遠くなる。
後ろには戸次鑑連がいる。
「戸次殿は」
鑑理が問うた。
「まだ殿にございます」
「距離は」
伝令は、答えるのをためらった。
「申せ」
「開いております」
鑑理の顔が、わずかに歪んだ。
「どれほどだ」
「伝令が戻るにも、難儀するほどに」
臼杵鑑速が、目を伏せた。
それはつまり、殿が切れかけているということだった。
「待つか」
吉弘鑑理が言った。
言った瞬間、自分でもその言葉の弱さを知った。
待ちたい。
待たねばならぬ。
戸次鑑連を置いていくなど、あってはならぬ。
だが、待てばどうなる。
阿蘇は寄ってくる。
逃げる兵は止まる。
止まった兵は恐怖を見る。
恐怖を見た兵は崩れる。
そして、義鎮を失った大友軍は、そこで終わる。
臼杵鑑速は、しばらく答えなかった。
やがて、低く言った。
「待てば、戸次殿は救えるやもしれませぬ」
吉弘鑑理は、鑑速を見た。
「だが」
「大友は救えませぬ」
その言葉は、刃のようだった。
鑑理は、目を閉じた。
義鎮は死んだ。
戸次鑑連は殿にいる。
兵は減り続けている。
ここで自分が選ぶのは、誰を救うかではない。
何を残すかである。
「進む」
吉弘鑑理は言った。
声は掠れていた。
「本隊は止めぬ」
臼杵鑑速が、深く頷いた。
「戸次殿へ伝令を」
「出せ」
鑑理は言った。
「本隊は日向道を進む。殿の合流を待ちたいが、止まれぬ。どうか、どうか追いつかれよ、と」
言い終えた後、鑑理は歯を食いしばった。
武士の言葉ではない。
指揮官の命でもない。
願いであった。
◇
伝令は、戸次鑑連のもとへ届いた。
届いた時には、馬が泡を吹いていた。
男は泥の上に転げ落ち、そのまま膝をついた。
「吉弘様より!」
「申せ」
鑑連は、輿の上から見下ろした。
「本隊は日向道へ! 馬見原、高千穂を抜けます! 殿の合流を待ちたくとも、止まれぬとのこと!」
周囲がざわめいた。
「待てぬ?」
「我らを置いていくのか」
「吉弘殿が、そのような」
鑑連は黙っていた。
怒りはなかった。
いや、あったのかもしれぬ。
だが、それより先に理解があった。
待てば死ぬ。
それだけの話である。
「よい」
鑑連は言った。
周囲の者が、息を呑んだ。
「よい、とは」
「本隊は止まるな」
鑑連の声は、よく通った。
「儂を待てば、大友が死ぬ」
誰も、言葉を返せなかった。
「伝令」
「はっ」
「吉弘殿、臼杵殿へ返せ」
鑑連は、煙の向こうを見た。
「本隊は進め。荷を捨て、兵をまとめ、府内へ帰れ。戸次は殿を務める。追いつけるなら追いつく。追いつけぬなら、勝手に生きる」
伝令が、顔を上げた。
「勝手に、生きる」
「そう伝えよ」
鑑連は言った。
「儂はまだ死ぬ気はない」
その言葉に、周囲の兵の目がわずかに戻った。
戸次鑑連が死ぬ気ではない。
ならば、まだ終わりではない。
そう思いたかった。
だが、阿蘇は待たない。
右から小勢が寄る。
左から弓が飛ぶ。
背後の煙の中で、降伏を促す声が聞こえる。
鑑連は命じた。
「輿を下げよ。だが走るな。走れば崩れる」
「はっ」
「槍を二重に出せ。鉄砲は撃ちきるな。見せて止めろ」
「はっ」
「遅れた者を拾えるだけ拾え。だが、拾うために列を割るな」
言ってから、鑑連は顔を歪めた。
拾えるだけ拾え。
その言葉が、どれほど残酷か分かっていた。
拾えぬ者がいる。
見捨てる者がいる。
手を伸ばせば届くように見えても、伸ばせば列が崩れる。
鑑連は、それを選ばねばならぬ。
「戸次様!」
若い兵が叫んだ。
「後ろに、まだ味方が!」
見れば、三十ほどの兵が、阿蘇に追われていた。
火付けに出ていた者たちである。
具足は乱れ、息は上がり、列はない。
助けようと思えば、助けられるかもしれぬ。
