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79.配慮と思ったことない気持ち

 トオルはクロディスの声を聞くだけで何も問題がないような、安心な気持ちになったが、貪食者の追跡についてはどうしても不安が残る。


「うん……。でも、白河さんに手伝ってもらうのは、良いことなのかな」


「あの子は自分の身の丈を知っているから、危険な行動には出ないと思う」


「そうか、確かに彼女は大人しいし、無茶をするようには思わない」


「うん、きっと優秀な魔導士マギアになれるよ。それより、私は依織いおりさんが心配」


 クロディスは頬杖をつき、物憂げに天を仰いだが、トオルにとって戦闘シーンで最も信頼のおける依織の何が問題なのか、全く理解できなかった。


「依織さん?あんなに聡明でしっかり者なのに?」


「彼女はいつも仮面を被っている。強がりで、良いところを見せたいと思っている一方で、内面は不安が強く、他者に依存的なところがある。周りに良い人がいれば成長できるけど、甘い言葉を囁かれた時に揺らぐ弱さがあるよ」


「ぼくは彼女は優秀で、強い人だと思っていた」


「頑丈な金属にも弱点はあるんだよ」


 そういえば依織は、二人きりになると時折、弱音を吐いていると、トオルは思い出す。


「彼女は立派な魔導士にはなれないだろうと、私は心配しているよ……」


「それはまだ分からないんじゃないか?」


「魔導士の「玉苗ルムト」として評価されるには、自分の気持ちを正直に受け止められる力が最も必要になる。口に出すことと、意識の海にあることが相反していれば、章紋術ルーンクレスタの詠唱にも影響が出るよ」


「それは……」


 依織から話を聞いて、トオルが感じていたことは、魔導士になりたい依織にとっての壁でもあったのだ。トオルはとっさに反論できず、口ごもる。


「依織さんがセントフェラストに入学したのは、自分の意志ではないんでしょう?魔導士になりたいというのも、彼女自身の意志ではなくて、父親に認められたいという依存心から来ている。きっと彼女は自分の心に反抗されて、途方に暮れているよ」


 トオルは物事をプリント基板や電子回路のように考えてしまうところがある。だから依織の本当の気持ちを読み取るのは難しかった。だが、彼女が自分の気持ちを吐露するたび、その脈音が沸騰したお湯のようにブツブツと、時によっては不整脈のようにギザギザになることは気付いていた。それが、彼女の弱さから来ているのだと、クロディスの話を聞いて理解した。


「そんなに辛いと思っていたのか……。でも、気付いているならクロディスが教えてあげれば良かったのに」


「トオルはデリカシーがないね。それをそのまま伝えることは、依織さんのプライドを傷付けるし、ほんのわずかな可能性すら失わせてしまうでしょう?」


「プライドか……」


「だって、依織さんの両親は社会で成功している優秀なウィルター。彼女はそんな両親の教えを信じてここまで生きてきたの。なのに、初対面の私が言った言葉で素直に聞き入れられると思う?」


 トオルはついさっき、クロディスに指摘されたことを思い出してハッとなった。


「それもまた、意の(かせ)ってやつなのか?」


 依織も自分と同じように、自分の中にある概念や枠に囚われているのかもしれないと思うと、やるせないような、もどかしいような気持ちになる。


「クロディス、何か、依織さんにしてあげられることはないのかな」


 トオルが他人に対して優しさを示すことは、クロディスにとっても嬉しいことだった。


「トオルが友だちとして彼女にできることは、もうたくさんしていると思うよ。それよりトオルは、自分自身をもっと大事にしてほしい」


 トオルは「う~ん」と声を漏らした。クロディスはそう言ったが、依織のためにできることはないか、トオルはまだ考えていた。


「トオルは依織さんのこと、どう思っているの?」


 予想外の問いかけにトオルは戸惑い、無表情になった。


「え、うん……友だちだけど……?」


「それだけ?別の感情はないの?」


「別の感情とは……?」


「例えば、女性としてどう思う?」


「えっ、依織さんは、しっかり者で、優秀な女性だと……思うけど……」


 クロディスは困ったように息を吐いた。


「じゃあ、トオルは依織さんのこと、女性として好き?付き合いたいとか、恋人になりたいと思う?」


 直球の質問にトオルは驚き、顔を真っ赤にした。


「い、いやいや、ぼ、ぼくなんかより他に、彼女には相応しい人が見つかると思う」


「トオル、さっきも言ったけど、トオルは依織さんに、友だちとしてできることはたくさんやってる。これ以上は甘やかしすぎ。依織さんが勘違いしちゃうよ?」


「そ、そういうことになるのかな……」


「そうだよ、彼女一人だけに優しくしていると、他の異性の友人ができなくなるよ」


 これまで機械やプログラミングのことばかり考えて生きてきたトオルには、女性との関わり方の作法が一つも分からなかった。クロディスに言われて初めてそのことを意識したが、すぐに答えが出せるはずもない。


「うん、考えておく」


 その時、クロディスの胸元の石が点滅しはじめた。

 その白っぽい黄色の光は、クロディスがこの体から抜け出す時を表している。


「ぼくは作業に戻る」


「うん、応援しているね、おやすみ」


「おやすみなさい」


 クロディスは、トオルの頬にそっと唇を触れた。その直後、無数の光となって体が散った。

 トオルは両手で頬を打ち、自分を叱咤するように「よし!やるか!」と声を出した。

 

 ソファーから立ち上がり、トオルは書斎に戻った。


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