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57.努力と成果 ①

クロディスが寝室に戻ったあと、トオルは指令回紋マンダキューの勉強と研究を続け、飛空艇テュルスのルールについても勉強した。その後、さらに三時間作業をして、ようやく学園での初日が終わろうとしていた。トオルは二階のもう一つの寝室に入った。6畳の部屋は少し手狭だが、大きめのシングルベッド、小さなローテーブル、本棚、壁にはめこまれた洋服ダンスがある。一人が生活するには十分で、ベッドに座ると木枠の窓から庭の湖がわずかに眺められる。寝室としては上出来だ。

 ローテーブルにはオレンジ色の石が皿に置かれている。これが暖炉の役割を果たし、少し水を注ぐと光と熱が起きる。この不思議な石はルトラス水晶と言い、木材や石炭の代わりに、タヌーモンス人がよく使っている生活資源だ。断熱の章紋が皿の周囲をゆっくりと回っている。


 暗雲に覆われた夜空。光はわずかに差している。強い風が吹くシューシューという音とともに、巨木の枝や葉がざわざわした。

 眠る前にもう少し錬晶球れんしょうきゅうの練習をする。そして、錬晶球をマスタープロテタスに戻し、カード状のそれをローテーブルに置くと、トオルはようやく横になった。両手を枕にしたまま、トオルはまだ眠らない。


――そもそも錬晶球は、霊幻玉れいかんぎょくという巨大で貴重な石を模して、指令回紋と核を組み入れた人工物だ。使い手の源気グラムグラカに反応し、その特性によって変化する。回紋はどれも長いが、もっと簡略化できるはず。指令回紋を書き直すだけで、錬晶球はマルチアイテムになるだろう。必要なのは資材とドッター……。どうやって集める?依織いおりさんたちに相談してみるか……。


 そこまで考えて、トオルは大きな欠伸をした。ベッドに倒れるとすぐに睡魔に誘われる。部屋に物が少ないから、余計にリラックスした気持ちになるのかもしれない。頭の回転が鈍くなる。アトランス界に来てからはいつもそうだった。


 安らかな気分になり、目を閉じる。アトランス界の長い一日に終止符が打たれた。


 翌日、トオルは無事に飛空艇のライセンスを取った。

 製造所ではできあがった製品の納入など出納管理を任された他、急な注文が入った際の配送も頼まれた。大量の機材が入った業務用のポケット納屋を持って、飛空艇で飛んでいく。


 マニュアルは主にケティアが指導してくれたが、たまにブルーノからも教わることができた。トオルはまだ大きなミスを起こさずにいる。急な配達にもしっかりと対応できるようになると、製造所の注文はすぐに倍に増えた。


 トオルの努力と気合いを観察して、ブルーノが声をかける。そして、資材の配合の比率やコツ、また機材パーツの製造法についても、一つずつ教えていった。

 元々、機元ピュラト作りの経験があり、才能もあるトオルだ。教わって作った試作品の質は高く、ブルーノはますますトオルを気に入り、さらに技術を伝授していった。


 一方でトオルは、休日以外はしっかりと学業に専念し、一つの授業も欠かさず出席した。時々は依織の戦闘シミュレーション訓練にも付き合い、実戦訓練の経験も着実に積みつつある。ここで仕入れた情報を元に、タマ坊とコマダの調整も行っていった。


 トオルの手元には次第に資源も集まり始めていた。直接的なものは、製造所でケティアからもらうシンプルな素材。他には依織や穣治(じょうじ)たちが集めてくれた素材を、クロディスに頼んで金属資材に錬成してもらったものもある。


 授業では理論を学び、製造所では実作を学んだ。トオルは少しずつ、オリジナルの機元を作る力を養いつつあった。どんなものを作りたいか、どんな材料を使うのかを考え、必要な指令回紋を書いていく。それは、心を写実的に描く絵師のような作業だった。そして実物ができてみると、彼の心にはまた新たな発想が次々に湧き出してきた。


 機元作りの経験を積み重ねることで、指令回紋の研究も深みを増していく。トオルは機元の設計から実作まで、指令回紋やパーツの組み合わせ方など、全てのプロセスを習得していった。


 トオルが作りたい機元アイテムには三つのジャンルがある。

一つ目は誰でも使えるマルチな武具。

二つ目はタマ坊やコダマに似ているが、自己意識を持っていない小型の機元使い魔。

三つ目はシンプルな章紋術ルーンクレスタを指令回紋に書き入れる法器アイテム。これは自分自身が新たな戦闘スキルを備えるために必要だと感じた。


 もともとロボット作りに長けていたのが奏功したのか、新しい学問にも関わらず、トオルにはよく理解できた。それでも、これまでに触れたことのない章紋術や術式回紋についての知識は少々難しい。幸い、クロディスが家庭教師のように不足を補ってくれたり、リュークに実技の経験について訊ねることができたため、研究は何とか進んでいた。新たな専門領域を開拓していくのは、聞いたこともない新大陸を探索するようなものだった。荊の道を切り拓くように、トオルは章紋術と術式回紋の技術を身につけていった。

 

 授業以外の時間も無駄にはできない。平日はブルーノの製造所に通って仕事をしたり、ペルシオンで真面目に勉強したり、依織の戦闘訓練に付き合ったりと忙しい。休日は時折クロディスと出かけることもあったが、兄妹二人きりで章紋術の勉強会をすることも多く、ほとんどの時間は機元と指令回紋の勉強、研究に費やされた。


 この間、基礎スキルについての授業では、オリヴィアから『気測カピラー』、『気合コルモス』、『気癒ヒール』、『転気トラティオ』という四つのスキルを教わった。


『気測』は、自分以外の特定の源気を覚え、その位置や、現在地からの距離を測定する探索系のスキルだ。


『気合』は自分のグラムを特定の場所に集中させる、初歩的なスキルだ。これは錬晶球の訓練の応用であり、錬晶球がなくても源を集められるようになるための第一歩だ。『気合』を習得することで、他の技やスキルのために、源を強く集められるようになる。


『気癒』は治療系スキルで、源気を患部に集めることで、傷を治すことができる。


『転気』は補給系スキルで、誰かが源気を過度に消耗して体調不良を起こしたときや、体力が低下している時、怪我をした時などに、自分の源を分け与えることで回復を促すことができる。


 そうしてセントフェラストでの時間は、気付けば三週間(24日間)も過ぎていた。トオルは依織たちにクロディスを紹介したいと常々思っていたが、五人の都合が合う時間がなく、その約束を果たせないでいた。


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