だが、そのためには戸次隊の足を止めることになる。
阿蘇の兵は、それを待っていた。
鑑連には分かった。
助けたい。
助けさせたい。
助けに来たところを、さらに遅らせる。
阿蘇は、こちらの情をも削りに来ている。
「……槍を出せ」
鑑連が言った。
家臣が振り返る。
「助けますか」
「違う。道を作る」
戸次隊の槍が開いた。
三十の兵へ、細い逃げ口ができる。
「走れ!」
戸次の兵が叫ぶ。
「そこを抜けろ!」
三十のうち、十数名が走った。
数名が転んだ。
数名が、阿蘇の前で膝をついた。
残る者が斬りかかり、すぐに倒れた。
助かった者は、半分もいなかった。
鑑連は見ていた。
見て、目を逸らさなかった。
「列を閉じろ」
声だけが、冷たかった。
◇
本隊は、遠くなっていった。
吉弘鑑理は、何度も後ろを見た。
臼杵鑑速は、後ろを見なかった。
見れば、止まりたくなる。
止まれば、死ぬ。
だから見ない。
代わりに、兵の数を見た。
六千いた兵は、もう六千ではない。
旗本は砕けた。
火付けの兵は戻らぬ。
別働の端は切れた。
山へ逃げた者もいる。
降った者もいる。
今、旗の下にいる数は、見るたびに減っていた。
「三千は」
鑑理が言いかけた。
鑑速が答える。
「割りませぬ」
「本当か」
「今は」
短い答えだった。
今は、である。
このまま進めば、さらに落ちる。
夜になれば、また落ちる。
腹が減れば、また落ちる。
府内へ着くころ、どれだけ残るか分からない。
それでも、進むしかない。
「戸次殿から返答は」
「本隊は進め、と」
鑑理は目を閉じた。
「そう言われたか」
「はい」
「……そう言われると思っていた」
臼杵鑑速は、初めて後ろを見た。
煙の向こう。
火の向こう。
道の向こう。
戸次鑑連の姿は見えない。
ただ、阿蘇の声だけが聞こえる。
降れ。
武具を捨てよ。
降る者は殺さぬ。
その声が、大友の背を押していた。
殺すためではない。
帰すためである。
少なくして、帰すためである。
◇
戸次鑑連は、ついに本隊の旗を見失った。
煙が濃かった。
道が曲がっていた。
谷の影が深かった。
理由はいくらでもあった。
だが、事実は一つである。
本隊が見えぬ。
戸次隊の周りに残っている兵は、わずかだった。
それでも、彼らはまだ列を作っていた。
槍を持ち、傷を押さえ、息を荒げながら、輿の周りに集まっている。
「戸次様」
家臣が低く言った。
「本隊は」
「進んだ」
鑑連は答えた。
「我らを置いて、ですか」
「そうだ」
あまりに静かな答えだった。
家臣の顔が歪む。
「ならば、我らは」
「生きる」
鑑連は言った。
「置かれたなら、置かれた場所で生きる。捨てられたと思うな。儂が進めと言った」
「しかし」
「本隊が生きねば、大友は死ぬ」
鑑連の声は低い。
「我らが生きれば、なおよい。それだけのことだ」
その時、周囲の音が変わった。
阿蘇の声が、遠巻きになった。
槍の音が止んだ。
追い立てる声も、少し引いた。
代わりに、草を踏む音がした。
一つではない。
四方からである。
戸次隊の兵が、槍を構えた。
正面の煙が割れる。
そこに、若い武者がいた。
泥に汚れた鎧。
まだ若い顔。
だが、その目は、年に似合わぬほど冷えている。
その周囲を、阿蘇の兵が静かに囲んでいた。
叫ばない。
急がない。
勝ち誇らない。
ただ、逃げ道だけを消していく。
戸次鑑連は、輿の上からその若者を見た。
あれか。
義鎮を討った者。
海より戻り、一千で馬印を折った者。
大友六千を、半ば以下へ痩せさせようとしている者。
阿蘇の鬼童。
阿蘇惟種。
取り残された戸次鑑連と、その周囲のわずかな兵。
そこに、阿蘇の鬼童、阿蘇惟種が、周囲を囲みながら近づいてきた。




