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45.弟子入りする ②

「ああ、一件だけど要望書を送った。依織さんは?」


「15件も選んじゃった」


「多すぎないか?」


「職種は5つ選んでみた。5件はチャレンジで、残りの10件はカフェやレストランのアルバイトみたいなもの。長期だったけど、誰にでもできそうな日常スキル系は、誰かに取られる可能性もあるから多めに選んでおいたの」


 前向きにそう言った依織に対し、トオルは訊ねた。


「チャレンジっていうのは?」


「小さなアクセサリーのデザインが三件。あとは、長期の資材集めと、使い獣のお世話が一件ずつ」


「なるほど、アクセサリーアイテムのデザインか。……ぼくは詳しくないけど、依織さん、デザインが得意なのか?」


「可愛いアクセサリーには興味があるし、シンプルなものなら作れるから。必須条件が、金属が作れることだったから、もし私にできるなら、やってみたいなって」


「良いね。使い獣のお世話っていうのは?」


 依織には難しい仕事ではないかと思ったが、せっかくのチャレンジを潰さないよう、トオルは彼女の意思を尊重して訊いた。


「使い獣が同行できない場所に行く時に、一時的に預かって餌をあげたり、遊んだり?」


「犬や猫が好きなのは分かるけど、依織さんは魔獣やお化けが苦手じゃないか。そんな仕事、耐えられるのか?」


「お化けは今、関係ないじゃない?」


 依織が首をかしげる。トオルは心配げに依織を見た。


「使い獣を多頭飼いしている魔導士や操士はかなりいる。その中には、魔獣を使い獣にしている人も多いらしい。例えばだけど、虎やワニみたいな凶暴な肉食獣でも、依織さんは平気?」


 依織は時が止まったように固まっていたが、自分に言い聞かせるように頷いた。不安もあるが、動物が好きなら大丈夫だと、今さら撤回する気はなかった。


「見た目が怖い魔獣だと分からないけど、使い獣は多少、躾けられているはずよね?きっと、何とかなる。やってみないと分からないじゃない?」


 依織の心脈は、少し無理をしているように聞こえる。


「依織さん、今見つけた仕事、ずっと続けるつもり?」


「それはないでしょ。今探してるのはあくまでバイトだから、自分の好きなことで楽しく稼げるなら、何でもやってみたい」


「そうか」


 依織はただ実績ポイントを稼ぎたいだけで、それが将来のためになるかとか、自分のやりたいことに繋がるかどうかは考えていないのだろう。複数の職種に同時に登録したり、誰でもできる飲食店の手伝いが大半というところからも、彼女がその仕事に本気でないことは分かる。


「それより、トオルくん、一件だけでいいの?」


「うん、専門職だから。ま、現状のぼくに満足してもらえなければ、採用されないだろう」


「え、じゃあ、採用されなかったらどうするの?」


「その時は指令回紋の勉強に専念するもの悪くないと思ってる。ぼくは5000ドル(=約1万円)あれば一ヶ月生きられるだけの節約生活に慣れてるから。ポイント消費しなくても、学食は食べられるし、平穏な暮らしはできそうだ」


「そうなんだ」


 オリヴィアが言っていたように、APポイントは後者の掃除や授業に皆勤すること、教養科目のテストの点数など、日々の生活でもコツコツと積み上げることができるはずだ。

 高校生の頃にはバイトで生活費を稼いでいたトオルにとっては、贅沢は縁遠いものだ。生活は最低限のレベルで問題なく、高級なレストランも、ブランド品も、衝動買いも、彼には全く必要がなかった。彼はポイント消費することなく、十分に生きていける自信があった。


 そしてようやく、受付相談の依織の番号が呼ばれた。


「5176番の方、16号室へお入りください」


 依織は指定された相談室に入った。


 四畳強の相談室には、テーブルと椅子が二つ。依頼のレベルが低いからか、間仕切りは低い壁のみで、入り口も布カーテン一枚しかない。隠蔽性は全くなく、大声で話せば隣の部屋の内容がこちらに聞こえてくるような場所だった。


