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火の山の若君は、未来を夢に見る ~阿蘇家嫡流の若君、名臣甲斐宗運と乱世を切り拓く~  作者: アトラス


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第十一話 若君、その夢は誰のものだ

 呼び出しを受けた時。


 阿蘇惟種は。


 とうとう来たかと思った。


 水飴が売れた。


 思った以上に。


 そうなれば。


 父も宗運も、次を聞きたくなる。


(まあ、だろうな)


 宗傳に案内され。


 惟種は部屋へ入った。


 中には。


 阿蘇惟豊と甲斐宗運。


「惟種」


「はい、父上」


「座れ」


 惟種が座る。


 宗傳は一礼し、外へ下がった。


 惟豊が口を開く。


「水飴を食うた」


「いかがでしたか」


「甘かった」


「それは何よりにございます」


 惟豊の口元が、少しだけ動いた。


「売れておるそうだな」


「はい」


「どこまで広げるつもりだ」


 惟種は少し考えた。


「まずは門前だけにございます」


「なぜだ」


「作れば売れるからと、急に増やすのは危ういかと」


「何が危うい」


「麦です」


 宗運がわずかに目を細めた。


「続けよ」


「水飴のために麦を買い集めれば、値が上がるやもしれませぬ」


「そこまで考えておったか」


「いえ」


 惟種は素直に首を振った。


「北里が気づきました」


「北里政久か」


「はい。麦の取れる村や、余り、値まで見ております」


 惟豊は再び惟種へ向いた。


「そなた一人の知恵ではないのだな」


「わたし一人では、何もできませぬ」


 惟種は答えた。


「作るのは志乃たちです。麦を見るのは北里。書き残す者も、運ぶ者も要ります」


「なるほど」


 惟豊は小さく頷いた。


 しばらくして。


 別の問いを投げた。


「惟種」


「はい」


「そなたの夢は、誰のものだ」


「……誰の?」


 意味が分からず。


 惟種は父を見る。


「そなた一人の遊びか」


「違います」


「では、何のためだ」


 惟種は黙った。


 田。

 市。

 水飴。


 その先には玻璃がある。


 島津。

 大友。

 龍造寺。

 九州。


 さらに。


 天下。


 海の向こう。


 全部を話すには。


 まだ早い。


 だが。


 今やっていることの理由なら。


 答えられる。


「阿蘇のためにございます」


「阿蘇家のためか」


「それだけではありませぬ」


 惟豊の目が少し動いた。


「では」


「ここに住む者が、食えて」


 惟種は言葉を選ぶ。


「働けば暮らせて」


「うむ」


「銭が回り」


「うむ」


「戦になっても、簡単には潰れぬ」


 そこで。


 惟種は父を見る。


「そういう阿蘇にしたいのです」


 部屋が静かになった。


 宗運が問う。


「その先は」


 惟種は宗運を見る。


「何だ」


「若君は、今『阿蘇に』と申されました」


「うむ」


「それで終わりにございますか」


 鋭い。


(やはり感づくか…)


 惟種は少し迷った。


 そして。


「今は」


 と答えた。


 宗運の目が細くなる。


「今は、にございますか」


「まず阿蘇だ」


「まず」


「阿蘇すら守れぬ者が、その先を語っても仕方あるまい」


 宗運は。


 それ以上は聞かなかった。


 惟豊もまた。


 問い詰めはしなかった。


 ただ。


 覚えておくような目をしていた。


    ◇


「もう一つ」


 惟豊が言った。


「今後も、夢で得た知恵を使うつもりか」


「使えるものなら」


「勝手に?」


「……それは」


 惟種は少し目を逸らした。


 宗運が口を開く。


「若君」


「何だ」


「今後は、まず宗傳へ」


「宗傳?」


「はい」


 宗運は淡々と続けた。


「若君がお考えになったことを、すべて私や御屋形様がお聞きしていては回りませぬ」


「それは……そうだな」


「まず宗傳へお話しくだされ」


「宗傳が宗運へ?」


「はい」


「おぬしが量るのか」


「使えるかどうかを」


 惟種は考えた。


 勝手にはできない。


 だが。


 道はできる。


「分かった」


「それと」


 宗運が続ける。


「一度に大きな話はなさらぬよう」


「…………」


(バレてるな)


「心得ておる」


「少しずつにございます」


「分かっておる」


「本当に?」


「宗運」


「はい」


「わしは若君だぞ」


「ゆえに申し上げております」


 惟豊が小さく笑った。


「宗運の言う通りにせよ」


「……はい」


 これでは。


 二対一だ。


 勝てる気がしない。


    ◇


 惟豊が最後に問う。


「惟種」


「はい」


「そなたの夢は、阿蘇のために使うのだな」


 惟種は顔を上げた。


「はい」


 それは絶対に嘘ではない。


 まずは。


 ここからだ。


「よい」


 惟豊は頷いた。


「ならば、やってみよ」


「父上」


「ただし、宗運が止めたら止まれ」


「…………はい」


「間を置いたな」


「気のせいにございます」


 宗運が横で目を伏せた。


 たぶん。


 笑っている。


    ◇


 部屋を出ると。


 宗傳が待っていた。


「若君」


「うむ」


「今後は、まず私へ、と」


「聞いておったのか」


「聞こえておりました」


 惟種は宗傳を見る。


「大変だぞ」


「何がでございます」


「わしの話を最初に聞くのだ」


 宗傳は少しだけ考え。


「……覚悟いたします」


「そこは安心させろ」


 惟種は息を吐いた。


 だが。


 悪くない。


 思いつけば。


 宗傳へ。

 宗傳から宗運へ。


 通るものだけ。


 形にする。


(十分だ)


 惟種は歩き出す。


 頭の中には。


 もう次があった。


 透明な。

 光を通すもの。


(次は、玻璃か)


 少しずつ。

 通る形で。


 夢を。


 現実へ変えていく。


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