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59.努力の成果 ③

依織いおりさん……」


「そろそろ補給が必要でしょ?」


「助かる。10秒だけ稼いでくれ」


「分かった、任せて」


 依織はソードを翳しなおした。ピットゴルスのうち、二匹はまだ生きている。傷を負っても獰猛さを失わず、低い唸りを上げた。


トオルはポケット納屋なやからポーション瓶を出し、ホールニンスをごくごく飲んだ。これで体力と源気グラムグラカが補充される。飲みやすく作られた甘酸っぱい液体で喉を洗うと、めまいはすっかり良くなり、爽快な気分だった。


 依織はなおも二匹と対峙している。

 依織から攻めれば逃げられる恐れがある。補給中のトオルに魔獣が邪魔をしないよう、依織はポジションを離れないようにしていた。


 緊張を破り、二匹が動き出した。正面から来た一匹を、依織は見事に斬り倒す。だが、もう一匹がその狭間を跳び抜いた。


「あぁ!もう一匹?!」依織が叫んだ。


 ピットゴルスが補給中のトオルの元へ、一直線に向かっている。


 鎌状の爪が襲いかかった時、トオルは最後の一口を諦め、タマ坊に命じた。


「タマ坊、ステーク・ウエッブで食い止めろ」


 タマ坊は腹部から縄の付いたクギを射出し、先制攻撃で攻めてきたピットゴルスを返り討ちにした。


 トオルは落ち着いて最後の一口を飲みきると、瓶をその場に放り、魔獣に掌を向ける。


「術式ロード、ファイアボルト!」


 今度は赤い章紋が綴られる。空気の温度が急上昇し、周辺から集められたダストがぶわっと大きく燃えた。橙色に燃える火球は放物線を描いて飛んでいき、まだ地面に落下する前のピットゴルスに当たると、その体は炎とともに、木っ端微塵に弾けた。


 ステージにはヘメストンだけが残った。コダマのビームマシンガンやスカーレットバンから身を守るように、今は四肢も首も殻の中に縮めている。まだ大きなダメージは受けていないらしく、殻の隙間から穏やかな呼吸音だけが聞こえている。


 ヘメストンは、ピットゴルスが倒された頃合いを狙ってとうとう首と足を伸ばした。地面を割るように強く踏み、口を大きく開く。


――気流が変わった?


 何かを吐き出しているらしい魔獣を見て、トオルが注意喚起する。


「依織さん、気を付けろ!」


 依織はヘメストンの奇行に見覚えがあるらしく、目をみはり、ひときわ大きな声で叫んだ。


「退避!!!」


戦車の破甲弾よりも数倍強い、空気圧縮弾だ。


 依織は素早く右へ回避し、タマ坊はボール型に変わると回転して避ける。


 逃げ遅れたのはトオルだ。

 視界いっぱいに迫る空気弾を見ながら、トオルは叫ぶ。


「ロード、ステップダーシュ!!」


 空気弾は爆発的な乱気流を起こした。

 トオルは間一髪、足元に作った輪状の章紋に乗って左へと離れていた。

 空気弾はステージ縁の結界に当たったらしい。二人は空気弾が断末魔に巻き起こした乱気流に耐えるしかない。トオルの髪が荒れ、依織のスカートが強く揺れる。コダマは翼で上手く風をいなしながら、威嚇の鳴き声をあげた。