 依織が入ると、相談室には女性が待っていた。紺色の柔らかい生地の帽子を被り、長い髪が美しい女性だ。


 自信満々で話し始めた依織だが、談話が進むにつれ、笑顔は硬くなり、眉根が浮き上がってハの字になっていく。


「Ms.ウチホ。あなたはアクセサリーデザインの依頼には採用されないでしょう」


 どうやらこの相談は心苗のためだけではなく、依頼主に相応しい人材かどうか事前に確認する意図があるようだ。


「ミーナさん、私の源は100%のイリジウム金属を作ることができます。実物の創作経験もあります。なのに、どうして採用されないんですか?」


 依織は諦めず、強みをアピールするために、ミーナの目の前でイリジウムの腕輪を作った。それはたった五秒のうちに作られた。依織が腕輪をテーブルに置くと、すぐに分析データが宙に映される。ミーナの表情は変わらない。


「確かに第四密度の、完璧なイリジウム金属ですね。騎士としてさらにスキルを磨けば、個人用の武装装備を作ることができるでしょう。でも、アクセサリー系のアイテムとしては、未完成品です」


「……未完成品、ですか」


 依織は少し萎縮したように、自分の作った腕輪を見た。


「デザイン自体は、シンプルで悪くないでしょう。ただ、これがどんなコンセプトで作られたものなのかが伝わってきません。あなたはこの腕輪に、どんな性質を付与しましたか?」


「それは、特にはありませんが……固くて、破損しない自信があります」


「第四密度のイリジウムは、物質として固すぎるものです。一度生成したら、再加工は難しい。創作者がコンセプトや造形についてよく考えなければ、売れるものにはならないでしょう」


「コンセプトについて、もっと詳しく教えていただけますか?」


「作品の見た目のことだけでなく、例えばこの作品が、使用者にどんな効果を与えられるか、ということです。動きが速くなるとか、身体が頑丈になるとか、攻撃スキルの命中率が上がる、体質改善できる、そういう何かです」


 シンプルに自分の源で実物を作ることしかできない依織には、他のスキルについては一つも分からない。


「それは、どうすればできるようになるんですか?」


「『章紋術』や指令回紋で製品に機能を付けなければなりません。それがなければ、ただの工芸品です。街のフリーマーケットであれば良いですが、あなたの希望する三件は、どれもブランドアイテムを作る団体ですから。コンセプトのない物を作る『作る士(エクスゴジト)』が採用されることはないでしょう」


 依織はそこまで聞くと、アクセサリーの依頼を諦めた。


「……それなら、指定資材を集める長期依頼はどうでしょうか?」


「この依頼は、地球界からの新入生には向いていないでしょう。あなた、今まで魔獣狩りの経験はありますか?」


「ありませんが、これから頑張ってやってみたいです」


「残念ですが、今のあなたには向いていないと思います。戦闘経験も魔獣狩りの経験もないとなると、指定資源の調達効率が悪くなります。少なくとも、魔獣の生息場所や材料採取情報を把握できている方でなければ、依頼主が採用しないでしょう。魔獣狩りや材料採取の経験を積んでから、改めて申し込むことをおすすめします」


 これまで優等生で来た依織にとっては大きな挫折感だ。自信の柱が折れた気がして、苦い顔のままでうなだれている。


「使い獣のお世話は、どうでしょう……」


 依織は最後の賭けのつもりでそう言ったが、ミーナは苦笑した。


「本当に残念ですが、あなたは体質的に、魔獣の毛髪に対するアレルギーがあります」


「確かに、犬や猫の毛のアレルギーはありますが、そんなに酷い症状じゃないです……」


「昔、ある心苗が使い獣のお世話をしていて、アレルギーで亡くなったことがあるんです。同じトラブルが起きないように、アレルギーのある心苗には使い獣のケアをさせないことがマニュアル化されました。魔獣がお好きであっても、こちらの依頼は受けていただけません……」


 チャレンジしたいと願った三つ、全てを断られ、依織は「えぇ~、そんなぁ!!!」と涙目になった。

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