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66.賭け勝負 ②

 春斗はるととの博打に乗ったトオルは、その後の授業を休んだ。寮の小屋に戻り、未完成の武具アイテムを完成させることに没頭した。開発のペースは通常以上に上がった。


 小屋へ戻る途中、ペルシオンから転送ゲートまで歩きながら、トオルはずっと策を練っていた。この勝負は、先に貪食者グラムイーターを確保した者が勝つ。春斗はすでに複数の貪食者について情報を持っているかもしれないし、これから一人ずつ洗い出すつもりかもしれない。だが、どちらにしろ勝つ自信があるからこそ、勝負を持ちかけたのだろう。


 トオルが春斗に勝つためには、とにかく時間を割くこと、そして情報を集めることだ。早く動き出すことが重要だろう。もしもこの勝負に負けたなら、春斗に使用人のように扱われ、自由に研究ができないどころか、開発したものは全て提供させられることは目に見えている。それは嫌だった。トオルはこの勝負に勝たなければならない。


 トオルはまず、貪食者が狙うターゲットの追跡調査が必要だと思った。彼らの目的は源気グラムグラカを吸い取ることだ。ターゲットに目星を付けていれば、いずれ手を出すだろう。身近なターゲットといえば、9組のミレーヌ、そしてリーゼロティだ。


 トオルがリーゼロティを貪食者の被害者かもしれないと思ったのは、今日の授業の時だった。ハルオーズ人の血が流れている彼女には、先天的にアクションスキルのセンスがあるらしい。守備だけでなく、攻撃も意外なほどに上手く、後半はトオルが抑えられることもあった。


 モーションも良く、グラムの使い方もトオルより上手な彼女になぜ弱いイメージがあるのか。そう考えていった時に、トオルは一本の線が繋がっているように感じた。今朝、クラスメイトたちで貪食者について話していた時の、彼女の不自然な表情や仕草。助けようとしても遠慮し、他人に迷惑をかけたくないとする思考パターンなども、被害者によくあるものと思われた。


 トオルはその違和感を見逃さなかった。


 尋常ではない速さでプログラミングをしながら、トオルは改めて、リーゼロティの偵察が必要だと強く思った。


 シンプルな機元ピュラト使い獣が間もなく完成した。テーブルの上には6体の使い獣が並んでいる。

 蝶、フグ、カブトムシは偵察用、サソリ、コウモリ、トカゲは護身用だ。どれも、アトランス界の電池で動かすことができる。

 トオルは蝶の使い獣に、リーゼロティの情報を書き入れていく。その一方、春斗の行動にも目を光らせておきたい。カブトムシには春斗の情報を書き入れた。

完成すると、部屋の窓を開け、蝶々とカブトムシを飛ばした。


 春斗との賭けがプレッシャーになっていたが、トオルは午後の製造所の仕事をサボるつもりはなかった。いつもの時間に製造所に到着し、作業服に着替えると、まずは今日の仕事の確認をするため、事務所に向かった。


 トオルは事務所に入ると、機元端ピュラルムを使って急な配送のリストを確認する。


「今日は13件か」


 ブルーノが事務所に入ってきて、トオルが頭を下げる。


「こんにちは」


「おう、もう来たのかトオルくん」


「はい、お客さんを待たせてはいけませんから。なるべく早く配送します。今日の配送は、ほとんどが常連さんですね」


「うむ。トオルくん、配送が終わったら、今日はホロス合金を錬成する配合を教えよう」


「ホロス合金!?装備や武器アイテムによく使われる機材ですよね?」


 新しい機材について学べるのは嬉しいが、今はそれどころではなかった。トオルの頭の中は、一刻も早く貪食者を捕まえることでいっぱいになっている。


「ブルーノさん……申し訳ないんですが、今日はちょっと急用があって……。機材の配合はぜひ教わりたいので、別の日にお願いできないでしょうか……」


「そうか……じゃあ、また今度にしよう」


「すみません……」


 トオルは一礼すると、事務所を後にし、すぐに倉庫へ行った。

 機材の配合など、新しい技術を得ることにいつも至上の喜びを感じているトオルだ。それが、別の日にしてほしいなどと頼んでくるのは実に珍しいことだとブルーノは思った。トオルが去っていく姿を、ブルーノは強く見つめながら見送った。


 倉庫に着いたトオルは、業務用の飛空艇テュルスで貨物の搬送作業を始めていた。しばらくすると、そこにブルーノがやってきて声をかけた。


「トオルくん、ちょっといいかね」


「はい」と、トオルは作業を止め、飛空艇から降りる。


「何かありましたか?」


「……うむ、それはわしのセリフじゃ。何かあったんじゃろ、言ってみなさい」


 トオルは少し悩んだが、春斗との賭けについて、かいつまんで話した。だが、春斗に秘密を握られていることなどは黙っていた。ブルーノはトオルの話を黙って聞いていた。話が終わるとしばらく「ううむ……」と唸り、険しい顔をした。


「トオルくん、今日の配送は常連客のだけで良い。新規の客はケティアに任せよう。それが終わったら今日は帰りなさい」


「でも……ぼくの仕事なのに、ケティア先輩に丸投げなんて、申し訳ない……」


「君は勝負に勝たなければならんのじゃろう?今は配送どころじゃないはずじゃ。気に入らん野郎にはしっかり勝ってこい」


「すみません……ありがとうございます」


 それからトオルは配送する貨物を業務用のポケット納屋なやに搬入し、製造所所有の飛空艇に乗って離着陸場から空に飛んだ。



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