43.思いを交わせる所 ④
「金田さん、さっきの話ですけど、APポイントをもっと稼ぐ方法ってないのかな?」
「うむ、何か依頼を受けるのが早いと思うぞ。紹介所に出ている仕事は信用がある。依頼主が途中で逃げたり、無駄働きするトラブルがない。仕事は分野やランク別に分かれて多数あり、安全にポイントを稼げる。ただなぁ」
と、穣治が顎を触った。
「俺たち新苗は何せランクが低い。戦闘の記録、経験値ともに少ないから、しばらくはコツコツと地味な依頼を受けていくしかないだろうな」
「ランク分けかぁ……」と、依織は初心者にとっての厚い壁を嘆いた。
「難易度の高い仕事や、技術を問われる仕事もあるので、ある一定のランクに達していないとそもそも受けられない依頼が多いんです。特に戦闘の依頼では命に関わりますから、依頼を達成できなかったり、他のトラブルを起こしたり、無駄死にしたりしないためだそうですよ。フェイトアンファルス連邦では人命がとても大切にされていて、ランク制限は厳しく守られているそうです」
「美鈴ちゃん、詳しいね?」
「私たちもAPポイントを稼ぎたかったので、午前中、大輝くんと一緒に紹介所を訪ねたんです」
「凄い、早いね」
「チャンネルゲームで遊んでいたからですかね?フェイトアンファルスやミーラティス人の国では貨幣というものはないですが、APポイントを稼ぐことは、経済的な豊かさを得ることと同じ意味だと思います」
穣治が頷いた。
「うむ、さすがだな、ゲームの経験が活きている」
「ちなみに二人は何か依頼を受けたの?」
トオルはハンバーグを頬張ったまま依織の方を見た。
「私はまだ戦闘スキルを学んでいないので、イグニードカレッジの図書館の管理人の助手になりました」
「へぇ~、どんな仕事なの?」
「セントフェラスト領内には38の図書館があるんですが、私のカレッジの図書館に依頼された本や情報の調達ですね。短時間でもよくて、必要な時は本を直接配達することもあるようです。自由に本を読んで良いっていうところが、けっこう気に入りました」
「それは美鈴ちゃんに合った、良いお仕事だね。隼矢くんは?」
大輝ももう食事を終えていて、依織に訊かれると腕組みをした。
「俺は、指定された魔獣を倒すこと。それと、指定された材料を集めることだ」
「それは戦闘が必要な依頼の良い例だな」
「指定された魔獣を倒せば良いだけだから、分かりやすくて俺向きだと思う。途中で遭遇した別の魔獣を狩れば、その材料もポイントに交換できる。俺の今のレベルなら、魔獣を一匹一匹狩って、地道にAPポイントを拾っていくしかない」
「なるほど、それは一石二鳥の稼ぎ方だな」と、トオルが頷いた。
「そっか……ランクって、どうやったらあがるんだろう……」
「方法は二つだな、一つは仕事依頼を受けることで一定の経験値を積むとランクを上げられるらしい。もう一つは、学内で定期的に行われる昇格試験でランクを上げられるようだ。ちなみに、新入生のレベル試験は今だ」
「金田さんはすぐに受けるんですか?」
「ああ、一応受けるつもりだ」
「良いなぁ。より高いランクの依頼を受けられるようになったら、もっと効率よくポイントが稼げるんだよね?」
「金田さんは経験者だから。すぐに活動するんですか?」
「活動?」
依織は穣治とトオルを交互に見て、続きを促した。
「金田さんはアトランス界へ未知の物を知りたくて来た。冒険者として、すぐにでも活動したいんじゃないですか?」
依織に答えると、トオルは穣治を見た。
「そうなんだ……」と依織も穣治の方に視線を移す。
「いや、それは無理だった。入学直後の新入生はイトマーラからの出国を認められていないらしい。あのテロリストのボスだって強かったが、この世界にはあいつよりもっと強い奴がいるだろう。冒険をしてきたからこそ、自分の技量不足も分かってる。自分のレベルに合わない山に登るのは、死にに行くようなものなんだ」
穣治はすでに今後の目標をはっきりと見据えていた。力強い言葉で続ける。
「今期は再修行で、今あるスキルをさらに磨いていく。イトマーラ国内の依頼もできる限り受けながら、広範囲の情報収集もしていく。様子を見ながら、早ければ一年の下半期、あるいは二年の上半期には冒険に出たい」
前向きな口調だったが、その肩は少し固そうに見える。
「経験者の金田さんでも技量不足なんて……」
「まっ、どんな世界にも摂理がある。その命綱に従ってさえいれば、何とかなるさぁ」
「じゃあ、元々のプランを延期にしたんですか?」
「よくあることさ、冒険の前には充分な準備が必要だからな」
「それなら、金田さんが仕事を探すのは、ランク評価試験を受けた後ですかね?」
「そうだな。それまでは隼矢くんと同じような、魔獣退治の依頼を受けるつもりだ」
一歩先へ進んでいる同級生の話を聞き、依織はトオルに訊ねた。
「トオルくんも、もうどんな依頼を受けるか考えたの?」
「ぼくは機元パーツの製造所で手伝いの依頼があれば受けるつもりだ」
「ブレないんだね。……私はどんな依頼を受けられるかな。魔獣退治も悪くないけど、日常系の、長期的な依頼があれば落ち着いてできるのにな。ねぇトオルくん、午後の空いた時間、付き合ってくれない?紹介所に見に行こうよ」
「ああ、良いよ」
「それなら、午後の5時間目の後はどう?」
「うん。待ち合わせはどこ?」
「ペルシオン西棟の入り口で。また忘れちゃダメだよ?」
「うん、分かった」
曇っていた依織の顔が少しだけ緩んだ。トオルはジュースを飲みながら、依織の変化にほっとしていた。
――初心者のぼくと違い、依織さんならきっとすぐに良い仕事が見つかるだろう。それにしても、優秀な人でも孤独な時ってあるんだな。ぼくは一人きりでいれば気楽に過ごせるし、都合が良いと思うけど、さっきの依織さんの心脈パターン、随分不安そうだった。シミュレーション訓練だって、一人でも行けるはずだ。どうしてそんなに不安なんだ?環境に慣れないせいか?それとも……。




