85.予測外の贈り物、追跡不能 ②
クロディスは書類の封筒を箱の上に乗せ、両手で運んで家に戻ってきた。
タマ坊はクロディスの動きに合わせ、彼女の足元にくっついて、うきうきと出たり入ったりしている。
クロディスはポケット納屋をリビングに置いてあるバゲージラックに降ろした。ついでにローテーブルに置いてあったトオルも取った。その時、追跡用レーダーの反応が消えていることに気づいた。春斗を追跡していたカブトの反応が途絶えていたのだ。
「!?」
その変化に気づいたクロディスは目を丸くして、書斎に飛び込み、寝ているトオルの肩を揺すって起こそうと呼びかけた。
「トオル、起きて!」
「ううん??何だ……昨日の作業は4時までだ……」
「今は朝10時よ」
アトランス界の時間概念では、1時間が90分、1分間が120秒である。6時間寝たトオルは、十分に寝たはずだ。
「もう……ちょっと寝らさせて……」
「石井春斗を追って居る子の反応が消えたよ」
「何!?」
その情報を聞いたトオルは、一瞬で睡魔を払いのけるように目を見開き、ソファーから飛び起きた。
すぐに机の前に立つと、機元使い獣の制御機元端のレーダー映像を確認した。確かにカブトムシの発信ポイントが消えていた。
「一体、何が起こったのでしょうか?」
「石井を追跡している間に他の魔獣に襲われたとか、あるいは天候などの原因で本体が壊れたのかもしれません。やはりプラスチック製のものは脆いという問題が……」
「これって、彼の追跡はもう無理なの?」
トオルは細首を傾けたクロディスを見て言う。
「すぐに新しい機元を使って追跡するのは問題ないけど、新しい機元でも同じように撃ち落とされるかもしれない。カブトが撮った情報はこの機元端末に保存されてるから、まずは昨晩何が起こったのか、現場映像を確認しないと」
「冷静さを失っていなくてよかった。確認にはどれくらい時間がかかるの?」
「昨晩の襲撃から徹底的に確認するから、早くても20分かかるかも」
「かなり時間がかかりそうね。私は朝食を作ってくるわ」
「うん、ありがとう」
速やかに顔を洗い、歯を磨いたトオルは、昨晩のカブトムシが春斗を追跡していた映像を確認し始めた。
机に映し出された映像には、春斗が何度もこちらの画面を見上げる姿が映っていた。春斗はカブトムシの存在に気づいているらしかったが、武器やスキルで撃ち落とそうとする様子はなかった。
カブトムシは飛空艇に乗った春斗を追い、一軒の工場倉庫に降りた。春斗の後を追って、廃棄された倉庫に入っていった。
真っ暗な廊下では、春斗がマスタープロテタスを光らせており、それ以外の光源はなかったが、僅かな光室内の闇が祓い避け程明るい。
最後に、貪食者らしい3人と話し合う場面が映し出された。3人の交渉の内容ははっきりと聞き取れた。
<……俺は源気を消すユニットも作れるぜ。それを使えば、人だけじゃなく、電子機器でも感知できないレベルまで抑えられる>
<それは源気制御ユニットの類いでしょう?あなたはそれで源気ごと抑制させて力を使えなくするのが目的じゃなくて?>
<そうじゃない、俺のユニットなら源気を抑えずに外部からの探測を遮断できる。お前らだって俺の存在に気付かなかっただろ?でも実際、俺の源気はビンビンだぜ>
トオルは会話の内容を聞きながら、肩がさらに重くなっていく気がする。
カブトムシはもっと近く寄せていくと、3人の顔をまた取れっていない、映像は黒い物体が正面から襲ってくる。その一瞬に映像がザーと消えた。
観た映像にトオルが長い息を引き締めた。
「トオル、朝食をできたよ」
「ああ、今行く」
トオルは食卓に座ると、焼き魚、アトランス界の食材で作った筑前煮、ソーセージと出汁卵焼きを副菜、野菜サラダと椀に味噌汁スープの熱々塩気匂いが鼻を嗅ぐ。ビカビカのご飯と別皿に名が知らない果物をたくさんが盛ってある。
ティエラルスの食堂の朝食は定食セットメニューを用意している、時期に従ってメニューが変わるが、四種類のセットメニューを日替わりに注文するといつか変わらない食べ物に飽きる日が来る、また、トオルは初めてティエラルスに搬入した頃に、異国な食べ物と微妙な味付けに食が合わないことがあった。それ以来、クロディスはトオルの朝ご飯を作ってあげるのは毎日の日課になった。和食と洋食、料理がよく変わり、クロディスがよく考えて作った朝食、トオルには一人暮らした日々の朝より口福を満だす。
栄養がたっぷりと彩りなおかずを食い、飯を進むトオルのボーっとしている表情を見てクロディスは声を掛けた。
「味つけは如何?」
「うん、美味よ」
クロディスは料理を作っている時に、トオルが見た映像の内容もトオルの意識により、良く見覚えた。声を応じるがまたしばらく物事を考えている顔面を見せたトオルに言う。
「幸いことはリーゼロティさんを追跡している子がまた生きているよね?」
「うん、彼女の方は昨晩に襲われてないようだ」
トオルは箸で魚肉を口に入れて、程よい甘塩味を咀嚼しながら、考えていた。
――まさか、リーゼロティが貪食者に襲われた推測が間違っているのか……
「そちら方の配置は暫く変わらなくでも良いでしょう?」
目線をクロディスに見合わせる。
「どうして?」




