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68.五月蝿い奴 ①

 トオルは裏口にある工房までやってきた。業務搬送用のポケット納屋なやに入っている5000個のパーツを選び、積み下ろしの収納ユニットを付ける。納入コードを入力すると、貨物はポケット納屋から直接、工房の倉庫に転送される。


――作業時間は3分くらいか……。


 転送が終わるまで待っていると、「おいおい」という面倒な男の声が聞こえた。


「トオルじゃないか。こんなとこで何やってんだよ」


 しばらく見なかった従兄弟いとこの顔を見ると、トオルは一瞬だけ目を開き、さっと表情をなくした。あまり相手にしたくなかった。


「見ての通り、ぼくはバイト中だ。放っておいてくれ」


 入学からの数日、昌彦まさひこがだらしない生活をしていることは大輝だいきから聞いていた。同じ大学に通う親戚とはいえ、トオルは昌彦の生活まで知りたいとは思わないし、その義務もない。叔父一家での居候の日々は辛い思い出ばかりのトオルにとっては、恩義を感じてもおらず、関心を寄せる対象ですらなかった。


「ふ~ん、引きこもりのお前が、日の当たる場所で客商売なんて、マジで合わないんですけど」


 トオルは苛立ちながら昌彦を見る。たった数日の間に、昌彦は顔も体も一回り丸くなったようだ。


「ぼくにはやりたいことがある」


「トオルのくせに偉そうなことばっかり言って。お前に何ができる?」


「ぼくは機元ピュラト作りを極めたい。そのために、資材の製造所で働いている」


 それを聞くと、昌彦の目が輝いた。


「何だ、お前そんなところで働いてるのかよ。いいなぁ、俺にも資材くれよ」


「そんなことできないに決まってるだろ」


「そう言うなよ、お前そこの社員なんだろ?社割とかあるんだろ?」


「悪いけど、うちの製造所にそんなサービスはない」


 製造所の製品を社割で注文できるというような福利厚生は聞いていない。それでも頑張って働いていれば、時折ケティアが無料の試作品をくれるし、少量の資源で試作品を作れれば十分と思っているトオルには、それで問題なかった。


 トオルにとってはそんな社割よりも、ブルーノから教わる材料の錬成配合や、それぞれのパーツの特性などのノウハウの方が貴重だった。ましてや昌彦のためにそんな口利きをしてやるつもりもない。トオルは冷たくあしらった。


「ちぇ、お前マジで使えないよな」


 トオルは幼い頃、叔母さんがたまにくれた玩具も、すべて昌彦に取られ、返してもらえたことはなかったのを思い出した。トオルのものは自分が好き勝手に使って良いと思っているその性格は、セントフェラストへ入学した今でも変わらないらしい。

 トオルはもう昌彦と関わりたくなくて、さっと顔を逸らした。


「使えなくてごめん。でも、資材がほしいなら自分の力で何とかしてくれ。この世界は地球(アース)界と同じで、努力をしなければ何も手に入らない」


 昌彦は、トオルが従順そうなふりをして、自分に牙を剥いたことに驚き、そんな彼を認められなかった。


「お前、俺に説教するつもりかよ」


「そんなつもりじゃない。ぼくはただ事実を言っただけ。お前がどう生きるかは、ぼくには関係ないから、暇を潰していてもいいし、何をしていても勝手だけど、邪魔だけはしないでほしい」


 収納ユニットの画面に、入荷作業完了の通知が入った。トオルは取り外し作業に取りかかる。


「はぁ?何の話かさっぱりわからねぇなぁ」


「とぼけないでくれ。ぼくの父親が地球界で指名手配されていることを流したのはお前だろ?」


 トオルが睨むと、昌彦は歯を剥き出しにして大声で笑った。


「ハハ、何だそれ、傑作だな。誰がやったか知らないけど、俺はそいつに感謝するぜ」


「……お前が言ったんじゃないのか?」


「そこまで興味ねぇよ。いいか、良いことを教えてやる。お前を叩き潰したい奴は誰でも、情報を買えば簡単に弱みを手に入れられるんだよ。この世界でもお前は、スタートラインに立った時点ですでに、他の奴より弱者だってことだ」


 トオルは自分の歩む道がこれから先も険しいものであることを知り、大きなショックを受けた。もう何も言い返すことはできず、複雑な表情で作業に取りかかる。慣れている作業だったはずなのに、トオルはなかなかポケット納屋を外すことができない。


「作業が終わったみたいですね」


 さっきの男性店員がやってきて、トオルの後ろに知らない男が増えているのを怪訝な表情で見る。


「どうした、こんな簡単な作業すらできないのか?俺が手伝ってやろうか」


「やめろ、ぼくの仕事を邪魔するな。あっちに行ってくれ」


「ちょっと、あなた誰ですか?ここは関係者以外立ち入り禁止ですよ」


 店員の声に、二人は振り向いた。昌彦が何でもないというように手を振り上げながら、店員の方へ歩み寄る。


「ん?この店の店員か?俺はこいつの親戚で、たまたま通りがかりでこいつがいたから、様子を見に来ただけだ」


「そうなんですか、サモンさん?」


 トオルは否定できなかったが、親戚関係にあると認めるのも嫌で、口をもごもごさせている。


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