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魔王の嫁でございます ~僅か8歳で魔王の後宮に入内した元王女ブリジア妃の数奇な人生~  作者: 西玉
第4章 地下後宮の慶事

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71 慶事の後

 〜イベント用ダンジョン 最下層〜


 レガモンと同じく侍女のナギサ、ソフィ、ソブリン、シテンの5人は、七色に輝く場所に転移した。

 周囲は七色に輝いているが、その正体は周囲の蒸気に映し出された光だ。


「ソフィ、魔力は?」


 レガモンは、武器を抜いて警戒しながら尋ねた。

 ソフィに尋ねたのは、元宮廷魔術師であり、魔女の血筋で魔力については長けているからだ。

 警戒しているのは、ダンジョンの最下層に突入したという認識があるためで、仲間達の誰かが油断しているとも思っていない。

 ソフィは答えた。


「魔力は減っていないわね。私たちの魔力は使用されていない。あの魔法陣に触れれば、魔力は私たち以外の誰かが供給するようになっていたみたいね」


 転移の魔法陣は、魔族しか設置できない。

 だが、魔力を消費すれば使用することはできる。

 魔法陣を設置した段階で、大量の魔力を消費しないと転移できないように設定することも可能なはずだ。


「つまり、招かれたか」

「そうみたいだね」


 元々勇者であるナギサが、胸の魔道具を起動させた。

 全身を無機質な装甲が覆う。

 ヤマトの国で使用していた時は、巨大な怪獣対策だったため巨大化したが、魔道具の開発者シテンにより改良されていた。

 武器は元々持っていた直刀だが、赤い光を放っている。

 ナギサは性別が女性に変わり、魔王によって初めてを奪われたが、勇者であることは変わっていない。


「来るわよ」


 狙撃手という役目上、極めて目がよく、決して警戒を緩めないソブリンが警告を発した。

 同時に、空中で何かが弾ける。


「今のは?」

「何かの攻撃よ。撃ち落としたわ」

「かかって参れ、公子たちよ!」


 地鳴りのような怒声が響く。


「守護の光」


 ソフィが杖を振ると、全員が光の膜に包まれた。

 さらに空中で何かが爆ぜる。

 ソブリンが撃ち落としているのがわかる。


「ナギサ、行くぞ」

「うん。遅れないでよ」

「生意気な」


 レガモンは笑いながら、騎士団長の時でさえ得られなかった高揚感に、侍女に選んだブリジアに感謝した。

 地面を蹴る。

 前方で炎が爆発した。


「ソフィ!」

「氷の大地、炎を喰らえ」


 ソフィが命じると、レガモンの足元が凍りつくのがわかった。

 炎が目の前に迫ったところで、レガモンは足を取られた。


「滑るぞ!」

「滑って!」


 レガモンの苦情に、ソフィが怒鳴り返す。

 普段はとてもおとなしい侍女だが、魔法については決して妥協しない。

 レガモンは言われた通りに地面を滑った。

 凍った地面が炎で炙られ、足元はよく滑った。


 勢いよく滑り、炎の壁を抜ける。

 立ち上がったところにナギサが滑ってぶつかり、尻餅をついた。

 立て続けにソフィ、ソブリン、シテンがぶつかり、絡まって転がる。


「よくぞ来た。勇者よ。選べ。この場で死ぬか、世界の半分を手に入れるか」

「『世界の半分』?」


 炎の壁を抜けると、忌まわしい椅子に座した黒い肌と黒い衣の魔族が告げた。


「レガモン、惑わされないで。勇者を惑わす常套句だ」

「どうしてわかる?」


 流線形の青い光が入った装甲を纏ったナギサの言葉に、レガモンが問い返す。


「魔王とか竜王ってのは、勇者が討伐にくると、条件をつけて惑わすものなんだ」

「ほう。面白い娘がいるね。まるで、異世界からやってきた勇者のようじゃないか」


 座していた黒い姿が立ち上がる。

 美しい肢体をした、おそらく魔族だろうとわかる。

 魔族だと思わせるのは、美しい肌の光沢が、あまりにも金属的だ。


「ナギサ、どうする? 勇者だってバレているぞ」

「ばれていない。言わないで」

「あっ、すまん」

「戯言を!」


 魔族が動いた。

 速い。一瞬でレガモンの目の前にいた。

 レガモンは盾で受けようとした。


 横から、ナギサの剣が赤い光を引いた。

 だが、何の衝撃もなかった。

 レガモンの横で爆発が起こる。


「ちっ、やっかいな」


 レガモンは、目の前に迫ったと思ったのが、幻影だと理解した。

 横の爆発は、ソフィによるものだ。


「レガモン、実体はそっちよ」

「わかった」


 レガモンが剣を振るう。


「いや。移動した」


 ソブリンの声と同時に、レガモンの背中側で金属音が響いた。

 振り向くと、ソブリンが放った礫を、魔族が手で掴み取っていた。

 ナギサが剣を振る。

 手応えなく、素通りした。

 再び消えた。そう思ったナギサの仮面を、幻影のはずの魔族が掴み取った。


「ぐあぁぁぁぁっ!」


 ナギサの仮面が握りつぶされる。

 レガモンがナギサの背後から剣を突き立てた。


「風の流れ、全てを吹き飛ばす」


 ソフィが杖を振るう。

 レガモンの頭上に、黒い魔族がいた。

 落ちてくる。


 レガモンが盾で受ける。

 押し潰された。

 それほど、重い。


「レガモン、左のボタン!」


