67.五月蝿い奴 ①
一時間後、6箇所に貨物を運んだトオルは、工場所有の飛空艇で、セントフェラストを飛び回った。
雲を割るように飛び進む。トオルはヘッドホンを改造し、防寒防風用のメガネを着装できる機能を加えていた。
飛空艇の操縦ディスプレイを目視し、地図を頭に叩きこむ。
「残り一箇所か、とっとと終わらせよう」
トオルは操縦レバーを強く握り、飛空艇の核に源気を集中させ、スピードを一気に上げた。
この日最後の配送先は、中央学園エリアにある。飛空艇や、個人製造の中小の乗り物は、過密した旧城下町をはじめ、各キャンパスに降りる際は、指定の離着陸場を使うよう定められている。そのため、離着陸場が混んでいれば空中で列をなすこともあった。
もちろん、飛空艇に異常があるなど、特別な理由や資格がある時には他の場所での離着陸も許されるが、基本的にはルール違反になってしまう。
トオルは空中に浮かぶ信号を見ながら、着陸の順番を待つ列に並ぶ。
「この辺り、いつも渋滞してるよな……」
列には、メーカーの作った量産型のものから、個人が特注で作ったもの、それに、使い獣を乗り物にした人も並んでいる。他にも、自分の源気で創った個性的な機械や、奇妙な外見の生き物がたくさん並んでいた。トオルはそれらの列を眺めながら、どうしたらそんな発想で物作りができるのかと感心していた。
待機中、トオルはヘッドホンのスイッチを押す。
工場へ来る前に飛ばしておいた2体の使い獣は、すでに偵察ターゲットをマークしたようだ。それぞれの機元に付けた発信機とナノカメラの情報が、防寒防風メガネに映し出される。レンズにはリーゼロティの位置と、彼女の身の回りの様子が見えている。もう一度スイッチを押すと、今度は春斗の方に映像が切り替わった。
トオルの機元は本物の蝶やカブトムシそっくりに似せてある。さらに、源気を使わず、熱エネルギーによるチャージ式のバッテリーで動く仕組みにしている。この世界の住民なら、源気には気を付けているが、それ以外のものには気付かれにくいだろうという予測だ。
トオルはこのようにして、配送の仕事の合間にたびたび二人の様子を見た。リーゼロティは体術の実技授業を受けている。春斗は教室棟一階ロビーでの商いから、商店街のフリーマーケットでの出店へと場所を移していた。
「午後は売り場を変えてるのか……」
場所を変えることで、同じカレッジ所属の新苗だけでなく、他キャンパスの心苗や他学年の人たち、さらには教諭陣や一般市民まで大幅にターゲットを広げることができる。
トオルはそんな様子を眺めながら、再確認するように言った。
「まだ異常はないな」
数分後、着陸の番が来た。浮上エンジンの出力を抑え、重力を借りて降りていく。スムーズに離着陸場の指定スペースに停めることができた。
トオルはエンジンを停止し、防寒防風メガネを外すと、飛空艇から降りて地上に足を付ける。ポケット納屋を取り出し、投影された画面の空きスペースを押すと、ポケット納屋は光を放ち、飛空艇はみるみるうちに吸い取られ、目の前から消えた。
ポケット納屋をしまい、ラインに従って階段を降りると、ベーロコット商店街へと歩く。脚力に自信のあるトオルではないが、一刻も早く仕事を終わらせ、機元武具を完成させたい。その思いは彼を駆り立て、普段よりもずっと速いペースで歩いていた。
商店街には様々な屋台もあり、その中には行列ができる人気店もあった。ちょうどその時、人気の屋台で肉焼き串を買った昌彦は、食べ歩きに興じていた。暇を持て余していた彼が商店街に目をさまよわせていた時、足早に過ぎ去っていくトオルに気付いた。
昌彦は大口を開け、残りの肉を一気に飲み込むと、串を捨てた。そして、意地悪そうに口の端を上げると、トオルを尾行しはじめた。
トオルは騎士向けの装備スーツ専売店を訪れた。扉を開くと、「いらっしゃいませ」と男性店員の声が聞こえた。
「こんにちは、バルツァー製造所の左門と申します。先日ご発注いただいたパーツをお持ちしました」
「ご苦労様です。貨物の搬入法はご存じでしたよね?」
「はい、裏口の工房に下ろしますね。納入コードをお教えいただけますか」
「少々お待ちください、確認します」
店内に一人残されたトオルは、展示されている装備スーツの部品を眺めた。
軽装備から重装備まで、男女どちらの装備も置いている。フルアーマー一式から個別のパーツまで見応えがあった。レトロなデザインのものは、金属塊のゴツゴツとした見た目が格好良く、布地でできたものは体のラインにフィットする着心地の良さそうなものもある。さらには着装者の源を変成させて作った物質の、増幅安定ユニットが付いたものまであった。
トオルが興味深く店内を見回っていると、店員が戻ってきた。
「何か気になるお品物はありましたか?」
「どれも凄いです。ぼくは機元作りを学んでいるので、スーツ装備にも興味があります」
「それであれば、機元付け式ですね?」
勝負のことを忘れているわけではなかったが、探究心は尽きない。トオルはつい、店員に質問した。
「スーツアーマーには色んな仕様があるんですか?」
「そうですね、目的によっていくつかに分かれています。特殊付与のないプレーン式、機元付け式、紋章付与式、聖霊加護式、武装架装式など、それぞれ開発方針が違います。着装者の好みですとか、戦闘の慣習によって、さらに細かい設計も可能です。当店で取り扱いのあるものは、機元付け式とプレーン式が多いですね」
「騎士なら、その二種類がメジャーですか?」
「そうですね、騎士であれば、この二種類が主流になります。一部、武装架装式などを使う特別な方もいらっしゃいます」
「そうなんですね、勉強になりました。納入コードは分かりましたか?」
「今回のコードは、6U54B9E7になります」
店員は、主にタヌーモンス人の中で通用言語となっている、三つの文字で書かれたコードを見せた。
「分かりました、納品後の確認はお願いできますか?」
「はい、先に工房へ行っていてください。後から向かいます」
「かしこまりました。では後ほど、よろしくお願いします」
トオルは店の入り口から出ると、建物の脇にある細い小路に入った。
少し距離を取ってトオルの動向を窺っていた昌彦も、その後をつけて動き出す。




