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69.五月蝿い奴 ③

「ああ、俺たちは同じ苗字だぜ。こいつは長い間、俺の家に居候していた従兄弟だ。出来損ないの、疫病神だぜ」


 新しい世界で、新しい仕事を始めていたトオルは、顧客の前で悪口を言い放題に言われ、心に氷の杭を突き刺されたような痛みを感じた。


 店員は一瞬だけ表情筋にしわを寄せたが、すぐに普通の顔に戻って昌彦に問いかけた。


「疫病神ですか?ご親戚にそんな言い方をされるなんて、少し酷くありませんか?」


 店員は昌彦の釣りに引っ掛かった。昌彦はきっとトオルの父のことを晒し、貶めようとするだろう。地球界では犯罪者の家族に偏見を持つ者は多い。アトランス界ではどのような価値観を持つ人がいるのか、トオルにはまだわからなかったが、顧客にそれを知られるのは怖かった。製造所の価値まで下げることになるのは辛かったし、トオル自身がどんな目で見られることになるのか不安だった。


「そうだ、俺の母親はこいつのせいで死んだんだ。俺の家族は全部、コイツのせいでメチャクチャになった」


 昌彦は自分を哀れむようにそう言った。


「ほう、サモンさんが君のお母さんを殺したんですか?」


「殺したも同然だ。俺の母親は、コイツの誕生日祝いを買いに行って、爆発に巻き込まれて死んだ」


「なるほど。それは君が何歳の時ですか?」


 アトランス界での時間計算にまだ慣れない昌彦は、指を折りながら言った。


「俺が小6の時だから、12歳……。こっちの時間なら、一年以内に起きた事件だ」


 店員は一方的な昌彦の話に耳を傾けるのではなく、まるで取り調べでもするように、詳細を問い続ける。これまでにない展開に、昌彦は戸惑った様子だ。トオルも不思議そうに二人のやりとりを見ていた。


「どれくらい前の話かは聞いていません。では、当時すでに12歳にもなっていた君は、積極的にその事件を止める努力はしたのでしょうか?」


 問い返され、昌彦は頭に血を上らせたように「はぁ?」と言い、自己弁護する。


「小6がテロを止められるわけねぇだろ?」


「タヌーモンス人の社会では、12歳にもなっていれば、やりたいことを決めて親から離れる年頃です。私はその年齢の頃にはすでに、生家の町を警備し、魔獣や賊を退治する役割を担っていました。君はその事件が起きた時、どこで何をしていたんです?現場にいましたか?」


 店員の話は少し主観的でもあったが、彼は自分の価値観で、率直に話しただけだった。「12歳にもなって」テロを止められなかったのか、と言われ、昌彦は腹が立ち、事件について声高に語った。


「お、俺が現場にいるわけないだろ?あの日、俺の母親はコイツと二人でプレゼントを買いに行ったんだ」


 何度も何度も思い出したあの日を、トオルはまた思い出す。最初は繋いでいた手、パニック状態の人混み、そして、離れていった叔母の手。


 次に彼女と再会したのは、葬儀場の遺影と、花に囲まれた棺の中だった。叔母を悼む気持ちとともに、悲しみや悔しさ、そして無実にもかかわらず責められてきた苦しみを思い出し、トオルは口の中で強く奥歯を噛んだ。


「悲しいことでしたね……。ですが、私が聞く限り、それは彼の責任ではありませんね」


「何でだよ!コイツさえいなければ、俺の母親はあの日、ショッピングセンターに行ってない。母親の命が奪われたのは、全部コイツが悪いんだよ!」


 激しい怒声を浴びせる昌彦を、店員は冷静に見守り、彼の声が収まると事件についてさらに訊ねた。


「それで、事件はどうなりました?犯人は捕まったんですか?」


「俺はまだ12歳だったんだ、そんなことまで知ってるわけねぇだろ!」


 自己保身に必死の昌彦まさひこは、何を聞いても怒鳴るばかりだ。代わりにトオルが重い口を開き、ゆっくりと語り出す。


「ぼくは、当時のニュースをわずかに覚えています。何人かの容疑者が取り調べを受けたようですが……決定的な証拠がなく、未解決事件のまま、今も犯人は捕まっていません」


 店員は頷き、トオルに向かってはっきりと告げた。


「そうですか、私にはあなたの無実は分かっています」


「何だと?!」と、昌彦が吠えた。


「未解決事件で肉親を亡くすと、悲しみや怒りの感情の行き場がなくなってしまうんです。その晴らせない憎しみを生き残った者に転嫁してしまうというのは、よくあるパターンです。事件でご家族を亡くされた気持ちは尊重しますが、君がセントフェラストの心苗コディセミットなら、そのままでいいんでしょうか?」


「何が言いたいんだよ」


「君が言ったとおり、君の母はテロ事件によって亡くなった。ならばその責任は、事件を引き起こした者にある。それが分かっているなら、同じ事件の被害者であるサモンさんに責任を負わせるのはおかしなことだと、本当は分かっているはずです。君がするべきは、自らの手で真犯人を捕まえること、そして、事件によって失われた死者たちの魂を安らかにすることではありませんか?」


 見知らぬ人から、こんなふうに言われるのは昌彦にとって初めての経験だった。ましてやトオルの前で諭され、昌彦は耐えがたい屈辱に逆ギレした。


「黙れ!!そんな屁理屈聞くもんかよ!」


 トオルが一瞥すると、昌彦は歪んだ笑顔を見せ、さらに声を張り上げた。


「あ~~、そうか、そういうことか、分かったぜ。お前、コイツからポイントとか資材とかもらってるんだろ?そうでもなきゃ、コイツを庇うなんてありえねぇよな」


 昌彦にとってトオルは、ロボットオタクの引きこもりでなければいけなかった。セントフェラストに来て間もないというのに、庇ってくれる人がいるというだけでも許せなかった。


「コイツを庇って後悔するのはお前だぜ。長く付き合い続ければ、いつかお前もコイツに殺されちまうかもなぁ!」


トオルは息苦しいような気持ちになって俯いた。納入ユニットを見下ろし、それでもまだ苦しくて、ぎゅっと目を閉じる。何も言い返せる言葉がなかった。


――ぼくは一生、叔父一家に呪われるのか……。


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