 今まで成り行きを見守っていたシテンの指示に、レガモンは盾の内側にある左のボタンを押した。

 途端にレガモンの盾が凸型から凹型に変形し、上にのしかかっている魔族を包み込むように広がった。


「なに?」


 動揺する魔族の首を、ナギサが斬り飛ばす。

 レガモンが剣を振り下ろし、ソブリンが跳ね飛んだ首を撃ち落とし、ソフィが破壊された肉体を四散させる。


「ぐぎゃああぁあぁぁぁぁぁっっっ!」


 断末魔の悲鳴と共に、魔族が消滅した。


「よくやった。公子たちよ。ダンジョンは解放された」


 どこからか声が響いた。

 魔族の女が座っていた椅子の前に、魔法陣が浮かび上がっている。


「ソフィ」

「ええ。転移の魔法陣ね。これでダンジョンは終わりってことでしょう」

「じゃあ、僕たちが勝ちってことかな?」

「もちろん。ダンジョンを攻略したんだからね」


 レガモンは、仲間の侍女たちと笑い合った。

 イベント用とはいえ、手強い魔族を打ち果たしてダンジョンを攻略した。

 加えてブリジアの知り合いを同じ宮殿に招くことができる。


 そう思って、レガモンは笑った。

 仲間達と肩を組んで、魔法陣に入る。

 慶事の順位づけに、ダンジョン攻略の有無が入っていないことは、5人の侍女たちは誰も認識していなかった。


 〜遊食園 中央櫓〜


 魔王ジランの前に、全身を黒で統一し、人族の目には凹凸すらわからなくなった姿の皇太后ミスティが転移した。

 魔王は設られた玉座から降りて膝を突き、すぐに立ち上がった。

 皇后デジィも同様に玉座から降りる。


「母上、満足なさいましたか?」

「おう、おう。公子たちは魔王軍に入ることもできない者たちだと聞いていた。期待はしていなかったけど、なかなかじゃないか。ダンジョンに入ったのだ。攻略せずにはおれない。ボスがいたら挑まずにはいられない。魔王の子供たるもの、そうでなくちゃいけない。まだまだ未熟だが、気に入った。どの宮殿の公子たちだね?」


 皇太后と初対面で打ち据えられたダネスは、黙ってミスティのために重たい椅子を用意した。

 ミスティに椅子を勧めると、魔王も玉座に戻る。


「母上が言うのは、ダンジョンの最下層に到達し、ダンジョンと戦った者たちですな?」

「当然さ。それ以外に何がいる? ただダンジョンの宝を掠め取ったり、愛くるしい臆病な魔物をねちねち虐めたり、そんな連中は見たくもないさ」


 ミスティは言うと、吐き捨てた。

 吐かれた唾が黄金を黒く浸食する。

 そのことには誰も驚かず、魔王は言った。


「あの者たちは、公子ではありません」

「そうだと思った」

「ほう。お分かりですか?」

「公子たちに、あれほどの気概はあるまい。王子なのだろう? 魔王軍に入る資格を持った子たちが紛れていたってことかね。ただ宮殿を争わせるだけじゃない。あたしを楽しませようって魂胆だね」


 ミスティは大口を開けて笑ったが、口腔の中まで見事に黒い。


「皇太后様、違いますわ」

「ほう。デジィ、私が間違っているって?」


 口を挟んだ黄金の皇后に、光を吸収するかのような皇太后が尋ねる。


「皇太后様と戦ったのは、ただの侍女たちです。皇太后様が、いくら力を抜いたかといっても、侍女たちに勝ちを譲るとは、お戯れですね」

「なに?」


 ミスティの声は裏返った。

 魔王はミスティの背後、遊食園に作られたグラウンドを指差した。


「あちらで、慶事の結果を表示しております」

「うん?」


 ミスティが振り返る。

 グラウンドに設置された掲示板には、一位、耐火殿、二位獣雷殿、三位老練殿、四位来奇殿と表示されていた。

 その前で、耐火殿の主人エレモア王妃が、新しい妃シャミンに冠を被せていた。


「……あたしが戦ったのは、あの耐火殿の……侍女なのかい?」

「母上、慶事は戦闘の場ではありません。より多くの宝を持ち帰り、より多くの魔物を倒した宮殿が勝利すると定めてあります。母上と戦おうと、ダンジョンを攻略しようと、宮殿の評価にはつながりません」


 ミスティは、ぽかんと口を開けた。


「じゃあ、あたしは何をしていたんだい?」

「楽しんだのでしょう?」

「まあね」

「よかったではありませんか」


 皇后デジィが笑う。


「どうして、あの侍女たちは……本当に侍女たちだったのかい?」

「侍女ですな。得点にもならないことをしていたから、その侍女たちがいる来奇殿は最下位となりました」


「本当に、公子たちでも王子たちでもなかったのかい?」

「違いますな」

「中の1人ぐらいは、侍女じゃないだろう?」

「全員侍女です」

「あの侍女たち、あたしに仕えさせな」


 ミスティはそれだけ言うと、全身が闇に包まれた。

 闇が溶け、後には黒い染みだけが残った。


「お帰りね。相変わらず、見事なこと」


 皇后デジィは、魔王と魔王軍の将軍たちの前で、溶けるように姿を消したミスティの手腕を評価した。


「ああ。厄介なことになったものだ」


 魔王の視線の先に、ブリジア貴女が震えていた。

 しばらくして、ダンジョンを攻略した5人の侍女たちが凱旋する。

 中央櫓ではない。


 来奇殿の櫓の中だ。

 ブリジアは、侍女たちを迎えるために出ていった。


 魔王は、石灰岩の塊を掴み、手の中で圧力を加えて液体に変え、果実を搾るかのように、溶けた岩石を飲み込んだ。

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