46.弟子入りする ③
一方、別の相談室に入ったトオルは、ミーナと同じ帽子を被った、ミディアムヘアーの女性と話していた。
「そうですか、地球界の機元コンテストで優勝という実績は悪くないですが、今、実際の作品を見せていただくことはできますか?」
女性はあまり感情のない顔で、トオルに言った。
「あ、はい。少し待ってください」
――良かった、今朝、クロディスのアドバイスを聞いてタマ坊を連れてきてなかったなら、ここで断られていたかも。
トオルは購入したばかりのポケット納屋から、待機モードのタマ坊を取り出して床に置いた。
「タマ坊、通常モード」
タマ坊は少しの雑音も立てないままで、背骨の鱗甲を縮ませ、手足を伸ばして滑らかに変形した。周囲の環境を確認し、トオルの居場所と相談員の女性に反応すると、二人に這い寄り、女性の足元、10センチ手前でピタリと止まった。そして、後ろ足で重心を取りながら二足で立ち、首を伸ばす。そして前足を合わせると、挨拶するように何度も振った。
「これが、ぼく一人で作った作品です」
「この子のコンセプトは?」
「この機元は、地球界の指令回紋でできていて、自由意志を持っています。動力にぼくの源気を使って、動かしています」
相談員はしばらくタマ坊の行動を見ていたが、表情を変えずにトオルの方へと向き直る。
「地球界の指令回紋では、機元の虚像意識で動かすことができると聞いたことがあります。君はこの子をどんな目的で、どんな場面で何をさせるために作りましたか?そして、機元に意識、意志を与えた理由は?」
――鋭い質問だな。擬人回路で作ったロボットは、作り手の指令に忠実に実行するからか。
トオルは自分の思いを的確に伝えるため、しばらくタマ坊を見ながら考えた。そして、相談員をまっすぐに見て答えた。
「この機元ははじめ、家の掃除をするために作りました。でも、アトランス界へ連れてくることになり、ガード機能を付けました。ぼくはこの子を、人間を理解し、深い絆を作れる、共に生きられるパートナーになるよう、作りました。使い獣のような役割です」
「なるほど。君が一件しか選ばなかった決心が伝わりました。ただし、Mr.バルツァーに弟子入りした者は、心が折れ、途中で辞めてしまう者も多いです。君は現場で機元のパーツ作りを学習したいのだと思いますが、雑用が多くても耐えられますか?」
「それは望むところです。ぼくは何でもやります」
「分かりました。試す価値はあると思います。では正式に申し込みの手続きをしましょう。他に問題がなければ、Mr.バルツァーの製造所の場所を、あなたのマスタープロテタスに送ります」
「問題ありません」
相談員がテーブルをタイピングすると、トオルのマスタープロテタスに製造所の情報が届いた。
「それでは、ご武運を祈ります」
トオルが玄関に戻ると、依織が待っていた。壁に背を任せている依織は、遠目に見ても落ち込んでいる。それでも、トオルが来たことに気付くと笑顔になり、駆け寄ってきた。
「トオルくん、どうだった?」
「ああ、申し込みまでは進められた」
「え!良かったね。一件しかなかったのに、凄いね」
「依織さんは?」
依織は気恥ずかしそうに苦笑した。
「チャレンジするって言ってた5つは、全部ダメだった。レベルランクが低くても、専門職の依頼は難しいね」
「そうか、それじゃ、依頼はどうするんだ?」
依織は断られた理由を詳しくは言わなかった。強がるように笑っているが、その悔しさは心脈から読み取れた。
「三つのカフェレストランに申し込みしてみた。やっぱり穣治さんや隼矢くんみたいに、魔獣を狩って、大人しく資源をポイントに交換するしかないかな。学園の教養科目でトップ成績を取れば、何とか貯まる?」
「……依織さん、それじゃ、やりたいことを諦めるのか?」
依織はトオルを直視できず、目線を逸らす。笑顔を絶やさないのは、彼女の強がりだ。
「ううん、スキルも経験も足りないし、そもそも勉強不足だから。レストランのバイトでポイントを稼ぎながらスキルも習得していって、落ち着いた頃にまた、何がしたいか考えてみる」
「そうか」
挫折して途方に暮れる気持ちはトオルにも分かる。だから安易に「依織さんなら大丈夫」などという激励の言葉は言えなかった。だが、高校時代、才色兼備の優等生だった依織だ。この不安も一時的なもので、きっと乗り越えるだろうとトオルは思った。
二人は紹介所を後にした。大通りに出ると、依織が立ち止まった。
「トオルくん、私このままレストランの面接に行くつもりだけど、トオルくんは?」
「ぼくもこれから早速、製作所へ出向くつもりだ」
「うん、お互い頑張ろうね。結果が出たら教えてね?それじゃ、また明日」




