72.妹ための親睦会 ②
「お疲れ様、忙しいのに来てくれてありがとう」
「トオルがいつもよく話している皆さんですね?」
席に着いている面々を見て、クロディスは柔らかい笑みを浮かべた。
「うん、地球界からこっちへ来る道中で出会った友人たちだ」
クロディスは四人の方を見回し、淑やかなお辞儀をした。
「皆さん初めまして、クロディスです。いつもお世話になっていると兄から聞いています」
「みんな、彼女がぼくの妹のクロディス」
トオルは何の気負いもなくクロディスを紹介したが、四人は時間が止まったようにしばらく黙っていた。依織は驚いたように眉を上げ、穣治も口を開けたまま静止している。
「え、みんな、どうしたんだ?」と、トオルが焦ったように言った。
大輝の顔からもさっきの不機嫌さは消え、美鈴とともに無言を貫いている。
周囲の話し声がやけにうるさく聞こえてきて、トオルが不安になった頃、ようやく穣治が動き出し、慎重な声でこう言った。
「ふ、二人は……本当に兄妹なのか?」
「はい、私たちは実の兄妹です。どうしたんですか?」
トオルとクロディスが示し合わせたように声をシンクロさせた。
「いや、二人が全然似てないから……」
依織は、穣治が酒を飲むと失言王になるクセがあると知っていたが、それにしても失礼な物言いだと気付き、「金田さん!」と遮った。
「そんな言い方、失礼ですよ?」
「内穂さんだってそう思うだろ?顔を見ても、あまりにも違う……」
真顔で言い返されると、依織の方がかえって言葉に詰まった。「べ、別にっ」と針の飛んだレコードのように声がうわずる。
「ただ、見た目に頓着しないトオルくんの妹さんが、こんな美人さんとは思わなかったですけど」
「内穂さんの方こそ下手なリップサービスはやめろよ」
「違います!本当にそう思って言ってます!」
依織は妹と聞いて勝手に、小さくて可愛らしい女の子を想像していた。だが、つるつるの肌や小さな顔、鋭く長い耳を持つクロディスを見ると、むしろ姉と呼ぶに相応しいような淑女だったことに驚いた。依織は驚き、その美貌に惚れ惚れとして、頬を赤らめた。
大輝が頬杖を突きながら言う。
「左門さんはいつもヘッドホンを付けてるから、全体を見比べることはできないけどな」
穣治は大輝の意見を聞いて、トオルのヘッドホンに隠された耳がどんな形をしているのか、ますます気になった。
「たしかにミーラティス人というと、鋭く長い耳が特徴だからな」
二人の視線がヘッドホンの注がれているのが分かり、トオルは恥ずかしそうに俯いて、テーブルに置いてある自分のグラスを見つめた。
微妙な空気を溶かすため、依織は強気に言う。
「似てなくったって、素敵な妹さんがトオルくんにいるっていうだけで、良いじゃない!」
依織にフォローされ、トオルとクロディスは顔を見合わせて笑った。クロディスは何を言われても気にしていないようで、子どもの悪戯を見守るみたいに「ふふ」と微笑んだ。トオルはようやく皆にクロディスを紹介できた嬉しさと恥じらいの入り交じったような笑みを浮かべている。
「同じことを、ハウスメイトたちからも言われるし、ぼく自身、彼女に会った時にも信じられなかった」
「なぁトオルくん、俺は聞いたことがあるんだが、ミーラティス人は同じ種族の者を家族や兄妹と呼ぶことがあるという。君と彼女も、「兄妹」と言っても遠い親戚じゃないのか?」
「いや、ぼくたちは同じ両親から生まれた、双子の兄妹だ」
双子という言葉にさらに驚かされながらも、穣治は目の前の現実を最大限に合理化するように考えた。
「うむ……二卵性双生児なら、似ていなくても矛盾はない。それにしても……君の妹は本当に美人だな」
「あなたは金田さんですね。外見的特徴が似ていなくても、家族であれば源紋パターンの3割に同調が見られるようです。双子では最大で5割が一致したケースもあります」
「そうか……トオルくんが妙に感覚の鋭いところがあるのは、ミーラティス人譲りなのか」
初めてアトランス界へ来たはずのトオルが懐かしいと感じたことや、飛空船でいち早くガードマンの動きに違和感を覚えたことなど、トオルの不思議な能力の謎が解けたと穣治は納得した。トオルとクロディスの兄妹に一層の興味が湧いた。
「ということは、左門さんは元々、アトランス界のご出身だったっていうことでしょうか?」
美鈴の問いかけにトオルが頷く。
「うん、母親がミーラティス人だそうだ」
トオルの家族のことを詮索することでクロディスに悪印象を持ってほしくないと思った依織は、「一旦お話は後にしましょう?」と話題を断ち切った。
木製のテーブルを指で2回タッチすると、メニューが宙に投影される。依織が画面を操作し、クロディスに問いかけた。
「クロディス先輩、まだ何も召し上がってませんよね?何か注文しませんか?」
「そうですね、ファンティリスを一ついただきます」
「分かりました。ファンティリスって、魔導士の方々に人気のカクテルですよね?」
「よくご存じですね」




