第二十七話
レイクフォールでの新米教師としての毎日は慌ただしく、そして輝きに満ちていた。
あまりに元気すぎる子どもたちが教室で巻き起こす喧騒に、コーデリアが「これじゃ授業というより嵐の真っ只中にいるみたいだわ」と肩を落とせば、隣の教室を担当するセオドアは相変わらず穏やかな微笑みを崩さずに「教育とは、その嵐の中でいかに美しい航路を見つけるかだよ、コーデリア」と詩的な言葉を返す。
そんな日常の中に一通の春風のような手紙が舞い込んだのは、萌芽の匂いを運ぶ春のことだった。
「ロザリーが、結婚……!」
花嫁学校へ進んだあの愛らしいロザリーからの招待状。そしてミリエルとベアトリスと一緒にブライズメイドを務めてほしいという願いに、コーデリアは跳び上がって喜んだ。
眩しいほどの五月晴れの日、フェアメドウという一年中陽の光に満ちた街の、教会の控室で四人は再会した。お揃いの淡いパステルカラーのドレスを纏い、頭には色とりどりの野の花で編まれた花冠。鏡の前に並んだ姿は、ミスト・ヴァレーの小さな学校で過ごした日々が昨日のことのように蘇るほど瑞々しかった。
「やっぱり、わたしたちのなかで一番に花嫁になるのは、ロザリー、あなただったわね」
「そうみたいね。だけど次はあなたの番かもしれないわ、コーデリア。でも、こうしてまた四人で集まれるなんて、本当に幸せ……。ねえミリエル、そのネックレス素敵ね。ベアトリスもお仕事は順調?」
積もる話は尽きず、四人は思い出の糸を一本ずつ丁寧に手繰り寄せた。霧の中の通学路のこと、代筆騒動のこと、ベアトリスの流された靴のこと。笑いながら、あの頃はみんな同じ場所にいたのだと思った。
「そうだわ、コーデリア。リーヴァイも来るはずよ。学校で一緒だった子は、みんな呼んだの。絶対来てって何度も念押ししたら、少し遅れるけど必ず行くって返事が来たわ」
「そう」
「それだけ?」
「……楽しみだわ」
「そうよね。久しぶりでしょう」
やがて高く澄んだ教会の鐘が鳴り響き、式の始まりを告げた。新郎は銀行員をしているという穏和で誠実そうな青年だった。幸せの絶頂にあるロザリーが、純白のヴェールを揺らしながら彼の隣へと進んでいく。
誓いの言葉の最中、音を立てないようひどく慎重に扉が開けられて、忍び込むように体を滑り込ませた人影があった。リーヴァイだった。
あの無愛想な人が式の途中に音を立てないようこわごわと席に着く様子があまりにもらしくなくて、コーデリアはつい肩が震えた。隣にいたベアトリスが、怪訝そうにコーデリアを小突く。
なんとか笑いを堪えながら、もう一度だけそっと見た。リーヴァイは遅れてきたくせに今さら澄ました顔をして、最後列で祭壇を眺めていた。
教会の外では日差しが祝福するように降り注ぎ、懐かしい顔ぶれがそこかしこにあった。コーデリアはシャンパングラスを片手に、その輪の中を渡り歩く。
リーヴァイは少し離れたところに立っていた。相変わらず人の輪の外側にいる人に、コーデリアはドレスを揺らして近づいた。
「結婚式に来たの、初めてなの。こんなに晴れやかなものなのね。リーヴァイは来たことがある?」
「何度かね。親戚のもので」
「そうなの。……素敵な式よね。ロザリーは昔から幸せを見つけるのが上手だったわ。花嫁学校へ行くと知ったときから、こうなると思っていたような気がする」
コーデリアはグラスを傾けながら、ふと思い出したように言った。
「そういえば、ブライズメイドって未婚のうちに二回までしかできないのよ。わたしたち三人いるのに、あと一回しかできないわ」
「じゃあ、あれを取った人が君たちの最後の花嫁になるわけだ」
リーヴァイの視線がコーデリアの少し先へ向く。つられて振り返ると、庭の中央でロザリーがブーケを手に持って、くるりと背を向けるところだった。未婚の女性たちがあちこちから集まってくる。コーデリアはグラスをリーヴァイに押しつけた。
「走るのか」
「せっかくだから取りたいわ。あと一人しかできないんだから!」
ドレスの裾を少し持ち上げて、コーデリアは迷わず駆けていく。花冠が揺れて、月光石のバレッタが春の光を弾いた。ふわり、と花束が空中で弧を描き、リボンが風にほどけるように揺れる。
コーデリアは背伸びをして、指先いっぱいまで伸ばして──ぽすん、と軽い衝撃が両手に落ちた。
「……え」
周囲から弾けるような歓声が上がる。ミリエルが「コーデリア!」と興奮した面持ちで名を呼び、ベアトリスが「本当に取ったわ」と心底驚いた声を上げた。
その声に押されるように、コーデリアは花束を胸の前で持ち上げた。まじまじと見つめて、それからぱっと顔が輝く。
「見て、取れたわ! 本当に、わたしのところへ落ちてきたの!」
少女のような無邪気さで、コーデリアは何度もその場で飛び跳ねた。彼女は視線を一直線に人混みの外へ向け、そこに立つ一人の青年のもとへ、躍るような足取りで花束をぶんぶんと振ってみせた。
リーヴァイはそんな彼女のあまりの熱狂ぶりに、呆れを通り越して顔をしかめながら頷いた。その瞳には「あんなに走り回って、またどこか打ち付けるのではないか」という危惧が依然として渦巻いている。
けれどそのあまりに眩しい笑顔を前にしては、毒のある言葉などどこかへ消えてしまったのだろう。観念したように軽く両手を合わせ、周囲の喧騒に紛れさせて、たった一人に向けて確かな拍手を送った。
広場に降り注ぐ日差しは、彼女が抱えた花束をひときわ眩しく際立たせている。コーデリアが胸いっぱいに抱きしめたブーケからは、春の予感とロザリーの幸福の匂いがした。




