48.弟子入りする ⑤
「体力に自信はありませんが、何とかして耐えます」
「何だその女々しい声は!男ならもっと威勢の良い返事をしろ」
「はっ、はい!頑張ります!是非やらせてください!」
トオルは壊れるくらい腹筋に力を入れて、精一杯の大声で言った。
「お前、弟子入りに来た目的は何じゃ?」
「ぼくは、機元作りに興味があります。なので、パーツの製作現場に入り、その手法を学びたいです」
圧の強い老人との問答に、トオルは何故、弟子入りする心苗たちが続かなかったのか、少し理解できた。ブルーノはトオルの肩に手を置いて、力をこめる。
「個性がない!もっとはっきりと、自分の主張をしてみなさい!」
きっと、これまでの心苗たちも似たような志を語ったのだろう。
「ぼくは機元を作りたいです!だから、機材を手に入れたいと思ってここに来ました」
「うむ、そうか。ただ機材を手に入れてもつまらんぞ。本気で機元を作りたいなら、材料の作り方を知ることの方が、意義があるじゃろう」
「はい、ぼくもそう思いました。勿論、理論などを学ぶ関連授業は取りましたが、現場での実技経験が必要だと思います。依頼内容には書かれていませんでしたが、ぼくはそれが知りたいです」
「うむ、良い心意気じゃ。もしお前が頼んだ仕事をこなし、その上で努力できるなら、わしの脳味噌に刻まれている機材500種の錬成のコツを教えてやろう。じゃが、お前の仕事ぶりが不適切であれば、ただちにクビにする。仕事で分からないことがある時は、遠慮なく聞きなさい」
厳しい言い方ではあったが、質問を許されたことは救いだと思った。
「はい!ご指導よろしくお願いします!」
大きな掌が、トオルの肩を叩き、さらに圧が加えられる。
「よかろう。わしの弟子になりたいなら、まずは体力が必要じゃ。しっかりついてきなさい」
そう言っている間にも、トオルの肩は押し潰されそうなくらい痛くなっていた。
ブルーノのように飛空艇で貨物を運ぶならば、何故そんなに体力が必要なのだろうと思ったが、トオルは何も言わなかった。錬成のコツを伝授してもらえるなら、辛い仕事であっても耐える価値がある。
「……はい!!」
「さて、続きは事務室で話そう」
そう言ってブルーノが歩き始めたので、トオルはその後を追って事務室までやってきた。
接待室のソファーに腰掛けて待っていると、ブルーノは自分のデスクに触れた。画面上のスイッチを圧すと、内線で女性と繋がった。
「はーい、どうしたの?」
「事務室に来てくれんか?」
快活な女性の声が聞こえる。代表が相手なのに、随分ラフな口調だ。
「え~、今、錬成調合の数値の調整してるんだけど、何?」
「今日から新しい弟子が入るんじゃ」
「また〜?!」
「作業マニュアルの説明はお前の仕事じゃろ?」
「分かった、今からいくわ!」
内線が切られると、すぐにブルーノが接待室に入ってきてトオルの前に座った。
「待たせたのう。わしの娘がこっちへ来る、細かな作業説明は娘から受けてくれ」
「分かりました」
娘が来るまで少しかかるのか、ブルーノが話しはじめる。
「お前、すでに機元を作ったことがあるんじゃな?」
どうやら申請書には目を通してもらえているようだ。
「はい」
「作品は持ってきたか?見せてくれ」
「分かりました」
トオルはまた、ポケット納屋からタマ坊を取り出した。
「ほう、これは、魔獣をモチーフにしたのかね?」
床を這うタマ坊を、ブルーノは両手で拾いあげた。
「はい、地球界の指令回紋で書いた、意思を持つ機元です」
ブルーノが顔をすぐそばまで近づけたので、タマ坊はプレッシャーを感じたのか待機モードに変形した。
「うむ、聞いたことはある。それにしても、随分と大きな玩具じゃのう。……でも、もっと大きく作れば、面白いかもしれんな」
「資材に制限があったので……。それに、モチーフにした動物も、そんなに大きいわけではないんです」
「自分の意思があるというのは?」
「アトランス界で言えば、指令回紋でできた、模擬人格です」
大きな玩具と言われ、やはり自分の作品は未熟なのだと感じた。だが、穣治の話がメンタルに効くワクチンのように免疫をつけてくれていたので、トオルの心が折れることはなかった。
タマ坊を見ながら、ブルーノは興味深げに溜め息をついた。