 最初に戦闘態勢に戻ったのはコダマだ。ヘメストンの追撃を牽制するため、すぐにスカーレットバンを撃つ。


依織もイリジウムソードを翳した。


「トオルくん、大丈夫!?」


「平気だ!こいつ……殻の中に空気を溜めて圧縮できるのか?生ける自走砲ってところか」


「二発目を撃つ前に!止めて見せる!」


 依織が臨戦態勢に入ったのを見て、トオルもバックアップに入る。


「タマ坊、依織さんの援護を頼む」


 タマ坊はやる気に満ちた顔で依織を振り向き、目を光らせた。


 依織が飛び出す。ヘメストンの前足を斬りつけた。鱗のある皮ふは硬いが、イリジウムソードを前にすれば紙も同然。左足の半分ほどまで刃が入った。


 ヘメストンは痛みに反応し、依織に噛みつこうとする。凶暴な口で噛まれれば、腕は折れるだけでは済まない。切断される。


 依織はさっと跳び退いた。


 しかし、ヘメストンがさらに首を伸ばした。依織の距離では回避に不足だった。


「嘘!?いや……」


 ヘメストンが大きく口を開ける。


 その時、ヘメストンの首にボールが当たった。それは、ボールに変形し、加速回転したタマ坊だった。


 ヘメストンの攻撃が強制的に止められた隙に、依織はその場を離れる。徐々に魔獣狩りに慣れてきていると思っていたが、突然の窮地にゾッとした。


 タマ坊の攻撃が効いたらしく、ヘメストンは辛そうに首を揺らしている。タマ坊は地面に落ちる瞬間だけ鉄球に変わり、その後通常の形に戻ると煙幕を吐き出した。


 依織とタマ坊が善戦しているのを見ながら、トオルはコダマにも指示を与える。


「コダマ、ビームマシンガンの集中砲火で奴を押せ」


 コダマが鋭く飛びあがり、空中から数百発のビームの針を、たった一点に撃ち込み続けた。


 タマ坊は煙幕に巻き込まれる前に素早くその場を離れる。


 安全な場所まで距離を取った依織が、二つ目の試作品を手に持った。


「これで動きを止められるかも?」


 十分に源気を注ぐと、玉から刃が伸びた。

依織はソードを左に持ち替え、右手でアイテムを投げ飛ばす。


 煙幕の中、本当にヘメストンに当たったかは分からなかったが、電流の流れる音が聞こえ、首と足が縮んだ。しばらく、動きはない。


 依織はその場に留まったまま、そばにいるタマ坊に笑いかけた。


「ありがとう、タマ坊大好き」


 タマ坊は依織を見ると、嬉しそうに三度も目を点滅させた。それから、ヘメストンに注意を戻す。


「依織さん、この魔獣はどこが弱点なんだ?」


 大声に、依織も大声で返す。


「殻の底よ!」


――このデカさの魔獣を反転させる……相当な力が必要だな。


 トオルが無言でいると、依織が付け加えた。


「前に戦った時は、金田かなたさんがロープで動きを制してくれている間に、としや矢くんが気弾を撃って、ひっくり返してくれたの。それから全員で攻めかかったら倒せたわ」


 二人が話している間に、また空気を吸う音が聞こえてきた。煙幕ごと吸い込まれ、次第にヘメストンが見えてくる。また、空気圧縮弾をチャージしているのだ。


「依織さん、ちょっと、試したいスキルがある」


 トオルが叫んだ。


「分かった、私はどうしたらいい?」


「魔獣の注意を引きつけてほしい。それから、こっちに来て」


「やってみる」


 ヘメストンがまた首と足を伸ばした。煙幕は刺激が強かったのか、鼻孔を広げると、くしゃみをするように黒煙を大きく噴き出した。辛そうにも見える魔獣の前に、依織が立つ。両手にはイリジウムソードを持っているが、構えているだけだ。


「デカいばっかりで鈍くさい魔獣ね、私はここよ」


 言葉は分からなくても、その分かりやすい挑発は、ヘメストンにも伝わっただろう。ヘメストンは口を開け、空気圧縮弾の仕込みを始める。その間に、依織は素早くトオルの元へと走った。


 ヘメストンは依織が急に動いたため、大きな足を動かして巨躯を引き回す。


「コダマ、メガ粒子砲を用意。射出の時機は僕が下す」


 ピィーー!!とコダマが遠くで鳴いた。そして、翼を大きく開く。金属色の翼の裏側に細工された線を、トオルの源気が走る。源気が通った跡には眩しい光が放たれた。いつもは閉じている胸の構造が開き、エネルギーをチャージしていく。


 トオルも走り出し、依織と合流した。


「それで、どうするの?」


 トオルは依織に頷きかけた。だが、二人をまとめて吹き飛ばすように、ヘメストンの口から空気圧縮弾が吐き出される。その威力は一度目の倍近い。


 トオルは動かなかった。そして、近付いてくる大きな気弾に向かって一歩踏み出すと、掌をかざし、術式を読む。


「術式ロード、ミラーフォースシールド!」


 圧縮された空気が二人を吹き飛ばす直前。金色の術式が展開し、華麗な花が開くように聖なる光が広がった。


 光の花は空気圧縮弾を受け止め、耐えきったかと思うと、それをそのまま撃ち返した。

 自分の繰り出した突風に当たったヘメストンが転倒し、ステージに轟音が響く。


「コダマ、今だ、撃て!」


 コダマが灰青色の光弾を撃ち出した。

 光弾はまるで神の拳のように、ヘメストンの腹を殴った。そのたった一発が致命傷となり、魔獣は爆発し、光ながら散った。


 中空に、ステージクリアの文字が現れる。草原も爆発跡も全てなくなり、ステージは元の、何もない状態に戻った。


「なるほど。実際に使うとこんな仕組みになるのか。源気の消耗には一定の軽減効果があるけど、術式はあまり長く保たない」


 冷静に分析を始めるトオルに、依織は尊敬の眼差しを浴びせた。これまでにも何度もシミュレーション訓練はしている。だが、章紋術ルーンクレスタを使った戦闘は初めてだった。


「凄い……トオルくん、いつから章紋術なんて使えるようになってたの?」


「あぁ……術式回紋の法具を作ってみたんだ。グローブを作るのは問題なかったんだけど、術式回紋を書き入れるのに少し手こずって。妹とリュークに力を借りて、何とか試作品が作れたってところだ。まあ、まだ調整が必要だな……」


「いや、凄いよ。自作のアーティファクトで戦うなんて、錬術士れんじゅつしの中でも稀な存在でしょ。しかも、四つも術式を使ったなんて、本当に凄い」


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