84.予測外の贈り物、追跡不能 ①
翌朝、ティエラルス516室。
クロディスは鏡の前で、両手を重ねて胸元に置き、立っている。
生まれたままの姿で立つ彼女は、二重の円形紋章の中にいる。
黄緑色の章紋が光り、スキャナーライトのように足元からゆっくりと上昇していくと、クロディスの心霊体と、錬成した肉体が組みあい、安定化していく。
「すっはーーーーー」
クロディスは重い空気を吸うように、長く深い呼吸をした。
手を離すと、胸元には花弁の紋様の石が光った。クロディスは服を着ると、自室を後にする。
階段を降りてすぐ、書斎に向かう。仮眠用のカウチソファーでトオルが横になっていた。
テーブルには三つの球体。どうやら徹夜して作った武具アイテムは完成したらしい。細くイビキをしているトオルの寝顔を見て、クロディスは優しく微笑んだ。
「よく頑張ったね」
床に落ちていた薄い掛け布団をトオルにかけ直すと、書斎に入ったクロディスに気付いたらしいタマ坊とコダマが動いた。
コダマは翼を小さく振り、トントンとテーブルに跳びあがると、短く鋭い鳴き声を上げ、挨拶するように前屈みになった。
「おはよう、コダマちゃん」
タマ坊も顔を寄せ、鼻をクロディスのふくらはぎに当てている。彼らは蓄えておいたトオルの源気でひとりでに動いていた。
「ふふ、タマ坊もおはよう。良く眠れた?」
コダマは頷き、胸のライトを黄緑色に変えた。床を這っていたタマ坊も、絶好調だというように立ち上がり、両手を開く。
クロディスは擬人機械に対しても、誰に対するのとも変わらない笑みを向けた。
「良い朝だね。さて、トオルの朝ごはんを作る前に、配達箱でも確認しておこうかな」
クロディスは書斎を出ると、リビングを通って玄関を開ける。配達箱の中には3号バッテリーほどのサイズの、六角柱ガラスが入っている。クロディスは四つのガラスそれぞれに映った送り人を確認した。
それから、外の小道に一つ、ポケット納屋が置かれているのに気付いた。
その上に、「左門トオル」と宛名が書いてある。
「これは何?トオルが買ったのかな……」
不審物でないことを確認するため、クロディスはそのポケット納屋に『中身解析』の紋章をかける。
「|he su to e bu ru《ヘ ス ト エ ブ ル》 」
水色の、帯状の紋章が箱を包み、宙に文字が浮かび上がる。クロディスはそれを読むと安心し、興味深そうに笑った。
「やっぱりトオルは人に恵まれているんだね」