「指令回紋で機元に人格を与える技術か……。それは、過去に没落した技術じゃのう」
「没落した技術ですか?」
「およそ150年前のことじゃ。機元の元祖マスターである、ベリー・トーナト・ヘリウットにより、指令回紋で虚像意識を作り、人格や自己思考力を与えた機元が一時的に繁栄した。しかし、この技術はあまり長くない期間を経て、没落したのじゃ」
それを聞いて、トオルは珍しく、口を大きく開いた。
「え……何故ですか?」
「わしが生まれる前の時代のことじゃ。文献から幾つかの説があることは分かっておる。虚像意識を持った機元は、主の命令に従う。だからこそ、作り手がどんな思想を持っているか、そしてどんな目的のために機元を作ったかが問われるようになる。じゃが、指令に従うだけの機元では、主が死んだ後、無用の長物となる。しかし、自由意識や判断能力を持つ機元は暴走し、人間に逆襲するリスクがある。あの時代は1000年種族戦争の時代じゃ。不安定な技術は、新たな火種とならぬよう、使い控えるようになった」
ブルーノは説明しながら、険しく眉を寄せた。
「もう一つの説は、虚像意識を持つ機元を多用していると、人間は機元に依存し、生物として進化する能力を失うリスクがある。それは、人間の感性や想像力を阻み、文明が機元に完全支配されるということじゃ。実際、虚像意識を多用したハルオーズ人のある種族では、機元化が進み、進化や繁殖の力を失う悲劇が起きておる。一方でミーラティス人たちは機元の力に頼らず、技術的進歩を遂げた社会を築いておる。このような例から、過去の人々はこの技術をなるべく使わないようにしてきた。それが今、タヌーモンス人が生き物としての誇りを保っていられる一つの理由じゃ」
今、地球界でも擬人人形に対して疑問を持つ人がいる。アトランス界の社会が人工知能の技術に頼らない手法を選んできたと知り、トオルは自分の道が間違っていたような気がして残念なような、切ない気分になった。
トオルは、相談員のホクシーとのやりとりを思い出してゾッとした。もしあの時、擬人機械を作る理由が単に武器作りのためだったなら、トオルは問題児扱いされていたかもしれない。
「今の時代、虚像意識を作る指令回紋の技術は、機密扱いとなっておる。連邦をはじめ各国の防衛兵団など、一般市民が関わらない危険性の高い仕事でしか使えん。あるいは……」
「あるいは……?」と、ブルーノの真剣な表情を見ながらトオルが訊ねた。
「フェイトアンファルス連邦に反する、人員の乏しいコミュニティーにおいては多用されている」
トオルは飛空船での出来事を思い出す。デストロンドの連中は、フェジと呼ばれる戦闘機元を使っていた。
「では、街や学園で機元や機元端を動かしている聖霊とは、何者なんですか?」
「あれは魂を宿した核で動かしているんじゃ。わしの工場で働く機元も、皆そうじゃ」
「魂っていうのは、人の思念体のことですか?」
「そうじゃ」
「魂で、機元を動かす……?」
「それはわしの専門外の話じゃが、魔導士が章紋術を錬成し、安定させるスキルを持っておる。死後、未練があってこの世に残っている者の魂や、遥かなる年月を彷徨い続けておる亡霊、地霊などを聖霊にし、機元の動力とするのじゃ」
魂を機械のコアにするなんてことは、チャンネルゲームやドラマのおとぎ話だと思っていた。そもそも地球界では、魂やお化けの存在も半信半疑という人が多い。それをアトランス界では、存在を認めるどころか、技術を確立し、様々なところで活用している。トオルは驚いた。
「現在主流となっておる第五世代の機元は、より安定しておる。人不足の問題は解決されたが、まぁ、他にも色々と問題はある」
「どんな問題ですか?」
タマ坊が床に下ろされる。
「機元と言っても普通の人間と変わらん。核に入れた魂には、それぞれ個性があるのじゃ。例え指令回紋があったとしても、ミスが起きることがある。指令に不満があればストライキだってする。あくまで人不足解消のための代替品じゃからな。開発や経営のような頭で判断する必要がある仕事までは任せられんのじゃ」
「そうなんですか……」
ブルーノの心脈リズムは太鼓を叩くように熱い。この歳で、こんなに強い脈を打って大丈夫かと心配になるほどだったが、意見を言えば怒られそうだと思い、トオルは興奮気味のブルーノに頷くばかりだった。




